ユーザーコンソールで通信を管理し、APIで自動化する仕組み
大谷:ここまでだと単純にSIMと通信サービスのみのフォーカスになるのですが、SORACOMの真価って、これらの管理や運用を支える仕組みではないかと。
松井:特徴の1つはユーザーコンソールだと思います。最新のユーザーコンソールにログインすると、このダッシュボードが出るので、ヘルスチェックでは、どのSIMで通信量が多いとか、エラーなども一目で把握できます。
松下:お客さまのSIMが多くなると、1回線ずつ懇切丁寧に見ていくよりも、グループ単位で状況を把握したいというニーズになるんです。コンピューティングの観点で見ると、昔のように仮想サーバーを1台1台確認するのではなく、最近のようにコンテナでまとめてチェックするみたいな方法。コンピューティングだけでなく、最近は通信回線もそういった管理の仕方にシフトしています。
今井:もちろん、1つのSIMごとに通信料やコストを確認できたり、休止や解約までユーザーコンソールで行なえます。つながっているデバイスの通信状況をリアルタイムに把握し、地図にプロットすることも可能です。かゆいところに手が届く系では、SORACOM側から回線を一時的に切断したり、プラットフォーム側からデバイスに対してPingを打つことも可能です。
大谷:SIMの状況をまとめてリモート管理できるんですね。
今井:IoTデバイスはとにかく数が膨大で、いろいろな場所に設置することになります。なので、いかに人を現地に派遣しないで、メンテナンスや障害対応を実現できるか、がとても重要です。ユーザーコンソールはこのニーズに応えられます。
ほかにも、SORACOMにはいろいろ便利なサービスが用意されていて、「SORACOM Napter」を使えば外からデバイスにリモートアクセスできますし、「SORACOM PeekPeak」ならサービスとしてパケットキャプチャを利用できます。
あるパートナー企業の開発者は、「SORACOMをさしておけば、なんとかなる!」とおっしゃっていました。デバイスやクラウド側になにか用意せずとも、便利なのがSORACOMの大きな特徴です。
松井:もう1つ大きいのは、ユーザーコンソールで操作するのみならず、APIからも扱えるという点です。われわれのサービスは当初からAPIファーストで開発しているので、新規開発の際にも最初にAPIで呼べる機能を作り、それをユーザーコンソールから扱えるようにします。
また、コマンドラインインターフェイスの仕組みも用意しているので、API呼び出しの部分をわざわざ作らず、システムに組み込めます。SORACOMの通信管理の仕組みを、あたかも自社システムのようにサービスに組み込めるのがメリットです。パートナーのサービスにもすでに組み込んでもらっている事例がありますね。
大谷:なるほど。今後ユーザーコンソールはどこまで進化するのでしょうか?
松井:もちろん、ユーザーコンソールもどんどん使いやすく進化させているのですが、究極の形はユーザーコンソールを使わなくても、自動的に運用・管理されている姿がゴールです。やはり何万回線も使っているお客さまが、1つ1つのSIMに対してそれぞれ操作するというのは考えにくい。外部システムとの連携で、たとえば不要なものは止めるとか、トラフィックが多いからアラートを出すみたいな自動化も可能です。
IoTシステムの構築はユーザーが工夫のしがいがある
大谷:構築ならず、運用面で見ると、SORACOMはどのような特徴があるのでしょうか? デバイスが増えたり、管理の手間が増えたり、さまざまな課題にぶち当たると思うのですが。
松下:ここまでの通信サービスの話、APIの話、いずれも共通しているのは、「お客さま自身で工夫のしがいがある」ということです。
サービスって、いったんスタートしたら通信もデバイスも固定的というわけではありません。デバイスやトラフィックが増えたり、管理の手間が増えたり、その時々で課題を解決していく必要があるのです。これに対して、SORACOMはつねに最適化の工夫が可能なサービスでありたいと思っています。
大谷:現在、クラウドにしろ、通信にしろ、いろいろなモノやサービスって提供コストが上がっています。これに対して、座して待つのではなく、ユーザー側が能動的に手を入れられるというのがよいですよね。
今井:シンプルで安価なデバイスを活用しようとすると、いかにデータ量を抑えるかが大きなテーマになります。HTTPSでWebサーバーにデータを送るような例だとプロトコル変換が必要になりますし、死活監視や接続維持のための通信が多発することもあります。そういう余計な処理やデータを抑えるような機能がSORACOMにはサービスとして備わっています。小さいデータ量でIoTを運用することが可能になるんです。トータルで、リーズナブルな運用が可能になります。
松井:本当はもっとデータを送りたいのだけど、データ通信量を抑えるためにデータを小さくしたいという条件が合ったとします。デバイス側でバイナリデータ形式で送信すれば小さいまま送信できるのですが、今度はクラウド側が受け取れないんですね。クラウド側がわかるJSON形式などに変換が必要になるんです。。
大谷:同じ開発者でも出自が違うので、データがうまく扱えないという問題ですね。
松井:はい。そこでデバイスの開発者とクラウドの開発者を仲介するようなインターフェイスを提供するのが、バイナリパーサーという機能です。
バイナリパーサーの機能を使えば、SORACOMプラットフォーム上で数バイトのバイナリ列の意味を解釈し、JSONに変換します。送る側は単純な信号として送るのですが、受け取る側はプログラムとして解釈しやすいデータ列として使えるわけです。これがオプションではなく、通信の基本機能として入っています。
IoTは通信だけじゃない デバイスや開発・運用までのトータルコストが重要
大谷:バイナリパーサーは、どのようなメリットがあるのですか?
松井:まずデータ量も抑えられます。変換をSORACOM上で処理を行なうので、デバイスの設計もシンプルになるし、クラウドやバックエンドの開発も楽になる。まさに三方よしです。
この機能は、今後利用ニーズが増える予測があります。衛星通信のIoT分野での利用です。衛星通信はまだまだビット単価が高いので、小さいデータにさまざまな意味を詰め込む必要があります。こうした用途にバイナリーパーサーはフィットします。こうしたところに、今までわれわれがIoTの通信向けにサービスを育ててきたノウハウが生きてきます。あります。
大谷:データ量が増えた方が通信事業者としては儲かるように思いますが。
松井:長い目で見るとお客さまのビジネスがサスティナブルに運用できた方が、われわれにとっても メリットが大きいんです。だから、データ量を減らすためのサービスや機能は、以前から提供しています。そしてユーザーの意見も聞きながら、今も機能を拡充し続けています。
大谷:今まではカバーエリアや通信データ量などを軸にプランの話を聞いてきましたが、コスト観点でのポイントはありますか?
今井:コストをなにと比べるかですね。たとえば、ガスメーターの検針をIoTで自動化した日本瓦斯(ニチガス)さまの場合は、月に1回人が各戸を検針で訪問していました。この人件費とコスト比較することになります。同じようにビルのメンテナンスで半年に1回、数人派遣しなければならないという話であれば、そこにかかるコストとIoTのコストを比べることになりますね。
ただ、重要なのはIoTのコストは通信だけではないこと。通信費に加え、デバイスの価格、そしてなにより開発や長年運用し続ける際にかかるコストまで含めたトータルコストをきちんと算出する必要があります。
日本瓦斯さまの場合、今までは検針が1ヶ月に1度だったので、需要家(コンシューマーのこと)のLPガスを切らさないよう、常に2本設置されているボンベのうち、1本を使い切るタイミングで交換を行なっていらっしゃいました。だから、2本めのベンボはまだ中にガスが一杯残っているのに交換していたそうなんですね。
でも、IoTを導入することで、契約先毎の日次のガスの消費状況を把握できるようになり、ガスボンベの配送や交換作業が効率化され、ガスボンベの生産、充填作業も最適化されました。検針のIoT化がいろいろな業務に良い効果を及ぼしたんです。
大谷:単純に検針が減っただけではないんですね。
松下:検針頻度が上がったことででユーザーの利用状況がわかるようになる。いわば「データの解像度」が上がると、別の価値を創出しやすくなります。これはソラコムにとっては、お客さまに教えてもらったことです。
SORACOMを使っていれば、最新テクノロジーのメリットを享受できるように
松井:SORACOMのサービスは、見た目のコストを意識しつつも、それ以上の価値提供を心がけています。例えばバイナリパーサーのような機能を外部のWebプログラマーに作ってもらおうとしても、なかなか大変です。特にクラウドが得意なエンジニアや開発者が、IoTやデバイスをやろうとしたら、ギャップは大きいと思います。
われわれのリーダーシップステートメントに「AvoidMuda~ムダを省く~」があるのですが、これって単に表面上のコストや無駄を省くだけじゃなく、業務が効率的になるのであれば、出費は惜しまないという方針を意味しています。たから、単純に安価であればいいのではなく、あとから運用しやすいとか、プログラムが書きやすいということも考えて、効率性ってなにかを考えるべきだと思っています。
オンプレミスで安いサーバー並べれば、安価にシステムが運用できるというのは、コストの一面のみを評価しているのだと考えています。見た目のコストだけでシステム作ると、効率化な運用につながらない。結果としてコスト的に高くつくということは十分にあり得ると思っています。「安物買いの銭失い」という言葉があるように、そこは冷静に見ていただきたいと思いますね。
松下:ソラコムの価値は、お客さまとともに進化していることだと言えます。現時点でソラコムに足りないモノがあれば、ぜひリクエストしていただきたいですね
大谷:最後に今後の予定や方向性について教えてください。
松井:たとえば通信技術も衛星通信のようなものが出てきたし、SIM自体も物理SIMからソフトウェア型のeSIMになり、チップ組み込み型のiSIMへと進化しています。こうしたテクノロジーをいち早くカバーしつつ、デバイスやクラウドもどんどん進化させていきます(関連記事:4月6日はSIMの日! あなたの知らないSIMの世界についてソラコムに聞いてみた)。最近では生成AIを活用することで、通信を最適化したり、データから価値を抽出できないか、試行錯誤を重ねてます。
SORACOMは、IoTの先進テクノロジーとユーザーからのフィードバックをうけて「進化し続ける」プラットフォームです。SORACOMを使っていれば、つねに新しいテクノロジーの価値を享受できる。そんなサービスのために私達も今後もチャレンジを続けていきたいと思います。
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