kintoneのユーザー事例を披露する「kintone hive 2024 sapporo」の5番手は、福島県郡山市に本社工場をかまえる北斗型枠製作所。型枠営業部なのに、いつの間にシステム担当になっていたという渡邉克史氏は、今まで別のシステムが異なっていた営業、製造、総務経理をkintoneで一気通貫につなげた事例を解説した。
システムを根本的に変更しよう 社長のミッション
1966年創業の北斗型枠製作所は福島県郡山市と岡山県長船市に工場を持つ製造業。同社が作っている型枠とは、コンクリート製品を作るための鋼製の枠を指しており、「プリンの容器のようなもの」。型枠の中にコンクリートを流し込んで固めると、縁石やテトラポッドなどのコンクリート製品になるという。
今回登壇した型枠営業部の渡邉克史氏は、「最近は日本地図にダーツを指して行く場所を決めている」という営業メンバーでありながら、いつの間にかシステム担当になったという。会社全体で見れば営業部門は見積もりと発注、製造部門は設計、組み立て、加工、検査、総務経理部門は納品書や請求書の発行を担当していたが、kintone導入前は各部門でそれぞれシステムがあり、連携が取れていなかった。
たとえば、渡邉氏の所属している営業部は表計算ソフトで資料を作成していたが、資料を探すのに57.3秒(以下、渡邉氏調べ)かかっていた。また、製造部門は経験と勘に頼っており、進捗状況が可視化されていないという課題があった。現場に行って進捗をヒアリングするとこちらも1回あたり620秒かかっていた。さらに総務経理部門は、営業や製造部門と利用しているシステムが違うため、同じ名前を何回も入力していた。こちらも1回あたり194秒の入力時間がかかっていたという。
こうした状況の中、2022年に社長からシステムを根本的に変更しようというミッションが降りてきた。2021年に仙台でkintone hiveに登壇した地元のアドレスがkintoneを導入してうまくいっていたとい話を聞き、社長も「うちもマネしよう!」と即断(関連記事:情報はバトン 取りこぼしていたアドレスがkintoneで試したこと)。「一気通貫できるシステム」「二重入力禁止」「早い数字報告」「資料作りに時間をかけない」という4つのオーダーが出てきた。正直、途中まで導入していたシステムもあったが、もちろん渡邉氏は社長のミッションに「喜んで」チャレンジすることになったわけだ。
同じ事業会社のkintone先達に言われたアドバイス
kintoneプロジェクトを開始するにあたって、北斗の強みについて社内アンケートを実施したところ、一位は「社員が明るく元気」、二位は「社員が若い」、三位が「全社員にiPadを支給している」、次点は「飲み会がめちゃ多い」となった。社長からも「みんな素直だよね!」という声があった。「社員が明るく、若くて、全社員にツールがあり、素直だったら、うまくいくかな」と渡邉氏は感じたという。
最初のポイントは、チームワーク開発における「ワイガヤ」だ。ワイガヤとは、当然「わいわいガヤガヤ」の略で、問題や悩みが発生した段階で15~30分程度、わいわいガヤガヤと話し合う。「仕事というのは前後のつながりがあるため、つながりがうまくいかないと全体最適にならない」ということで、みんなの意見を尊重する場なので、論破は禁止。みんなで意見を出し合い、その都度チャレンジし、ダメなら別の意見をチャレンジしてみようという考えだという。
ワイガヤ導入以前は、役職者が集まってものごとを決めていたが、今では現場の担当者が集まるようになった。「決められたプロセスをやるのではなく、自分たちがプロセスを決めて、実行するという文化の醸成ができました」と渡邉氏は振り返る。「やらされてる」から、「さあ、やってみよう」という意識改革になったという。
こうしたワイガヤ文化の構築とともに進めたのが、kintoneプロジェクト組織の構築。ここに参加したのが、2018年のkintone Awardでグランプリをとった矢内石油の矢内哲氏になる(関連記事:人口5000人の村で燃料屋が始めたリフォーム事業をkintoneが支える)。渡邉氏が最初に矢内氏と会ったときに言われたのが、「ちゃんと次のランナーに丁寧にバトンを渡すようなフローを組みませんか?」と一言。とはいえ、渡邉氏も業務の隅々まで理解しているわけではないので、渡邉氏が製造現場とヒアリングを行ない、矢内氏にも情報共有をし、構築を支援してもらうことになった。
他部署の改善の波及はいずれ自分の部署に戻ってくる
ここに各部署のキーマンになるのが、経験を持ち、技術に優れている「匠」だ。「腕は立つけど、面倒くさいおじさん」にも見える匠だが、影響力が強いため、一度味方に引き込んだら、頼りになる。しかも、匠は自部署のみならず、他部署の業務も理解している。「技術と経験を持っているので、頭の中でつねに改善を進めています。この匠を先頭に立たせることで、(脳みその中を)表に出すことが重要でした」と渡邉氏は語る。
うまくいった例として、kintoneプラグインである「KANBAN」を用いた製造管理を挙げた。「このカンバンを使う際に、匠とワイガヤして一番大事だったものはなにか? それは設計の進捗率。今まで一番見づらかったのは、設計から次の部署へ移動するタイミングがわかりにくいことだった」と渡邉氏は語る。
通常のカンバンの運用では、設計業務が終わったらカードを移すのだが、北斗型枠製作所では、次の部署が着手できるようになったら移すという運用にし、現場担当者でルールを決めた。また、カードの中のゲージについては、カードがどこにあってもつねに設計進捗率を優先的に表示するようにした。
ゲージの数値にも意味を持たせ、45%はあくまで承認待ち。50%になると、承認を受けているので、次の部署が着手できるようにステータスを移す。組み立ての進捗率も表示情報を定義づけ、タイトル部に表示するようにした。フィールドの運用も再定義し、ある業務が完了したら、チェックボックスを外すようにした。
こうして「取り扱う情報の意味づけと運用方法を徹底して協議したこと」がkintone成功の鍵になったと渡邉氏。「仕事がつながっている以上、他部署の改善の波及はいずれ自分の部署に戻ってくることを実感しました」と語る。
営業、製造の次は総務経理にもメリットが波及
続いて業務改善の具体例。まず製造部からは現場からの見積もり依頼の改善例。導入前は、作業者が手書きのメモを事務所に提出し、事務担当者が入力して、仕入れ業者にFAXするという流れだった。kintone導入後は「レポトンPro」を用いた帳票に、作業者がiPadで入力。プラグイン活用でkintone内からFAX送信するようになった。
また、山積みの紙の発注書を山積みにして、設計担当者が手書きで設計工程の管理を行なっていたが、現在では来た順で暫定的に担当者に割り振ることができるので、工程が可視化されるようになった。
製造全体の工程表に関しても、今までは組み立て班長が作業の流れを「頭の中で」把握し、計画していた。導入後はiPadで作業の流れを見られるようになったので、目標時間も設定でき、計画も立てやすくなったという。工程表が見える化されたことで、当初の目標だった営業と製造の工程が見える化された。
未連携な最後の砦は総務経理部門だ。kintoneの導入前、総務経理部門は紙で回ってきた月300行の納品明細を一字一句すべて販売管理ソフトに手入力していた。当然、納品が集中する日は総務経理は毎日残業になっていたという。しかし、kintone導入後はKANBANにすべて納品情報が入っているため、現在ではアクションボタンを1つ押せば、納品書が作成できるようになった。「このアプリが完成したとき、うちの総務経理は泣きました。泣いているように見えました。実際、涙は見ていません」(渡邉氏)。
さらに請求書の発行でも先ほどの納品情報が活きてくる。チェック済みの納品情報をkrewData(メシウス)が自動で拾い上げ、請求書が生成されるようになった。営業発注書と連動しているので、入力作業もなく、3ヶ所の捺印も不要と判断してやめてしまったという。最後の売掛金処理も請求情報をkintoneからMoneyForward クラウド請求書、V-ONEクラウドへとバトンを渡し、最終的にはMoneyForwardクラウド会計に会計データとして収まることになる。
kintoneで情報を一気通貫 製造業のデータドリブン経営を目指す
会計データまでできると、最後は経営データの生成まで作りたくなるのが会社というもの。営業活動、月次予算、見積見込、製造情報、納入実績、ヒアリングなどさまざまな業務データが集められ、krewDataで集計され、最終的には経営判断に必要な経営管理表を出力することが可能になる。実際にkrewDataの集計フローを見せてくれたが、路線図のような複雑さ。「ここまで来ると、私も気持ち悪いです(笑)。ただ、改善を続けていくと、こうなるので、われわれは『krewDataのサグラダファミリア』と呼んでいます」と渡邉氏は改善マインドをアピールした。
渡邉氏は、kintoneをベースに営業、製造、総務経理までシステムが連携している様子を披露。「kintoneとプラグインを駆使することで、複数の部署が一気通貫でつながるようになった」と語る。
営業部では年間228時間かかっていた報告資料の作成が約92%削減の年間18時間になり、製造部でのヒアリングや確認にかけていた業務時間も年間816時間が約78%削減の176時間まで削減された。総務経理の入力時間も、年間396時間が約75%減の96時間になった。全社では1440時間かかっていた業務時間が、290.4時間まで短縮されたという。業務短縮時間を年間の利益率に換算すると、25%のアップになるという。
最後、渡邉氏は「自分だけの知識、経験、アイデアには限界がある」「孤軍奮闘ではなく、人を巻き込みながらアプリを作る」「周知を結集すれば人もアプリもつながり業務改善が加速する」「プラグインを駆使すれば一気通貫ソフトは作れる」という4つの気づきを披露。特に北斗型枠製作所には「ワイガヤ」という文化があったため、1人で奮闘することなく、周りとコミュニケーションをとりながらアプリを作ることができたという。
とはいえ、今回kintone hiveの登壇資料を作成するべく、改めて振り返ると、まだまだ改善できるところが多くあったのも事実。「私自身、実際にアプリ構築やデータの知識があったわけではないけど、業務整理力と再構築力を高めるヒントを皆さんと共有したい」と語る渡邉氏。今後は実績データを蓄積し、月初の段階で月末の予定製造高を社長や幹部に報告し、早い経営判断ができる仕組みを構築。社長をはじめ、事務所や現場のメンバーを巻き込みながら、製造業のデータドリブン経営を目指すという。
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