SORACOM Discovery 2024の基調講演は新サービス「SORACOM Flux」で持ちきり
ローコードツールと生成AIでIoTのイノベーションを加速させるソラコム
IoTの大先輩コネクテッドカーとスズキのサービス開発から学ぶ
2つ目のキーワードは「コネクテッドカー」だ。齋藤氏は、「いち早く通信に目を付けた自動車業界は、IoTからすると「大先輩」にあたる」と説明。そして、この業界はEV化・ハイブリッド化で大きな変革期を迎えており、車両自体がデジタル化されつつある。その上でクラウドや通信、AIの進化により、車から上がってきたビッグデータをいよいよ活用する地盤が整ってきているという。
こうしたコネクテッドカーを含む次世代モビリティサービスや新規事業について説明したのが、スズキで次世代モビリティサービスを手がける熊瀧 潤也氏だ。今年で創業104年目を迎えるスズキは自動車だけでなく、バイク、船外機、パーソナルモビリティなどを手がけるモビリティカンパニー。日本では軽自動車の印象が強いが、インドでは乗用車のシェア41.3%を誇る。四輪のシェアは1位の国はインドを含めて、世界で12カ国もあるという。
さて、CASE(Connected、Autonomous、Shared&Services、Electric)で言い表される最新の自動車トレンドだが、熊瀧氏が率いる次世代モビリティサービス本部はこのうちConnectedとShared&Servicesを受け持つ。コネクテッドカーに関しては、緊急時の連絡やエアコンのリモート操作、車の状態確認などを提供する個人向けのカーライフサポートサービス「スズキコネクト」のほか、デバイスを差し込むだけで利用できる法人向けの車両管理サービス「スズキフリート」も用意されている。
また、Shared&Servicesでは、医療、福祉、農業、地域コミュニティなどの4つの注力分野を定め、社会課題を解決する新規事業を創出する。たとえば、スズキの地元である浜松市と浜松医科大学との実証実験では60~75歳の方を対象に、2種類の認知機能検査とドライビングデータとの相関を分析している。また、高齢者の移動という課題に関しては、鉄道とセニアカーを組み合わせた乗車や周遊を試した。さらにApplied EVやELLIY Powerなどスタートアップへの投資も積極的に推進しており、個社での限界を超えようとしている。
最後に紹介したのは、電動モビリティベースユニットのプラットフォーム構想。「われわれ50年近く電動車いすを手がけてきたので、100kg近い人が乗っていても、安全に走行し、段差を乗り越えるみたいな技術を長年培っている」(熊瀧氏)とのことで、安全・安心な走行を実現する電動モビリティベースユニットを、土木建設、農業、運搬、除雪、配送など業界ごとの課題を解決するロボットの「足」として組み合わせることができるという。
講演後にバトンタッチされた齋藤氏は、こうしたコネクテッドカー向けのサービスについて説明。数多くの車から上がってくるデータを高速にセキュアに扱う必要があるため、効率的な管理や運用の自動化を実現するWebコンソールとAPIを用意しているほか、クラウドで必要な認証やサービス連携、データ転送などを実現するサービス、そしてセキュアな閉域網を実現するVPG(Virtual Private Gateway)も提供しているという。
また、コネクテッドカーを支えるIoT通信の技術についても紹介した。従来のSIMは、SIMと契約が一体化されていたが、グローバル前提のコネクテッドカーでは、国や地域によって、サブスクリプションを変更するのが一般的だという。これに対して、SORACOMではサブスクリプションコンテナという機能を追加し、無線経由で契約回線を追加できるようにしている。
そして今回は、SORACOM以外のSIMにもプロファイル発行できる「eSIM Profile Order」のサービスを発表した。eSIM Profile OrderではコンシューマeSIM規格に対応し、プロフィールを発行することで、契約回線をあとから追加し、SORACOMのプラットフォームを利用できる。
ソラコムのプラットフォームデータを生成AIで分析
3つ目のキーワードは「増えるデータと生成AI」になる。IoTで取り込んだデータを生成AIで分析するというフローは現実的な選択肢となっており、昨年ソラコムもユーザーデータからトレンド、異常値、欠損データなどの洞察を得られる「SORACOM Harvest Data Intelligence」をリリースしている。
今年はさらに一歩進んで、IoTと生成AIの活用を実現する新サービス「SORACOM Query Intelligence」を発表した。これはソラコムが保持するサービスの通信状態や課金情報などのプラットフォームデータから、管理や運用に関する洞察を得られるサービス。コンソールからデータを確認するだけではなく、プロンプトから通信が不安定なSIMをピックアップしたり、平均通信料を算出することが可能になる。
さらにソラカメ(SORACOM Cloud Camera Service)についてもアップデートされた。カメラは「IoTの目」として、さまざまな情報を得ることができる。こうしたカメラの写真や映像をクラウドにアップロードし、適切なユーザーがセキュアに共有できるのがソラカメ。APIも利用できるので、自社のシステムに組み込むのも容易だ。
ソラカメは事例も増えている。コープさっぽろでは、お惣菜コーナーに設置し、陳列量や値引きのタイミングを図っているという。機械の監視に利用している製造業の旭鉄工では、機械がちょこっと停止したときの原因を特定すべく、カメラの動画をさかのぼって確認しているという。さらに大成建設は安価で設置しやすい点を評価し、建設現場に数十から数百のソラカメを設置。自社の工程管理システムにカメラ画像を組み込んでいるという。
ユーザー共創型の天気予報にソラカメを参加させたウェザーニューズ
実際のソラカメのユーザーとして登壇したのがウェザーニューズ代表取締役社長の石橋知博氏。日本ヒューレット・パッカードからウェザーニューズに転職してきたという異色の経緯を持つ石橋氏は、会場にウェザーニュースのアプリ利用者をヒアリング。「いざ使うときは予報精度ナンバー1のウェザーニュースを使っていただきたい。とにかくわれわれは予報精度にこだわる。天気予報は当ってなんぼ」とアピールした。
個人向けサービスのイメージが強いウェザーニューズだが、売上の半分は法人向け。1万隻の船舶に向けてルート決定や航空機の離発着タイミングを知るための気象情報を提供している。また、アプリで見られる情報はほぼすべてはAPI経由で利用できる。「39年、お天気一本で飯を食っている。そんな会社」と、石橋氏はウェザーニューズについて語る。
では、なぜ天気予報の精度が高いのか? この1つの背景が、アプリユーザーからのウェザーレポート。メニューからの投稿、写真、動画などが1日平均20万通送られるため、これらを予報や番組に取り込んでいる。「このデータがあるからこそ、この瞬間のこの地域の天気がわかって、モデルにインプットし、いい予報を作れる」と石橋氏は語る。
こうした人のレポートを自動化するのがソラカメだ。以前から花粉症の観測ロボットやソラテナと呼ばれる気象観測機などでSORACOMサービスは使っていたが、「名前も含めて、そのまま行こう(笑)」ということでソラカメも観測デバイスに仲間入りした。ウェザーレポートで得られるポイントを集めるとソラカメがプレゼントされるという。
ソラカメの提供は3月からスタートしたばかりだが、現在日本全国に設置された台数は1200台に上る。常時撮影することで、雷や虹、噴煙などの自然現象が見えたり、夜は星もきれいに撮影できるという。「今まで『風を測って、雨量を測って』というのが、気象屋の常識でした。でも、人が見る情報も立派な気象観測情報じゃないかと思っています。これらを予報に変え、ユーザーが喜ぶようなコンテンツに変えていきたい」と語る石橋氏。そのために溜まったビッグデータを生成AIで解析していきたいという。
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