第277回
Auracastは、今後普及が期待されているBluetoothの放送機能
スマホがLE Audioに対応していなくても、なぜAuracastを使えるのか?
Bluetoothを使ったブロードキャストサービス「Auracast」が広がるためには、LE Audioの普及がカギとなる。
それはAuracastがLE Audioをベースにしているからだが、アップルはいまだLE Audioに対応するかどうかについて明確にしていない。また、AndroidにおいてはOSの断片化問題がある。これもLE Audioの普及を阻害する要因となっている。
こうした状況を踏まえて、Bluetooth SIGはAuracastの普及を促進させるもう一つのシナリオを示した。端的に言うと、イヤホンがLE Audioに対応していれば、スマホはLE Audioに対応していなくともAuracastを使用できるようにするというものだ。実はすでに昨年の体験イベント「Auracast Experience」でもすでに披露されていた。
そして、Bluetooth SIGは今年、その内容を明文化した最終ドラフトを発行した。その文書を読みながら、Bluetooth SIGが唱えるAuracast普及のためのシナリオを見ていこう。
Auracastはスマホを経由して音を聴く仕組みではない
まず、前提としてこの文書は、Auracastが提供するブロードキャスト・オーディオにおけるイヤホンとスマホのふるまいを明確に定義して設計するためのものだ。プログラムの仕様も含めた詳細な文書だが、細かなプログラムの実装上の手順はなるべく省いて、ポイントだけを紹介する。
まずAuracastによるブロードキャスト・オーディオは3つの要素から構成される。
・Auracastレシーバー: Auracastの受信機、具体的にはイヤホン、ヘッドホン、補聴器など
・Auracastトランスミッター: Auracastを送信するスマートフォン、PC、テレビ、そしてAURIシステムのような独立した送信装置など
・Auracastアシスタント: Auracast レシーバーのUIとなるスマホアプリやOS機能(画像の右上部分)
この名称はBluetooth ClassicのA2DPに相当する、LE AudioのBAP(Basic Audio Profile)でも定義されている。ちなみにAuracastではBAPの他にPBP(Public Broadcast Profile)というオーディオプロファイルが必要となる。
Auracastを使ったブロードキャスト・オーディオは、TVのチャンネルに似た概念だ。チャンネルを選択するように受信するAuracastブロードキャストを選択できる。仮にチャンネルが1つしかない場合は、特に悩む必要はないだろう。しかし、2つ以上ある場合には、どれかを選択しなければならない。
問題はAuracastを受信するイヤホンには通常そのためのUIがない。例えば、イヤホンの2回タップでチャンネルが切り替えられたとしても、そのチャンネルが翻訳か解説かまでは分からないだろう。そこで、Auracastアシスタントを用いて、スマホからイヤホンをリモート制御できるようにする。Auracastアシスタントは、ユーザーに対してチャンネルがどのような内容であるかを示し、選択もできるようにするソフトウェアだ。
将来的には、このAuracastアシスタントのUI機能が、Auracast対応のスマートフォンやPCなどに組み込まれることになる。ただし、そうした「Auracastネイティブ機能」を搭載した機器が市場に出回るには時間がかかる。そこで、Bluetooth SIGは世の中にすでにあるLE Audio非対応、Auracast非対応のスマホにも、Auracastアシスタントの機能を組み込めるようにした。
昨年のInter BEEで開催された「Auracast Experience」の体験記事でも紹介したが、イベントで使用したスマホはAndroid 12が動作する「Pixel 6a」であり、LE Audio対応ではなく、スマホ自体もAuracastには対応していなかった。この時のシステムが明文化されたことになる。
ここでポイントとなるのは、従来のBluetoothワイヤレスイヤホンはスマートフォン(またはPC)と1対1で接続するが、Auracast対応のBluetoothイヤホンはさらに外部の送信機とも接続された状況になるという点だ。つまり、Auracastの音声はスマホを経由してイヤホンに伝送されるのではなく、Auracastのレシーバーでもあるイヤホンが直接ブロードキャスト・オーディオを受信するというわけだ。この仕組みであれば、スマホがLE Audioに対応している必要はない。
スマホとイヤホンは、従来と同じプロトコルを使ったBluetoothで接続されており、スマホはイヤホンのコントローラーとしてのみ機能する形になる。そうすれば、iPhoneでも、古いAndroidスマホでも、Auracastアシスタント機能を利用し、Auracastシステムに加われるというわけだ。
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