5月にスウェーデンAudiodo(オーディオドゥ)との技術提携を発表したエム・ティ・アイ。オーディオファンには、NUARLブランドのイヤホンでおなじみのメーカーと書いたほうが通りがいいかもしれない。同社は、2024年第3四半期の発売に向けて完全ワイヤレスイヤホン「Inovatör(X878)」を開発中。これにはAudiodoの開発した最新パーソナライズ技術が搭載される見込みだ。
聞こえにくいからつい音を大きくしてしまう
Audiodoについては過去の記事で紹介したことがある。ソニー・エリクソンで長年研究を続けてきた技術を元に、開発者がスピンアウトして設立したスタートアップ企業だ。聴覚テストを通じて得た聞こえにくい音の情報を補完して再生。DSP技術や音響心理学の知見を融合することで脳の負担を軽減し、よりよく音楽を聞けるようにできるとしている。
2015年の起業後、現在の屋号に落ち着いたのが2017年。さらに2019年以降はSkullcandyの「Crusher ANC」など、Audiodoの技術を採用した製品が複数登場している。その技術は2024年現在、第4世代まで進化した。X878にはこうしたAudiodoが持つ最新世代の技術が提供される予定で、パーソナライズだけでなく、イコライジングや空間オーディオ技術も搭載することになるようだ。
Audiodo Personal Soundでキーとなるのは、医療グレードとも称する厳密な聴覚テストだ。これによって提供されるのがパーソナルサウンド技術である。また、補正結果をさらに調整するイコライザー機能は、著名音楽プロデューサーのカール・ファルク氏が監修。さらに空間オーディオ機能や後述する「Safe Hearing」「Knowlede Hub」といった拡張機能も提供する。
音響心理学的なアプローチとして、左右の聞こえの違いによる脳の負荷を低減。聞こえにくさからついつい音を大きくして耳にダメージを与えたり、長時間のリスニングで感じる疲労を低減したりする効果も意識している。補正の精度も高く、左右の耳それぞれに合う、独立した補正をすることや、音量の大小に適応して補正内容が変わる仕組みになっているのも特徴だ。リアルタイムの処理を行う必要があるため、現状ではDSP処理に対応したSoCを内蔵するBluetoothイヤホンで利用できる技術となっている。
第4世代では2019~2024年の期間に市場から受けたフィードバックを反映。聴覚テストとモデリングを最適化している。追加機能となる空間オーディオは高い周波数領域の出力にケア。空間認識のしやすさに加えて、突き刺さるような高音の排除も両立している。また、さらに、聴覚上の健康に配慮した「Safe Listening」モード、どういう聞き方の癖があるかを特定する「Knowledge Hub」、どういう経過でどういう音にさらされているかを知る「Listening Habits」という3種の情報を提供し、リスニング習慣を明確にする点も特徴となっている。
同種の技術に対する優位点としては、左右の耳で独立したテストを実施し補正処理を加えること(メーカーによっては計測は左右でするが処理は共通というケースもある)、フルメディカルレンジと称する250Hz~8kHz、-80dBまでをカバーする医療レベルの計測、そのテストを外部機器を用いずにイヤホン内で完結できる点などがある。一方で、ボリュームのブースト(強調)はせず、あくまで機器が持つサウンドの特徴は変えず、音楽に含まれた情報がよりリスナーに伝わる点を売りとしている。
なお、今年の終わりから来年にかけて「Personal Transparency」というヒアスルー機能も提供するという。透過性の高さには自信があり、イヤホンを着けているほうが外したときよりも外音が良く聞こえるほどだという(Full Acoustic Transparency)。これはヒアリングテストによる補正を加えることが関係している。こうした自然な音調と聞こえの改善に加え、会話時に適した「Conversation Mode」や音楽を聞きながら外部の音を知覚しやすくする「Awareness Mode」も用意している。
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