2022年、ライフスタイルや価値観に合わせて、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートの4車種をラインアップしたクラウン。伝え聞く話によると、スポーツに人気が集まっているそうですが、クラウンといったらセダンをイメージするのがASCII自動車部。
今回は開発主査の声を交えながら、FCEV版の魅力をお伝えします。
クラウンの燃料電池モデルを試乗
電気でもガソリンでもない選択肢
2022年にデビューした16代目となるクラウン。それまでセダン一筋だった路線を転換し、「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の4車種を用意。あわせてデザインも刷新し、大きな話題を集めました。ASCII.jpでも何度か試乗レポートをお届けしているので、ご存じの方もいるかもしれません。
クラウンは長年にわたり、日本を代表する高級セダンの代表格として王座に君臨し続けてきましたが、今の自動車業界はSUVが主流。セダンはオジサンの乗り物、いやオジサンすらも見向きしないクルマとなってしまいました。
そんなご時世の中、16代目クラウンの開発主査を務めたのが、2023年10月からクラウン、センチュリー、そして燃料電池自動車・MIRAIのチーフエンジニアに就任した清水竜太郎さん。クラウンに大胆な方針変更をしました。
「ライフスタイルやクルマを使った生活、クルマに求めているものが多様化しています。お客さまひとりひとりの価値観に何とか応えたいと思っていました」と、4車種をラインアップした理由を語ります。そして「クラウンはクルマの形や駆動方式みたいな決まりは特になく、常に革新と挑戦というキーワードと、スピリットを元に開発してきた歴史があります」とも。
この清水さんの挑戦は見事に成功。圧倒的に売れているのはSUVスタイルのクラウン(スポーツ)で、20代の方が購入しているのも珍しい話ではないそうです。さらに輸入車からの乗り換え需要も増えているというから驚きます。
とはいうものの、クラウンといえばセダンというイメージがいまだに強いのも事実。さらに今回のクラウンにはFCEV(燃料電池車)仕様がラインナップされているという点は見逃せません。
清水さんにFCEVをラインアップに組み入れた理由を尋ねたところ、大きく3つの理由を教えてくださいました。
まずひとつは「水素を広げたい」というもの。「今までMIRAIしかなかったので、選択肢を増やしたいと。そこでクラウンのブランド力を使いました」と言います。「今の水素ステーションをいかに潤すかというのが大切だと思います。今はトラックやバスなど働くクルマがメインですが、そこに車両を投入することで水素の利用を増やしていきたいです」。
現在、水素ステーションは全国に約160ヵ所。そのエリアは東京や名古屋、大阪といった都心部に集中し、水素ステーションのない県が多いのも実情。トヨタ自動車が水素ステーションを建設するのは難しいようですが、「簡易的な水素ステーションを設置する販売店も出てきました」という取り組みがあるのだそう。「BEVの充電もそうですが、購入したお店で充填できるというのは大きなメリットですよね」とのこと。
次に「クラウンそのものがFCEVに向いている」という点。「どういうクルマがFCEVに向いているかというと、静粛性とか上質さみたいなものが出やすいクルマなんです。ですから、おのずとプレミアムの方が親和性があるんです。結果的にMIRAIは上質なクルマになりましたし、クラウンだとさらに上質にできると思いました」とのこと。
上質なクルマというとアルファードやセンチュリーも対象になると思うのですが、まずはクラウンから、ということなのでしょう。
そして最後が「BtoG」つまり「公用車」に適しているということ。「クラウンは公用車としても使われてきた歴史があります。そこで燃料を水素に替えて、水素社会の拡がりを作っていきたいです」。
公用車を入れ替える際、高級ガソリンエンジン車ではなくクラウンFCEVなら、批判意見も出づらいでしょう。また、EVですので災害時には電源車としても利用できるという点も大きなアピールになりそうです。
清水さんによると、MIRAIとクラウンFCEVとのすみわけは「MIRAIはドライバーズカーであるのにたいして、クラウンFCEVは後席のためのクルマですね。いかに快適に過ごしていただけるかに注力しました」とのこと。でも運転そのものにも自信アリの様子。
長くなりましたが、クラウンFCEVを見てみましょう
ボディーは大きく車重は重い
そのかわり安定感と安心感はバツグン
ボディーサイズは全長5030mm、全幅1890mm、全高1475mmで、ホイールベースは3000mmと立派で、トヨタ製セダンとしてはセンチュリー、レクサスLSに続く3番目の大きさ。でありながら、最小回転半径はギリギリ6mを切る5.9mに収められており、狭い駐車場では苦労するかもですが、普通の車庫で何度も切り返しを迫られるということは少なそう。
リアを見ると、イマドキ感のあるテールランプがつながった一文字デザイン。マフラーがないため、リアビューはスッキリした印象を与えます。
車体重量は立派に2000kg。ちなみにクラウン(セダン)には2.5L NAエンジンと2基のモーターを組み合わせたパラレルハイブリッド(HEV)仕様が用意されているのですが、こちらも2020kgとヘビー級。
昨今「BEVはバッテリーを積載するから車体重量が重くて道路を傷める。だから走行税を設けるべき」という論を目にすることが多くなりました。確かにバッテリーの分だけ重たくなるというのは間違ってはいませんが、安全性や装備面をはじめとする市場要求によって、クルマそのものが重たくなっているのも事実です。
その結果、駐車場によっては重量制限に引っ掛かる場合も。以前は高さ1.55mの制限がありましたが、これからは重量の壁が出てくるかもしれません。
FCスタック(FCセルを何枚も重ね合わせたもの)の最高出力は182ps、最大トルクは30.6kgf・mが公称値。駆動方式はRWD。HEVもFRで「高級車はFRであるべき」という強い意志を持つ方も納得されるでしょう。
高圧水素タンクは3本搭載し合計141Lと大容量。といっても、水素はkg単位で販売されるため、リットルで表記されてもイマイチよくわからなかったりします。そこでちょっと計算してみましょう。
液体水素の1kgあたりの体積は14Lですので、141リットルはざっくり10kg分の容積となります。タンクが空っぽの状態から満充填した際の料金ですが、2024年現在1kgあたり1200円前後ですので約1万2000円になります。その量の水素で走れる距離(一充填走行距離)は約820km(参考値)とのこと。
今回市街地を中心に試乗したのですが、メーターには91km/kgと表示されていました。
気になるランニングコストも計算してみましょう。水素1kg分(約1200円)で購入できるレギュラーガソリン(170円)は約7リットルになります。ですので、単純に91kmを約7リットルで割れば、ガソリン換算で1リットルあたり約13km走れるとわかります。
カタログによると、クラウン(セダン)HEVのWLTCモード(市街地)燃費は14.4km/Lとのこと。つまりHEVとFCEVのランニングコストは「ほぼ同じか、FCEVの方が少し悪い可能性がある」といえそうです。
政府は昨年春「水素の価格を2030年を目途に3分の1にする」という目標を打ち出していますので、今後はFCEVの方がオトクになる可能性がでてくるかも。とはいえ1200円/kgの水素が6年後に400円/kgになるとは考えづらいですが……。
ちなみに水素充填時間は1回あたり3分程度とのこと。「水素ステーションが近くにあれば、コスト面も含めてガソリン車と同じような感覚で使えそう」と思ってしまいます。ですが、これがそうはいかないのです(水素ステーション一覧)。
水素ステーションでの充填は、資格を持った専門のスタッフが行なわなければならないため、結果的に営業時間が限られてしまうのです。都内の場合、もっとも長いところで9時~21時。ほとんどは9時~19時頃で、早いところは17時には店じまいしてしまいます。さらに土日祝は定休日というのも多かったりします。
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