5期連続で世界一のFrontierは
消費電力が少ないのが強み
今回間に合うかと思ったEl Capitanであるが、残念ながらデータは登録されていない。連載751回でも触れたように、すでに納入と設置はスタートしているのだが、まだ今回はデータを出せるところまではたどり着かなかったようだ。引き続きTOP500にはFrontierが君臨しているわけだが、今回アップデートがあった。
以前Frontierのノード構成は連載670回で説明したが、これは2022年6月初登録のもの。2023年6月以降はTotal Coreが869万9904個になっている。2022年11月までは9248ノードだったが、2023年6月以降は9185ノード+208コア、という不思議な数字になっている。
まさか既存のノードにInstinct MI250(208XCU)を1つ追加したわけではないと思うが、そのあたりはいい。不思議なのはこれでRpeakが次第に増えていることだ。連載670回で筆者はInstinct MI250Xの動作周波数を1.6GHz程度に落として運用しているのだろうと推定したが、チューニングが進んで動作周波数を引き上げているのかもしれない。
電力効率は下表のとおりで、2024年は2023年より効率こそわずかに落ちているものの性能消費電力比はむしろ向上しており、また実効性能も1.2EFlopsに達しているなど、かなり実用的であることがわかる。
Frontierの電力効率と性能消費電力比 | ||||||
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効率(Rmax/Rpeak) | 性能消費電力比(Rmax/消費電力) | |||||
2024年6月 | 70.33% | 52.93GFlops/W | ||||
2023年6月 | 71.08% | 52.59GFlops/W | ||||
2022年6月 | 65.38% | 52.23GFlops/W |
前述ようにHPCG 500では富岳におよばないものの、富岳はFrontierよりも消費電力が多い(LINPACKの場合だからそのまま数字を当てはめて良いか疑問は残るが2万9899KWである)ので、HPCGの場合でも性能消費電力比はFrontierが富岳を上回っているかもしれない。
運用コストという意味では、同じ量の計算をするならFrontierの方がやや安価になる(≒消費電力が少ない)というのは、Frontierの強みの1つだろう。次回のTOP500にはEl Capitanが出てくることになるので、このあたりがどう変わるか楽しみである。
性能消費電力比を重視したGreen 500では
Grace Hopper GH200がトップ10の半分を占める
もう1つの今回の目玉はGrace Hopperの躍進である。電力効率を評価するランキングGreen 500のTop 10は下の画像のとおり。
これは性能消費電力比を重視したリストだが、Top 10の1/2/3/5/8位と半分をGrace Hopper GH200が占めている。絶対性能という意味では11位に入ったロスアラモス国立研究所のVenaroがGH200では一番高いが、コア数48万1440個。2560ノードのGH200と920ノードのGraceチップを組み合わせた構成である。
ただ、ピーク性能は100PFlopsに届かない程度でしかない。とはいえ、ローレンス・リバモア国立研究所のSierraや国立エネルギー研究科学コンピューティングセンターのPerlmutterと同等以上の性能を、比較的コンパクトに構成できる(価格は不明だが、Sierraよりも間違いなく安いだろう)のは大きな強みである。
Venadoは演算性能よりもむしろMemory Wall(メモリー帯域のボトルネック)に向けた構成なのだそうで、これをそのままほかに利用できると考えるのはまた違う話なのだろうが、運用コストを抑えつつそこそこの性能を発揮できる、というのはHPCの分野でも重要になりつつあることを考えると、次のTOP500ではさらにGraceやGrace Hopperを採用するノードが増えるかもしれない。
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