「国内利用率わずか5.4%、約9割が海外サービスを利用」。8月29日にGMOインターネットグループから発表された「GPUクラウド利用実態調査」の見出しにはちょっと驚いた。生成AI全盛期の最中、GPUの需要はうなぎ登りだと思っていたが、GPUクラウドの利用はまだまだだ。果たしてどの程度の需要が望めるのだろうか?
「2000基のGPUはすでに売り切れた」と聞いたばかりなのに
GPUクラウドは文字通り、AIの計算処理に不可欠とも言えるGPUをサービスとして提供するクラウドサービス。複数のGPUを搭載したGPUサーバーや複数サーバーのクラスターをサービスとして利用できる。
GPUクラウドはGPUの大量調達能力に加え、電力を消費するため、潤沢な電力供給が可能なデータセンターにしか設置できない。そのため、今まではサービスとして提供できるのは、グローバルのパブリッククラウド事業者がメインだった。しかし、最近では国内の事業者もGPUクラウドの提供に積極的。先週はさくらインターネットの事業戦略発表会に参加してきたが、整備済みの2000基のGPUはすでに売り切れと聞いたばかりだ(関連記事:久しぶりの事業説明会でさくらインターネットの田中社長が話したほぼ全部)。
しかし、「GPUクラウド利用実態調査」ではGPUクラウドの認知度の低さが浮き彫りにされていた(GMOインターネットグループ「GPUクラウド利用実態調査」~国内利用率わずか5.4%、約9割が海外サービスを利用~)。なにしろ47.2%がGPUクラウドを「今回の調査で初めて知った」と回答し、実際の利用率はわずか5.4%にとどまっていたのだ。しかも、利用している5.4%のユーザーも利用しているサービスの約9割は海外サービスで、調査でも国内サービスと圧倒的な差があるという。多くの人がGPUクラウドを知らず、使っていてもほとんど国内のサービスは利用していないというわけだ。
まだまだ知られてないGPUクラウド市場拡大の鍵は?
GPUクラウドを知らないユーザーが多い背景には、ジャンル自体が確立されていないという点が大きい。「GPUサーバーを並べたもの」くらいの認知で、「知っているサービスだが、GPUクラウドだと思わなかった」「パブリッククラウドではGPUクラウドと言われていない」など用語や定義づけも未整備だ。また、前述したGMOインターネットグループの調査ではIT部門担当者がデータセキュリティや利用料金に不安を抱えているため、自国内にデータを保有し、データ主権を確保できるサービスが重要と指摘している。しかし、理由として大きいのは、単純にGPUクラウドを使えるユーザーが少ないからだと思う。
クラウド事業者が利用するAI系のサービスは、ユーザーにあわせて複数の階層構造で提供されており、このうちGPUクラウドサービスはもっともプロフェッショナルなユーザーが利用するサービスに位置づけられる。日本でも多くの企業や研究機関、スタートアップがAIの本格導入を進めているが、利用しているのはSaaSやマネージドサービスで、GPUを直接利用するエンジニアはまだまだ少ないはずだ。
GPUクラウドのユーザーが少ないのは、そもそもニーズがないのか、伸びしろが見込まれるのか、まだまだ見定めにくい。調査を行なったGMOインターネットグループも、以前からGPUクラウドを提供しており、2024年12月からは「生成AI向けGPUクラウドサービス」の提供開始を予定している。政府もGPUの調達は政策として推進しているため、今後は国内事業者からのGPUクラウド提供は増えてくるだろう。外資系サービスより安価にサービスが提供されるようになり、「データ主権」の懸念が払拭されれば、理屈としては国内のユーザー企業は積極的に利用するようになるはずだ。
とはいえ、前述した通り、GPUクラウドのユーザー自身を増やさなければ、市場自体の拡大はおぼつかない。マネージドサービス慣れしたエンジニアを魅了するサービスを作れるか? 国産事業者の力量が試される。
大谷イビサ
ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。
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