家電製品とIRリモコンが相手を間違わずに“一対一”で操作できる理由
家電製品とリモコンはどうやって「おしゃべり」をしている?
毎日当たり前のように使っているリモコン。テレビをつけたり、チャンネルを変えたり、何気なく使っていますが、実はこれ、人間には聞こえない機械どうしの「おしゃべり」で動いています。そして、この技術の歴史は意外と古く、赤外線を使ったリモコン付き家電が初めて登場したのは1965年のこと。なんと60年近くも前から、私たちの生活に密着しているのです。
家の中には、テレビ、エアコン、照明など、たくさんの家電製品があります。そして、これらの多くはリモコンを使って操作します。リモコンからは、人間には見えない信号(人間には聞こえない“おしゃべり”)が、それぞれの家電製品に送られているのです。
リモコンは、それぞれの家電製品に専用のものなので、家の中にどんどん増えていきます。リビングのテーブルの上には、TV、録画機、扇風機、エアコン、照明、オーディオシステム、プロジェクター……などなど、いくつものリモコンがあるかもしれません。手に握れるほど小さいので、いざ使おうとした時に限って見つからない! なんて経験は、誰にでもあるでしょう。
でも、ちょっと待って下さい。そもそも、どうしてこんなにたくさんリモコンが必要なのでしょうか? また、家電製品とリモコンは、なぜ“一対一”でないといけないのでしょうか? どうして混信しないで違う家電を操作できるのでしょうか? 何か秘密がありそうです。
リモコンと家電製品は「赤外線」を使っておしゃべりをしています。赤外線とは、人間の目には見えない光の一種です。英語では「Infrared」と言いますが、語源は「赤よりも低い(光)」という意味で、人間の目に見える赤い光よりもさらに波長が長い光を指します。Infraredの略語(IR)を使って「IRリモコン」と呼ぶこともあります。
一口に赤外線といっても、目に見える光(可視光)よりもはるかに広い範囲があります。波長の長さと性質によって「近赤外線」(0.78~2.5㎛)、「中赤外線」(2.5~4㎛)、「遠赤外線」(4~1000㎛)の3つに分けられています。近赤外線は、情報通信、赤外線暗視装置、医療機器や農業で使われます。中赤外線は、温室効果ガスの検出、化学反応の監視、医療分野などで使われています。遠赤外線は電気ストーブやコタツなどで聞き馴染みがありますね。他にも天体観測や火災報知器などに使われています。
今回取り上げている家電製品のIRリモコンでは、主に近赤外線、具体的には波長が0.95㎛(950nm)の赤外線が使われています。
先ほどお話ししたとおり、近赤外線は人間の肉眼で見ることができません。ただし、スマートフォンのカメラで捉えることができます。お手元のスマートフォンでカメラアプリを起動して、リモコンの先端部分を映しながら、リモコンのボタンを押してみてください。いくつかの点が丸く光るのが観察できると思います。これが、リモコンから出ている近赤外線です。
IRリモコンは、近赤外線を細かく点滅させることで家電製品に信号を送っています。この点滅パターンはメーカーや製品ごとに異なり、それぞれ独自の「言葉」として家電製品と会話しています。機器メーカー独自の言葉を話していることもありますし、同じ言葉をしゃべっていても、会話の中に相手のメーカー名や機器の種類なども含んでいることもあります。これにより、同じ波長の近赤外線を使って「おしゃべり」をしても、ほかの家電製品が誤動作するようなことはないのです。
ちなみに、近赤外線は光の一種なので、リモコンを家電製品に向けなかったり、リモコンと家電製品の間に障害物があったりすると、赤外線が遮られてしまって信号が届きません。また、リモコンの電池の消費を抑えるために、赤外線の強さは一般的な部屋の広さ(約7メートルの距離)で信号が届く程度に設定されています。そのため「おしゃべり」が届く範囲は同じ部屋の中に限られます。
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IRリモコンの仕組みが分かったところで、実際にリモコンの中身を見てみましょう。テレビ用のIRリモコン(ソニー製 RM-PZ3D)を分解してみました。
リモコンの中には細かな部品が詰まっていますが、大まかには電池、ボタン、基板、そして赤外線LEDで構成されています。わたしたちがボタンを押すと、基板に組み込まれた小さなコンピュータがその指示を読み取り、適切な「言葉」で赤外線LEDを点滅させて信号を送信します。
このことから分かるように、リモコンは「話す」ことはできても、「聞く」ことはできません。一方通行のおしゃべりをしているだけなのです。
今回は、身近な存在であるリモコンの仕組みを簡単に解説しました。次回は、IRリモコンと家電製品が、具体的にどんな「おしゃべり」をしているのか、さらに詳しく見ていきましょう。
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