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「Ryzen 9 9950X」「Ryzen 9 9900X」は“約束された”最強のCPUになれたのか? ベンチマークで見えた利点と欠点

2024年08月14日 22時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

 2024年8月14日、AMDはSocket AM5向けCPU「Ryzen 9000シリーズ」の最上位モデル「Ryzen 9 9950X」および「Ryzen 9 9900X」の販売をグローバル市場において解禁した。国内における発売日は8月23日午前11時、予想価格はRyzen 9 9950Xが税込約11万9800円、Ryzen 9 9900Xは約8万8800円である。

Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900X。パッケージの形状は既存のSocket AM5向けRyzenと変わっていない。今回お借りした個体もヒートスプレッダーの左上に円状の刻印が入っていた

 先日国内販売が解禁された「Ryzen 7 9700X」および「Ryzen 5 9600X」の初値はおおよそ1ドルあたり196円換算であったことを考慮すると、北米予想価格が649ドル(Ryzen 9 9950X)、499ドル(同9900X)に対する今回の価格設定は、8月に入って急激に変化した為替の内容を反映したようだ(約177~184円換算)。

 そして販売が遅れたのは数の確保が難しいと考えることもできるが、価格絡みの調整もあるのではないか、と筆者は推測している。Ryzen 9 9950Xに関しては前世代の7950Xの初出価格とほぼ同じである一方、9900Xに関しては7900Xよりも安めの設定になっているなど、関係諸氏の奮闘をうかがい知ることができる。

裏面。ランド(電極)の配置もまったく同じだ

 Ryzen 9000シリーズに採用されているZen 5アーキテクチャーは、CPUコア部(CCD:Core Complex Die)に従来よりも微細化された4nmプロセスを採用しただけでなく、IPCを引き上げるための改良を数多く施した。Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xのパフォーマンスは前編のレビューにある通り、Ryzen 7000シリーズに比してパフォーマンスが大差ない点もあるものの、シングルスレッド性能においては前世代に明確な差をつけ、さらにCPU温度や消費電力おいて前世代を大きく下周り、扱いやすいCPUに仕上がった。

 発熱や消費電力低下の秘密は前世代よりもTDPが抑えられているためだが、今回発売されるRyzen 9の2モデルはTDPがより高く設定されている。特に前世代の「Ryzen 9 7950X」と、今世代のRyzen 9 9950Xというフラッグシップモデルにおいてはコア数・TDPともに同スペックであるため、これが事実上のZen 4対Zen 5のパウンド・フォー・パウンドの戦いといっていいだろう。

 筆者は幸運にもAMDよりRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xのサンプルをお借りし、検証できた。今回も前編、後編の2部構成でお届けする。

TDPを盛ることで電力よりもパフォーマンスを優先させる

 Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xの物理コア数は16基ないし12基。Zen 5になってもCCDあたりのコア数は8基であるため、Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xでは、4nmプロセスのCCD×2基と6nmプロセスのIODで構成される。つまり処理によっては“必要な情報がCCDをまたぐ”可能性があり、それが発生する場合はパフォーマンス的に大きなペナルティーを受ける。この点はチップレット構造を採用したRyzen共通の弱点といえる。

Ryzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900Xと、その近傍の製品とのスペック比較
  Ryzen 9 9950X Ryzen 9 7950X Ryzen 9 9900X Ryzen 9 7900X
アーキテクチャー Zen 5 (4nm+6nm) Zen 4 (5nm+6nm) Zen 5 (4nm+6nm) Zen 4 (5nm+6nm)
コア/スレッド 16 / 32 16 / 32 12 / 24 12 / 24
ベースクロック 4.3GHz 4.5GHz 4.4GHz 4.7GHz
ブーストクロック 5.7Hz 5.7GHz 5.6GHz 5.6GHz
L2キャッシュ 16MB 16MB 12MB 12MB
L3キャッシュ 64MB 64MB 64MB 64MB
対応メモリー DDR5-5600 DDR5-5200 DDR5-5600 DDR5-5200
TDP 170W 170W 120W 170W
内蔵GPU Radeon Graphics Radeon Graphics Radeon Graphics Radeon Graphics
対応ソケット AM5 AM5 AM5 AM5
CPUクーラー なし なし なし なし
初出時税込価格 ¥119,800 ¥117,800 ¥88,800 ¥92,500

 動作クロックに関しては最大ブーストクロックを動かさず、ベースクロックを前世代より100ないし300MHz下げている。Zen 5採用によりコアの処理性能が向上したため、ブーストクロックを上げなくても性能上昇が見込めるためだ。

 今回発売の2モデルのTDPは、Ryzen 9 9950Xが170W(前世代と同じ)、Ryzen 9 9900Xが120W(前世代より50W低下)に設定されている。すでに発売済みのRyzen 9000シリーズはメインストリームCPUにしては非常に低発熱なCPUに仕上がったが、今回の2モデルはCPU温度がもっと高くなる可能性がある。

 AMDはRyzn 5および7については“高性能な”空冷クーラーもしくはAIO水冷の使用を推奨していた一方で、今回のRyzen 9 9950XおよびRyzen 9 9900XについてはどちらもAIO水冷の使用を推奨している。

Ryzen 9 9950Xの情報:「CPU-Z」で取得。L1データキャッシュが48KBであることがZen 5の特徴のひとつ

Ryzenn 9 9900Xの情報:コア数が12基なのでコアに紐付くL2キャッシュは搭載量が異なるが、L3キャッシュの搭載量は9950Xと同じ

 Ryzen 9 9950X/ 9900Xを使用するための要件はRyzen 7 9700XやRyzen 5 9600Xのそれと変わりはない。すなわち動作にはAGESA 1.2.0.0A準拠のBIOSが必要だが、パフォーマンスを十分に引き出すためにはAGESA 1.2.0.0A Patch A準拠のBIOSが望ましい。すでに各マザーメーカーの最新BIOSはPatch A準拠のものになっている(はず)ので、最新のものに更新すれば問題ないはずだ。

 今回のレビュープログラムにおいて、2CCD構成のRyzen 9はチップセットドライバーのセットアップが不完全な場合は、CPUの性能十全に引き出せないので注意されよという通達がAMDより寄せられた。

 RyzenのチップセットドライバーにはRyzenに最適な電源プランをWindowsに展開する“PPM (Power Profile Management) Provisioning File Driver”が含まれており、これがマルチCCD構成のRyzenのパフォーマンスにおいて重要な役目を担っている。CPUを単に載せ替えただけでは、この電源プランが上手く機能しないことがあるからだ。

 特にCCDの数が変化する変更(特にRyzen 5/ 7→Ryzen 9のような場合)においては、CPU換装後に正しく意図した動作にならない可能性があるという。

 この問題の解決法はAMDのチップセットドライバーを一度削除してから再インストールで対処できるが、AMDによれば不確実性を排除したければWindowsのクリーンインストールが理想的だという。チップセットドライバーをアンインストールしてから再インストールでも大丈夫(これで筆者は不具合を体験したことはない)が、アンインストール後に「Revo Uninstaller」のようなツールでドライバーの残滓を削除し、その後チップセットドライバーを再インストールすればより盤石となろう(ただし使用は自己責任で)。

AMDのチップセットドライバーに含まれるPPM Provisioning File Driverは、Ryzenのパフォーマンスを最大減に引き出す電源プランを導入するためのものだ。このプロセスが不完全だとコアの利用が最適化されない恐れがある

 チップセットドライバーを再インストールした後は、Power Profile Managementファイルがシステムに確実に適用されるために15~30分程度アイドル状態で放置するといいだろう。漠然としすぎていてよく分からない、という場合は管理者権限で起動したコマンドプロンプト(cmd.exe)に以下のコマンドを入力すれば強制的にアイドル状態で放置となる。

start /wait Rundll32.exe advapi32.dll, ProcessIdleTasks

PPM Provisioning File Driverのセットアップを確実に終わらせる方法。管理者権限でcmd.exeを起動し、上のコマンドを入力して実行する(上の文字列をコピーしたら右クリックでペーストできる)。CPUにもよるが短くて15分程度、最大30分程度でプロンプトが復活したら“おなじない”は完了だ

 このコマンドはどこかで見たような……と感じた方もいると思うが、これはRyzen 9 7950X3Dや7900X3Dで正しくコアの使い分けをさせるための“おまじない”と同じである(参考記事:3D V-Cache搭載「Ryzen 9 7950X3D」はゲーミングCPUの最高峰に輝くのか?【前編】)。X3Dシリーズと異なるのは3D V-Cache Perfomance Optimizerの存在だけで、CCDまたぎを発生させないようにコアを上手く使うという機能については、3D V-Cacheの存在にかかわらず共通なのだ。

 さらに細かいことを言えば、電源プランは“バランス”、かつWindows設定のゲームモードも有効にしておくこともポイントになっているが、このあたりはデフォルト設定のままでいい。要は「電源プランとゲームモードはデフォルトが一番。最新のチップセットドライバーをインストールして再起動したら30分程度電源オンのまま放置しろ」ということである。

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