あえて高リスクな「アニメ・ゲーム同時制作」に踏み切る
まつもと 最初に小川さんのプロジェクトでの立ち位置からおうかがいしたいと思います。
小川 私はいわゆるマーケティングディレクターです。ゲーム「陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン」(以下、カゲマス)におけるマーケティングプランの策定をはじめ、どういったクリエイティブを作っていくかなども含めたマーケティング周り全般を担当しています。
まつもと ありがとうございます。今回、お話をうかがおうと思ったきっかけは、Discordのサーバー「陰の実力者になりたくて! 総合コミュニティ」を拝見したからです。本当にびっくりしまして。1つの作品のファンコミュニティーが極めてアクティブに動いていることに驚かされました。
『陰実』はライトノベル(Web小説)から始まり、コミック、アニメ、ゲームと幅広くメディア展開している作品です。さっそくですが、まずメディアミックスの展開概要をゲーム運営の立場からこの連載の読者に紹介するようなかたちで教えていただけますか。
小川 弊社は今回、アニメの製作委員会にも入らせていただきました。基本的には『陰の実力者になりたくて!』のゲームを制作するためです。そして今回のメディアミックスにおいてかなり特徴的なのは、アニメ第1期の放送中にゲームがリリースされていることだと思っています。
もちろん、ゲーム会社としてはリスクが高い試みです。“多くのアニメや動画など、コンテンツがあふれる現代において、アニメがどれほど視聴されるか読めない”というなかで、自分たちの目利きだったり、版権元さん(KADOKAWA)との信頼関係をベースに、1期放送中にリリースできるように開発を進めるという展開はかなり珍しいと思います。
まつもと “とりあえず青田買いしてアニメが当たったらゲームも作り始めよう”みたいな形ではない、ということですよね。ですがアニメ制作と並走するというのは、相当なご苦労があったかと思います。
小川 開発からは“ゲームで使える素材がまだ存在しない”ことには苦労したと聞いています。
アニメも制作している最中にゲーム作りを並行して進めるかたちになるので、十分な資料がないことがあったそうです。「まさに今、アニメ用の資料を作ってます!」というなかで(アニメ版のデザインをもとに)進める必要があったので、開発期間もかなりタイトになりました。
とは言え、放送中にサービスを開始することは、ゲームにとってはもちろん、作品にとっても非常に大きな効果をもたらすと考えているため、ゲーム開発でよくある『もう少しブラッシュアップすれば、もっと良くなるから開発期間を延ばそう!』という考えを捨てたと聞いています。
まつもと 放送日時がすでに決まっているわけですものね。あと、たいていアニメスタジオは本編制作で手一杯になるので、ゲーム側で急遽“決めカット”みたいなものが必要になっても供給は困難でしょうし。
小川 はい。ゲームの都合でアニメ放送をズラしてくださいとは言えないので。そういう点でも今回のメディアミックスは、関係各所の協力と信頼を基に、Discord以外の部分でも極めて珍しい展開をしていたのかなと思います。
まつもと もう少し基本的なところもうかがいたいのですが、まずアニメとゲームがほぼ同時に進み始めて、「カゲマス」がリリースされたのはいつ頃でしょう?
小川 リリースは2022年11月29日で、アニメは第1期の第8話放送後から9話放送直前のタイミングです。ただ、9月下旬のアニメ開始直前の生放送番組で「ゲーム化します」という発表はさせていただきました。
『陰実』は“これから歴史を作っていく”作品
まつもと 前述の通り、『陰実』は原作小説のほかコミック・アニメ・ゲームと3つのメディアミックスがあります。Discordのお話に入る前に、それぞれどういったプレイヤー/ファン層なのかもうかがいたいです。おそらくDiscordを選択された理由ともつながると思うので。
小川さんは、作品に紐づいたファンって、マーケティング的にどんなふうに分析をされていますか?
小川 私たちのなかで明確になっているのは2つです。まず男女比は9対1。そして何より、リリース前から海外人気がすごく高いことですね。それこそPVをはじめとする動画を公開すると、海外からのコメントが目立っていました。
ですから、“これから始まる作品”としては、ある程度グローバルな地盤はあったと思います。ただ、Discord利用に関しては『陰実』のプレイヤープロファイルがきっかけではないんです。
まつもと それは興味深いですね。年齢層はいかがですか?
小川 年齢層はゲームとアニメで異なると思います。アニメは10代も多いのですが、ゲームは20代後半から30代がメインですね。
まつもと 案外ばらけています。
小川 それに関しては、そもそも我々がそうした年齢層に対してアプローチしたという理由もあります。ゲームは20代後半から30代をメインターゲットにしていますので。
まつもと ゲームの中身だけでなく、広告を打つときの媒体選びなどにも関わってくるわけですね。
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