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伝統のUHC-MOS Single Push-Pull Circuit、若手設計者の活躍にも期待

デノン、新しいハイエンドプリメインアンプ「PMA-3000NE」を発売、110周年モデルの先を目指す新機軸

2024年07月25日 11時00分更新

輪郭がハッキリ明確で音像が明瞭、一方でしなやかさは失わない

 発表会ではサウンドマスターの山内慎一氏の解説を交えたデモも実施された。「これからの10年間のベースとなるサウンド」を実現したPMA-A110の成果を踏襲しつつ、上述したさまざまな改善を経たPMA-3000NEは「価格帯を超えたハイエンドHi-Fiの雰囲気を漂わせる、高い完成度が得られた」という。

 専用コンデンサーの搭載に加え、抵抗、ビス、アルミ製の脚部など、細部にこだわった設計と音質調整が加えられている。見た目はPMA-A110とよく似たPMA-3000NEだが、中身は大きく異なり、その音質はフラッグシップ機のSX-1 Limitedにも少し近づいた面があるとする。

PMA-3000NEの解説記事

デノン試聴室。スピーカーはB&W「801 D4」、プレーヤーは「DCD-SX1 Limited」「DP-3000NE」で、デジタル/アナログディスク再生のデモを聴いた

 最初に聞いたのはBiaのアルバム『Sources』よりビートルズの「Golden Slumber」をアコースティック風にアレンジしたもので、アコースティック楽器の伴奏で女性ボーカルが歌う。ギターやアコーディオン風の楽器の音は高解像度で空間に浮き立つが、カリカリしすぎず、適度なぬくもり感やボディー感を残している。ハッキリとした輪郭のサウンドであるのが印象的だ。これを受けて入ってくる女声は、鮮度が非常に高く瑞々しい。山内氏によると、サウンドはPMA-A110の完成度を高める方向性で調整しており、スケール感、ダイナミクス、存在感を上げることに注力したという。

 デノンレーベルのクラシック曲として、アンドレア・バッティストーニ指揮のストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》を聴く(トラック2)。空気感が明確、というだけでなく聴く位置(マイクの位置)と音源(オーケストラの各楽器)の間に、距離と空間があることがしっかり分かる。一般に空間表現がいいというと、ホール全体の響きや空間の広さを指しがちだが、その音への距離感は比較的ステージに近い印象。鮮度や透明度が高く、個々の楽器の分離感、抜け感、曇りのなさなどが特徴だ。音色の再現も忠実かつリアル。臨場感や熱気、生々しさを感じる。アタックの表現も特徴的。立ち上がりや立下りがいいのはもちろんだが。ボディー感、音の太さ、実在感がある。こうした芯のある表現、確固とした直接音の再現が音全体の存在感を高める要因になっていそうだ。

 1990年代の楽曲としてプリファブ・スプラウトのアルバム『The Sound of Crying』から表題曲の「The Sound of Crying」。サウンドには、この時期の楽曲特有の爽快感があり、かつカッチリとしたリズムとビート感が魅力。録音としては、シンセ系の伴奏の上に距離感の近いボーカルが乗るが、最近の音源のように、それほど楽器や声の配置は「空間上のこの位置」と明確には整理されていない。全体にぎゅっと詰まって聞こえる。ウォーム系のテイストに太い低域やそれを支えとしたしっかりと安定した再現は安心感がある。

 静かな村を意味する『Stille Grender』は、高音質レーベル2LからリリースされているSACD盤で、ノルウェーのクリスマスアルバム集のようだ。「
Jul, jul, strålande jul」はピアニストのトルド・グスタフセンとノルウェー少女合唱団の共演。響きのいいホールの空間にピアノが浮き上がり、コーラスに体全体が包まれるような感覚が味わえるのがいい。位置の描き分けも明瞭で、ここでも音色感の良さ、弱音の再現を含むニュアンスの表現、空間再現の高さなどを感じられた。

PMA-3000NEの解説記事

レコード再生をデモ中の山内氏

 アナログレコードの再生としてDP-3000NEと組みあわせ、Haircut 100の『Perican West』から「Love Plus One」を聴く。ビブラホンとエレキギター、ブラス系の音などが印象的で、1980年代の制作らしい密度感やパワー感のあるサウンドが特徴。ドラムスとコンガ風の打楽器の抵抗感、重量感などもあり、硬さのあるものを叩いているという感覚が良く伝わっている。レコード再生だが、音はクリーンで、バランスが整っている。フォノイコライザーの実力の高さも実感できた。

 続いてザ・ポリスのレコード『Synchronicity』から「Tea in the Sahara」も聞いたが、この曲ではムーディーで色気のある、男性ボーカルの雰囲気が独特。そのつやのある音色表現に魅力を感じた。

 PMA-3000NEの位置付けについて山内氏は「フラッグシップではないが、(現行のラインアップにおいては)ハイエンドに属する製品である」とし、「(ケーブルワイヤリングを極力なくした構造など設計上の)新しい試みもあったので、試行錯誤の時間はあったが、最終的には音のダイレクト感や音像を間延びせずしっかりと再現できるなど良さを生かす形でまとめられた」とコメントしていた。

 そのチューニングに際しては、ネジの留め方ひとつで変わる部分もあり、「ネジの種類や長さを変えるだけでも音は変化してくる」と話していたが、開発時には機器に使うものとして選べる3~4種類の選択肢を入れ替えるだけでも音の変化を感じ、ミリ単位で調整が有効に感じたという。

なるほどこれがVivid & Spaciousか

 Vivid & Spaciousはデノンの音質を語るうえで、一貫して用いられているフレーズだが、PMA-3000NEの試聴を通じて感じたのは、それぞれの言葉が示すイメージがより明確に伝わり、腹落ち感が高まったことだ。

 Spaciosの面では持ち味の空間再現性の高さを改めて感じたが、特筆したいのはVividの部分。ここは従来機種よりもソリッドで引き締まった印象を与えるものになっていた。ひとことで言えば、最近のデノン製品の中でもかなりハッキリと、ハリのある再生音になっている印象を持った。

 その結果として、ディティールの再現性が上がり、より小さな音まで見通せるようになった。ここは音場の広さとの両立が難しい面もあるが、その両者が同居する新しさがあった。筆者としての発見は、Vivid & SpaciousのVividには、みずみずしさや、倍音の伸びといった音色の華やかさだけでなく、より強い主張のあるソリッドさや輪郭の明瞭さの要素が含まれていたことだ。

 持ち味である音色のみずみずしさと空間の見通し良さに、ハッキリとした音の輪郭感が加わったPMA-3000NEのサウンドについて、聞く側の筆者としては、これまでの製品とは一味違った音の方向感を感じて驚きもあった。しかし、山内氏としてはチューニングの方向性としては従来から思い描き、常に意識していたものであり、DENON HOME AMPなどを含めて徐々に階段を上ってきた成果だとする。

 そして、このハッキリとした音と、しなやかさや空間性を持つ響きを同時に実現していくのには難しさがあったようだ。普段はあまり強調していないため、忘れられがちな面もあるが、特にしなやかさを損なわない点は、デノンサウンドを実現していく上で重視しているポイントだという。

 開発を終えた感想として「かなり重いモデルだった。途中めげそうになったモデルでもある」というコメントがあったのはその表れだろう。110周年モデルの延長線を進み、3000番台を継ぐ労作である本機の音はぜひ体験してほしいと思う。

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