週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ゲーム分野での新たなAI活用の可能性も

AIがゲーム攻略のアドバイスをくれる時代がくる?COMPUTEXのNVIDIA発表まとめ

2024年06月02日 22時30分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集● ジサトラユージ/ASCII

小形PC向けGeForceに
AIによる7年越しのゲームアシスタント爆誕?

 COMPUTEX TAIPEI 2024開催にあたり、NVIDIAはいくつかの発表を行った。発表の主軸は同社が強力に推し進めるAIに関するものであり、新世代GeForceやそれに類する発表はなかった。残念ではあるが、COMPUTEXでは新アーキテクチャーの発表をしないのは例年通りのパターンである。

 NVIDIAはCOMPUTEXの基調講演での発表に先立ち、プレス向けに事前ブリーフィングを開催した。本稿はその内容のうち、コンシューマー向けかつ筆者が面白いと感じたを内容をまとめたものである。

小形PCに向いたビデオカードをわかりやすく

 近年のビデオカードはとにかくデカい。GPUの性能と消費電力が連動するように、ビデオカードのクーラーサイズも大型化。実質3スロット占有は当たり前、3連ファンでカード長300mmも当たり前となっている。

 今時のATXケースはこうした大型カードも普通に収容可能になっているが、そのぶんSFF(Small Form Factor)、いわゆる小型のPCケースに入れるには厳しい。どうやって入れるかあれこれ悩むのも自作PCの楽しみではあるが、それを面白いと感じられるのはかなり極まった自作erだけだろう。

 そこでNVIDIAは「SFF-Ready エンスージアストGeForce搭載カードガイドライン(SFF-Ready Enthusiast GeForce Card Guideline)」を発表した。カードの寸法を規定し、それ以下に収まるものを「SFF Ready」としてアピールしてていこうという施策である。 具体的にはカード全長304mm×高さ151mm×カード厚50mm(2.5スロット)に収まることが条件となっているが、これは今までの感覚においても特別小さいカードどころか、RTX 4070〜RTX 4070 Tiクラスのカードではごく普通のサイズ感である。

SFF Ready エンスージアストGeForce搭載カードを名乗るには304mm×151mm×50mm(2.5スロット)に収まることが条件。一方のPCケース側はそれよりやや余裕を持たせ312mm×154.5mm×50mm(2.5スロット)の空間が確保できることが条件となる。この図の段階でSFFをMini-ITXケースのみに限定していないことがわかる

NVIDIAの公表したSFF ReadyなGeForce搭載カードの一覧。製品名に表記揺れのある資料なので現時点では参考程度にとどめておきたい。RTX 4070より下のGeForceがないのは「エンスージアスト向け」GPUと位置付けていないためだ

NVIDIAの公表したSFF ReadyなGeForce搭載カードに適合するPCケース一覧。基本的にMini-ITXで占められているがMicro-ATXも含まれている

この「GeForce RTX 4070 SUPER Founders Edition」もSFF ReadyなGeForce搭載カードに含まれる。SFF Readyだからといってカードそのものが小さいという意味ではない

 この施策は「この小形PCケース○○○○には、SFF Readyを掲げているカード▲▲▲▲が無理なく入る」というお墨付きを与え、上位のGeForceを買ったのに小形PCケースに入らない! 何を選べば正解なのかわからない! という悲劇を事前に回避するのが目的である。

 コンパクトなGeForce搭載カードを生み出すために新技術を導入とか、次世代GeForceは今よりも小さくなる、という話では断じてないという点に注意されたい。NVIDIAは今回の発表でSFF Readyなカードのリストと、これに適合する小形PCケースのリストを発表しており、我々はここからピックアップする形になる。今後SFF Readyな製品をどのようにアピールする(製品外箱にアイコンを印刷する/シールを貼るetc)かは明らかにされていない。

 この施策は小形PC自作に対するハードルを下げてくれるという点において評価できる。しかし現状の小形PC自作、特にMini-ITXマザーボードの選択肢・供給量が非常に乏しいという現状を鑑みるに少し遅すぎたのではないだろうか。

 特に現行のSocket AM5やLGA1700マザーでは配線難度の高さや実装面積の縛りなどから、マザーボード自体も高額だし、ラインも1種類あれば御の字という状況だ。現時点の小形PC自作は相当に覚悟のキマった自作erしかとれない選択肢なのだ。せめてもう1世代前にこういう施策があれば、もっと評価されたのでは……?

GeForce搭載ノートでAI開発がより楽になる

 ここから先はAI絡みの話となる。今のコンピューターを語る上でAIの利用はもう不可避なことは言うまでもない。それは翻訳やゲーム、コンテンツクリエーション等応用範囲が広く、かつこれまでになく強力だからだ。そしてこういったAIはネットを通じて提供される(クラウドサービス)事が多い。

 例えば翻訳サービスである「DeepL」、音声→テキスト変換サービスである「Otter.ai」等はその好例だ。学習モデルをサーバー側にとどめておけるし、自分のPC側は特にAI処理に強いハードでなくてもよい。「ChatGPT」のように普通のPCでは収まらないほどの大規模なAIも、クラウドサービスで展開する必要がある。

 しかし、これからもっとAIと深く関わるような環境を考えると、クラウドサービスは都合が悪い。まず第一にクラウドサービスはインターネット接続がない状況では使えない。第二に個人情報等の秘匿性の高い情報が関わるデータをクラウドサービスで扱わせるのは抵抗がある。

 そして第三に、レスポンスの高い処理が必要な処理(特にゲーム)ではクラウドサービスでは使い物にならない。第四にクラウドサービスは誰かが回線やサーバー代を払う必要がある(だから有料になる)。だからこそ、インテルもAMDも「NPU(Neural Processing Unit)」を載せ、ローカルでAI処理ができるよう進化しているのだ。

クラウドサービスのAIは高性能かつ巨大な学習モデルが使える一方で、ネットが使えないと意味がなく、プライバシー面でも懸念が残る。PCのGPUやNPUを利用するAIはプライバシーの点で有利(性善説的すぎる考えだが)かつ電源が入っていれば自由に使える。またNPUよりもGPUのほうが大きな学習モデルが利用できる

 そこでNVIDIAはGeForce RTXシリーズの搭載されたノートPCを「RTX AIノート(正確にはRTX AI Laptops)」としてアピールする施策を打ち出した。NVIDIAは新しいNPUを作ったわけではなく、既存の製品に“バズワード”を付けただけという「よくある話」ではあるが、RTX AIノートには最新のAI関連のライブラリー、AI推論や学習に関するSDK(TensorRT-LMMやcuDNN、DirectML、OptiX、DLSS、ACE、Maxine等)が導入済みで出荷される。

 つまり、RTX AI非搭載ノートPCではAI、特にAIを使った何かを開発するためにあれこれ導入するという手間が必要だったが、RTX AIノートPCであればある程度セットアップ済みになる。NVIDIAによればMac(明言はされていないが最新のArmベースのMacBook Pro?)上で動くStable Diffusionなら最大7倍の速度が期待できると謳う。AI関連ではデファクトスタンダードの地位を築いたNVIDIAが、さらに地盤を固めるための施策である、といえるだろう。

ASUS「TUF A14」やMSI「Stealth A16」ほか200以上の製品がRTX AIノートPCとしてリリースされる。すべてWindows 11の“Copilot+”対応であり、(NPUより)強力なGPUを備えAI関連のライブラリーやSDKを導入済みで出荷される

 AIを使ったWindowsのアプリ開発を始めても、そう簡単にローカルで動作するアプリとして展開できるわけではない。ゲーム内コンパニオンをAIで実装したい場合は、一般的なLLMモデルは使えない。そのゲームに不要なデータを多量に含んでいるし、ゲーム固有の情報(ゲームの世界観や用語)を教え込む必要がある。そしてその学習モデルをローカル環境のNPUやミドルクラスのGPUでも実行できるよう最適化も必要だ。

 NVIDIAが発表した「RTX AI Toolkit」は、Windows上で動くAIアプリを作るにあたって、使いたいAIモデルとWindowsアプリのギャップを埋めるためのものだ。RTX AI Toolkitを利用することで、デスクトップ用のRTX 4090でしか動かないようなAIをノートPC用のRTX 4050でも快適に動くように最適化することができる。

既存のAIモデルはローカル環境で動かすには重過ぎるし、個別のアプリに必要な情報が欠落している。学習チューニングから最適化、最後の展開までをよりスムーズに行うのがRTX AI Toolkitの役割だ

ファンタジー世界におけるNPCの反応を汎用学習モデル(Llama 3)で構築すると、処理速度は毎秒48トークン、かつVRAMは17GBが必要となるため、RTX 4090環境でないと動かない(左側)。しかし同じモデルをRTX AI Toolkitで最適化&チューニングすることで速度は4倍以上、VRAM消費量も3分の1になりノートPC用RTX 4050で動作。しかもレスポンスもかなり“それっぽい文章”になった

AIがゲームをアシストする時代

 今から7年前のエイプリルフールにおいて、NVIDIAが「G-Assist」なる画期的(?)デバイスに関する動画(https://www.youtube.com/watch?v=smM-Wdk2RLQ)を上げたのを覚えているだろうか? 一見USBメモリーのようなG-AssistをPCに挿しておけば、ゲーム中に突然離席せざるを得ない時でも、代わりにゲームをプレイしてくれるというものだ。

 無論これはすべてネタ。G-Assistは単なるUSBメモリーだったし、勝手にプレイしてくれる機能なんてなかった。だが2024年、NVIDIAは「Project G-Assist」を本当に起動させたのだ。とはいえ最初のG-Assistとはかなり違った姿で、だが。

7年前、NVIDIAがエイプリルフールに公開したG-Assistは単なるネタだったが、AIの力をゲームに利用するというビジョンは今に継承されている

 今のゲームは広大なマップや複雑なスキルツリー、有利/不利なシナジーなど、プレイヤーが追わなければならない(でないと不利になる)情報が多い。そして往々にしてプレイヤーはその膨大なデータ量に溺れ、疲れてしまう。

 Project G-AssistはAIのパワーを使ってプレイヤーを補助するアシスタントを作るためのフレームワークだ。プレイヤーの質問(テキストないし音声)の認識、ゲーム画面の分析、そしてゲームにおける所持品やレベルなどのパラメーターをニューラルネットワークに投入し、その結果をユーザーに音声やテキストで返すというのが全体の流れだ。

 プレイヤーの質問やゲーム画面の分析は既存技術でも可能だが、Project G-Assistではゲーム内のパラメーター取得用に専用APIを作ることで、ゲームをより深くAIに理解させることを志向している。7年前のG-Assistと違うのは、ゲームプレイに直接介入するわけではなく、あくまでアシストに徹しているという点だ。

Project G-Assistはプレイヤーからの質問やゲーム画面の内容だけでなく、ゲーム内パラメーターもAPIを通じて取りこんでいるという点にある。そしてゲームの知識はデータベース内に格納され、ニューラルネットワークより参照されることになる

 Project G-Assistの面白い所は、「○○というアイテムを拾いましょう」とか「××を作るには▲▲が必要です」みたいなゲームのアシストだけでなく、パフォーマンス分析やチューニング的な側面でもアシストしてくれるという点だ。ゲーム画面のフレームレートを測定したり、設定のどこに問題があるか分析し、さらに設定を最適化するアシストもしてくれる……。日本語でサービスされるか不明だが、これは面白い機能だ。

「Ark: Survival Ascended」での例。G-Assistに「画面に出ている恐竜は何か」と質問すれば、G-Assistが画面を分析してティタノサウルスであると答える。さらにプレイヤーがこれを手懐ける方法を質問すれば、必要な手順まで答えてくれるだろう

レベルアップしたら次にどんなスキルにポイントを割り振るべきか? と質問すれば、今のプレイヤーの状況を判断した上で“まずはスタミナに振るべき”と理由まで付けて返してくれる

G-Assistはゲームのパフォーマンスに関するアドバイスもしてくれる。「Cyberpunk 2077」において“ディスプレーの設定に何か問題はあるか?”と問うたところ、G-Assistは「リフレッシュレート240Hzのディスプレーなのに60Hz設定になっている」と問題を認識し、240Hzにするよう助言してくれる

G-Assistにゲームのフレームレートやシステムレイテンシーの計測を依頼すれば、即座に計測しグラフ化してくれる。遂に我々テクニカルライターもAIに駆逐されようとしているのだ……

新GeForceは今夏〜今秋に動く?

 そのほか、様々なAI関連の発表はあったが、筆者が特に面白いと感じたのは以上の3点となる。GTX 10シリーズ以降のNVIDIAは新GeForceの発表をゲームイベントに絡める形で行っており、そのパターンを踏襲するのであれば発表は今夏、発売は今秋となるだろう。その時までじっと待ちたい。

その他のトピックとして、古いゲームに最新のグラフィック技術を纏わせる「RTX Remix」がオープンソース化。ゲームの互換性も向上した

定番動画プレイヤー「VLC Media Player」と「Davinci Resolve」が「RTX Video Super Resolution」に対応。AIを利用した動画の高画質化機能を利用できるようになる

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります