kintoneユーザーによる事例・ノウハウ共有イベント「kintone hive hiroshima vol.1」が広島で初開催された。今回は、4番目に登壇した大原美術館の玄馬寛子氏のプレゼン「新生大原美術館 やってみよう」をレポートする。
美術品を守るために始めたパートナー制度、管理するためのkintoneは解約寸前だった
大原美術館は1930年に岡山県倉敷市に設立され、日本で初めて近代西洋美術を展示した私設の美術館となる。創設者はクラレやクラボウ、中国電力、中国銀行などの社長を務めた実業家である大原孫三郎氏。自身がパトロンとして支援し、設立前年に死去した洋画家・児島虎次郎氏の収集した美術品を展示するために開館された。
初期の代表的なコレクションには、モネの「睡蓮」、エル・グレコの「受胎告知」など超有名な作品がある。「水連」は児島氏が直接モネのアトリエに出向き、画家のモネ本人と直談判して購入したものだ。
大原美術館は珍しい収益モデルをとっている。通常、私立美術館は母体となる企業が支援・運営、公立の美術館は国や自治体が支援しているが、大原美術館は観光地にあるという立地条件で、入館料収入だけで運営を続けてきた。しかし、コロナ禍で入館収入がゼロになるという大打撃を受けてしまう。
「人が来ても来なくても、後世に芸術美術作品を残していくため、入館料収入に頼らない資金調達をすることになりました。理事長肝いりで導入したのがオフィシャルパートナー制度です」(玄馬氏)
ここで課題になったのが、オフィシャルパートナーを管理するためのツールがないこと。専任のシステム担当者もいないので、2022年に理事長判断でkintoneが導入されることになった。
「安く、誰でも、簡単に、という思いでkintoneを導入しましたが、導入して1年経っても、まったく使われず、解約が検討されていました。私はこのタイミングで入職し、kintoneの運営を任されたのです。多分解約するけどね、ちょっとやってみて、と言われたんです」(玄馬氏)
ポテンシャルを信じてスキル武装 使われていなかった原因は視点のズレ
玄馬氏はkintoneのことは知らなかったが、サイボウズが社員満足度が高い会社ということは知っていた。そんな会社が作る製品が、この程度のわけがないと思い、まずkintoneのスキルを身に着けることに。
「kintoneは乗り物、目的地に向かうための手段です。初めに、私自身がスキル武装しました。一通りの無料セミナーを受けて、基礎知識を学びました。そのおかげで、代理店と基礎知識を共通言語として話すことができ、解決の糸口も見つかりました」(玄馬氏)
さらに、わからないことがあったら、サイボウズのカスタマーサポートにも電話した。基礎知識を身に着けていたため、最短時間でアドバイスを受け、疑問を解消できたという。無料セミナーを受講していなかったら、何時間話しても解決できなかったかもしれない、と玄馬氏は振り返る。
kintoneを学んだ玄馬氏は、続いて状況把握をすることに。玄馬氏は現場の営業マンとして入職したが、kintoneの管理は営業事務から引き継いだ。両方の部署でヒアリング・分析したところ、kintoneが使われなかった理由はアプリを作る際の“視点のズレ”が原因なことがわかった。
営業事務は、管理しやすいようにkintoneをアプリを作っていたが、営業側にとっては入力項目が多かったり、出先で簡単に入力できないなど、ただただ使いにくかったのだ。玄馬氏はkintoneを解約するのではなく、改善しようと決意。現場でもストレスなく使えるアプリを作ろうと考えた。
ライトコースでもここまでできる、kintoneで実現したコミュニケーション活性化
営業メンバーには超多忙な理事長と副館長も含まれている。kintoneに関する会議を開催することは難しく、他の会議が終わった後の3分間などを使い、kintoneアプリの使いにくい部分などをヒアリングすることにした。意見をもらったら修正し、次に会ったときにまた1から2分の時間を取り、その場でアプリを触ってもらい、意見をもらうということを繰り返した。
積極的なヒアリングを重ね、さまざまな業務をkintoneアプリ化していった。そうすると、皆ががんばってkintoneに情報を入力するようになった。玄馬氏は使ってもらえたことだけでうれしく、すべての投稿に対し、全方位で“いいね!”のリアクションをした。また、アプリへの項目の追加や、ドロップダウンの設定方法などを画面を見せながら共有することで、担当者が自身でアプリを作るようにもなった。
「kintoneを属人化させず、すべての業務を誰でもできるようにしました。入力の負担を減らすために、選択式のフィールドにしたり、ルックアップフィールドを充実させました。そうすると『入力しやすくなった、ありがとう』と言われ、私ももっと使いやすくしていこうと思いました」(玄馬氏)
アプリの活用が進むと、コミュニケーションも円滑になり、職員のモチベーションもアップした。さらに、アプリを増やし、外部理事とも深くコミュニケーションがとれるようになった。これまでの会議では提供できる情報量が少ない分、意見ももらえていなかった。しかし、kintoneで情報を密に共有することで、意見として還元されることが増えたという。
これらの成果のおかげで、kintoneのアカウント数も増やすことができた。最少の5アカウントのうち、4アカウントを営業担当で利用していたが、有用性が認められチーム全員分の導入が決まった。1アカウントを増やすだけでも大変だったため、「予算の少ない公益財団法人にとっては大きな1歩でした」と玄馬氏。
メンバーの意識にも変化が起きた。これまでは情報共有はしていない、自分でやった方が早い、紙をめくって探せばいい、という声が聞こえていたが、今では、kintoneが楽だよね、欲しい情報に欲しい時にアクセスできるので便利、といったように意識が変わり、皆にとってハッピーな状況になった。
kintoneで効率化を進め、本来の業務に専念できる環境になり、組織のミッションに注力できるようになった。今後はさらに情報共有を進め、館内に横展開して、イントラネットシステムとして活用していきたいという。
「私たちは今、ライトコースを使っていますが、スタンダードコースにアップグレードできたら、システム連携させて請求書を作ったり、名刺管理システムなども活用し、より働きやすくしたいと考えています。公益財団法人がIT人材や予算が不足していても、kintoneのライトコースでこれだけできるんだということを知っていただき、皆さんのIT化の敷居が下がり、自分たちにもできる、と思ってもらえるとうれしいです」と玄馬氏は語った。
コミュニケーションを活発化させるためのポイントは?
プレゼン後にはサイボウズ 中国営業グループ広島オフィスの西尾陽平氏から質問が飛んだ。
西尾氏:kintone上でコミュニケーションを活発化させるのが大事だとは思いつつ、できていない会社が多いですが、気をつけたポイントはどのあたりにありますか?
玄馬氏:誰かの勇気ある投稿を見逃さないことです。あとは、短時間でもいいので、接点を何回も持ち続けること。1回伝えて終わりではなく、どうでしたかというフォローずっと続けることが大事だと思います。
西尾氏:kintone上のテキストでのコミュニケーションを盛り上げるために、工夫されているところはありますか?
玄馬氏:私はkintoneがまったく使われてない状況に入ったので、とにかく誰かがいいね!を押すとか情報を入力してくれるだけで嬉しかったんですね。そこに自分がさらに乗っかって、あってますよ!というのを伝えました。まずは、どれだけkintone触ってもらえるかが重要だと思います。
西尾氏:玄馬さんと同じように、いきなりkintoneを担当してくださいと言われる方も少なからずいると思います。セミナーで学ばれて、パートナーの力も借りて、サポートも使ってみたという話でしたが、何かおすすめのコンテンツはありますか?
玄馬氏:kintoneのサイトに機能の項目ごとにマニュアルが掲載されています。マニュアルを全部読むというと気が重くなりますが、私の場合は、ルックアップを使いたい時には、とりあえず該当のマニュアルだけを読みました。マニュアルを読むのが一番ハードルが低いですし、その知識があればサポートとも共通言語で会話できます。自分のレベルに応じた取っ掛かりから入り、知識を深めることがコツだと思います。
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