高すぎるパソコンからの脱却
VAIOが、2024年7月1日、創業から10周年を迎えた。
2014年7月に、ソニーのPC事業が独立し、VAIO株式会社を設立。240人という「小さなPCメーカー」として、再スタートを切ったのが、ちょうど10年前のことだった。
かつては年間500万台以上の出荷実績を誇っていた事業規模は、設立当初は、20分の1以下となり、国内事業だけに絞り込み、機種数も限定。赤字体質からの脱却が最初の課題というマイナスからのスタートであった。
それ以降、事業の拡大に向けて、徐々に出荷台数を増やしながら、ラインアップを強化。VAIO Zをはじめとして、「VAIOらしい」と呼ばれるPCも市場に投入してきた。
だが、ここ数年、VAIOにはひとつの課題が生まれていたという。
それを、VAIOの山野正樹社長は「負のスパイラル」と表現する。
「VAIOのエンジニアたちは、こだわりがあり、ブランドを維持するというプライドを持っている。常に、VAIOらしさを追求したモノづくりを進めてきた。だが、ここに集中するあまりに、プレミアムニッチの領域でのモノづくりが中心となり、その結果、『負のスパイラル』に入りかけていた」と振り返る。
VAIOが市場に投入するプレミアムニッチのPCは、高い評価を得ていたが、決して台数が売れる領域ではない。規模の追求がコスト競争力に直結するPC業界においては、販売台数が少ないことは、コスト上昇の原因となる。当然、VAIOのPCの価格は上昇する。価格が上昇すれば、VAIOを支えてきたファンも購入できなくなり、熱狂的なファンですら離れていくことになる。そうなれば、さらにPCの販売台数は減少する。まさに「負のスパイラル」である。
その状況を打破するための戦略的製品が、2023年6月に発売した個人向けの「VAIO F14/F16」、法人向けの「VAIO Pro BK/BM」であった。
「Windows PCの定番」を掲げたように、ボリュームゾーンに展開した製品群であり、VAIOとしてのクオリティを維持しながらも、手が届きやすい価格帯を実現した。
山野社長は「定番といっても、最安値のPCではない。VAIOの価値を毀損せずに、手が届く価格帯で、いいPCを世に出すことで、もっと素晴らしい価値が生まれると考えた。尖ったものを開発することだけが、VAIOの価値ではないことを示した製品」と位置づける。
発売から1年以上を経過し、その手応えは着実に生まれているようだ。
円安の影響を受けて部品価格が高騰。本体価格を値上げした影響もあり、当初計画にとは到達しなかったというが、「個人ユーザーには比較的手頃な価格で購入できるVAIOが登場したことが知られ、法人ユーザーにおいては、VAIOは価格が高いから、選定対象にはならないといわれたいた状況が改善できた。VAIOには、高価なプレミアムモデルしかないという印象を払しょくできた」と自信をみせる。
そして、購入したユーザーからの評価が高いことにも手応えを示す。
「使いやすい、格好いい、質感が高いなどといった声のほか、新たな価格帯の製品でありながらも、VAIOらしいという声を出ている」という。
VAIOは、この2年間で売上高が約2倍に成長した。2025年5月期は、売上高500億円への到達が射程距離のなかにある。
VAIOは自分とは縁がない?
しかし、改善するべき課題はまだ多いとも語る。
そのひとつが認知度の低さだ。
一般的にVAIOの名称は知られているが、自分には縁がないPCブランドと思っている人が多いことがその背景にある。
たとえば、同社の調べによると、国内における法人向けPCのブランド想起率では、VAIOはわずか約4%に留まり、むしろ、最下位に近い水準にある。企業で使われるPCとしては、レノボやHP、デル、あるいは日本発のブランドであるNECや富士通、Dynabook、パナソニックといったブランドは想起するが、そこにVAIOはまったく食い込めていない。
その一方で、顧客満足度を測るNPS(Net Promoter Score)では、VAIOが2位となり、多くの人がVAIOをほかの人に薦めたいと回答しているという。
「認知度は低いが、満足度は高い。裏返せば、VAIOの法人向けPCとしての認知度が高まれば、もっと使ってもらえることの証」と前向きに捉える。
すでに、VAIOにおけるPC出荷の9割弱が法人向けPCになっているという。法人向けPCとしての認知度が高まることが、事業成長に直結することは間違いない。
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