フジヤエービックが主催する「春のヘッドフォン祭 2024」が4月27日に開催された。場所はステーションコンファレンス東京の5~6Fだ。ポータブルオーディオ関連ではこの時期恒例のイベントとなり、今年も多くの展示で賑わった。筆者が注目した製品を紹介する。
予想よりも新製品が多く、その内容も多岐に渡っていた。人の出も多く、会場内は開始からにぎわっていた。一時は規模を縮小せざるを得なかったこうしたイベントも、ようやく本格的に再始動してきたようだ。
Brise Audio「FUGAKU」、なんと250万円の受注生産!
ブリスオーディオ(Brise Audio)は、超弩級のポータブルオーディオシステム「FUGAKU」を発表した。本イベントのキービジュアルでも使用されている製品だ。独自開発のイヤホンと専用アンプを一体化したシステムで、250万円という価格も超弩級だ。特徴はアクティブクロスオーバー回路を採用した点だ。このためにイヤホン側にクロスオーバーはない。
また超高域にMEMSスピーカーを用いている点も特徴だ。ケーブルはもちろんブリスオーディオ製で、純銀ケーブル「SHIROGANE」の線材を応用したものとなる。音質はマルチアンプ形式らしいダイレクト感の高い音で、ホームオーディオのような迫力があって豊かなサウンドが特徴的だ。
Noble Audio「Fokus Apollo」、ブランド初のノイキャンヘッドホン
Noble Audioは、ブランドとしては初のANC対応ワイヤレスヘッドホン「Fokus Apollo」を展示した。有線での使用も可能だ。特徴はダイナミックドライバーと平面磁界型ドライバーを同軸配置したハイブリッド構成のドライバーを採用していること。それぞれ低域向けのウーファーと高域向けのツイーターとしての役割を果たす。音質は低音が分厚く迫力を感じる「リスニング指向」のサウンドだ。
また、Noble Audio製品では「Fokus Triumph」も展示。MEMSスピーカーをFALCONシリーズに続き、Fokusシリーズにも展開する。「FALCON MAX」とはダイナミックドライバーの口径が異なっているほか、FALCONシリーズよりも外装とハウジングが凝っていて、より高級な製品に感じられる。FALCON MAXと似た音質だが、より整って高精度な音を目指しているように感じられた。
オーディオテクニカ「ATH-WB LTD」、60周年モデルを有線化
オーディオテクニカは、発売されたばかりで木製のハウジングを採用したポータブルヘッドホン「ATH-WB LTD」を展示した。60周年記念モデルとして販売した、木製のワイヤレスヘッドホン 「ATH-WB2022」を有線仕様にしたモデルで、世界300台の数量限定生産、価格は28万6000円だ。有線アナログ接続向けの専用チューニングを施している。開発者に聞いたところ、新規のダイアフラムを用い、エアフローの工夫で音の広がりを出した点がポイントということだ。音は密閉型にしては抜けが良く、サウンドステージが広いのが特徴。立体感もある。また帯域特性も密閉型にしては良好。低域もよくコントロールされ、パンチの強さを楽しめる優れたサウンドだ。
AKG「N5」と「N9」、LC3plus対応ドングルを同梱
ハーマンインターナショナルのブースでは、“AKGブランドの再生”が目を引いた。完全ワイヤレスイヤホンの「N5」とワイヤレスヘッドホンの「N9」が出展されており、特徴はどちらも、LC3plusコーデックに対応したドングルを標準添付していることだ。LC3plus については開発元のフラウンフォーファーを取材した過去記事も参照してほしい。これほどまで早く市場に投入されるとは驚いた。
N9を試してみたが、USB Type-Cのドングルは、iPhone 15 Pro Maxでも問題なく使用できた。音質はかなり優れている。パンチがあり、AKGらしく声の再現も優れている。ドングルを外して通常のBluetoothで同じ曲を聴いて比較してみたが、音質は、LC3plusモードの方がよりシャープで、楽器の音も歯切れがよい。N9の価格は5万5000円前後となるそうだ。AKGというとオールドファンには懐かしいブランドだが、また楽しみな展開となりそうだ。
Campfire Audio「Fathom」、Knowlesの新ドライバーが味噌
ミックスウエーブのブースでは、久々に創設者のKen Ball(ケン・ボール)氏と話をし、Campfire Audioの新作「Fathom」の話を聞けた。Fathomは、6基のBAドライバーを搭載したマルチドライバーイヤホンで、2基が低音域用ドライバー、2基が中音域用ドライバー、2基が超高音域用ドライバーだ、この超高音域用ドライバーがポイントで、Knowles製の新しいユニットが採用されている。この新型ドライバーの特性を活かして、Ken Ball氏の哲学でもある”less is more(シンプルイズベスト)”の設計がなされている。その音質は素晴らしく、「Andromeda Emerald Sea」や「ARA」とも異なる純度の高いピュアな音質が魅力的だった。サウンドステージの広さも特徴的だ。価格は14万9800円。
SUPERIOR EX、qdcのイヤホンをFitEarがチューニング
アユートブースでは、2大カスタムイヤホンブランドqdcとFitEarのコラボ製品「SUPERIOR EX」が展示されていた。直販価格は3万3000円。シングルダイナミックドライバーを搭載した、qdcの「SUPERIOR」を、FitEarの須山慶太氏のチューニングで再設計したモデルだ。須山氏は「音楽の持つダイナミクスを最大限に発揮しながらも、オリジナルの良さを残してチューニングした」という。具体的には、オリジナルのSUPERIORでは高音域にあったピークを減らしているため、オリジナルモデルよりも音量を上げて音楽を楽しめるという。
またAstell & Kernの新しいハイエンドDAP「A&ultima SP3000T」も展示していた。SP3000TはSP3000と同様に、「AK4191EQ」と「AK4499EX」を搭載、デジタル部分はSP3000とほとんど同じだが、アンプ部分に真空管を搭載している。真空管は、SP2000Tが搭載したNutubeではなく、レイセオンのJAN6418軍用規格サブミニ管を採用するなど、本格的なものになっている。音質は音が柔らかく、残響音のようにトーンが豊か。響きも心地よい。オペアンプモードだとA&ultima SP3000の音に近くなるように感じられた。
final「10分間音響講座」、イヤホンの聞こえ方に個人差が出やすい理由を解説
finalは技術の会社らしく「10分間音響講座」というユニークな企画をしていた。これは動画を見ながら、個々人の感じる音の違いについて知るというもの。実際にfinal「E500」を実際に装着して音を聴き、講座が進む体験型の展示になっていた。概要は、耳は人によって外形が異なるため、感じる音はそもそも異なるが、それを打ち消して同じような音に聞くためのフィルターが人間には備わっている。しかし、イヤホンの場合には外耳等を経ず、直接音が聞こえてしまうので、そのフィルターが上手く働かない。そこでイヤホンの聞こえ方には差が出てしまう。つまり、finalの提供する「自分ダミーヘッドサービス」はその個人差をイヤホン側で吸収するための工夫だ。自分ダミーヘッドサービスを検討しているユーザーは、この動画を見ると自分ダミーヘッドサービスの内容がわかりやすいだろう。同講座がfinalホームページなどにアップロードされることを期待したい。
フォステクス「TP50RPmk4」、一時代を作った平面磁界型ヘッドホンが進化
フォステクスは、20年前の「T50RPmk3」を継ぐ「T50RPmk4」を展示した。名前が地味に変わっただけなので注目されていないが、実のところ本イベントのダークホース的な存在だったと思う。T50RP mk3は今日の平面磁界型ヘッドホンの隆盛となるきっかけの一つとなったモデルだが、T50RP mk4ではコイルパターンのレイアウト変更や最新技術の導入により全く異なり新規モデルと言って良い進歩がなされている。
T50RPmk3とT50RPmk4を比較して聞いてみると、T50RPmk3では昔の平面磁界型ヘッドホンらしく能率の低い暗い音だが、T50RPmk4では驚くほど能率が高くなり、明るく朗々と鳴る。予想価格は3万5000円弱だが、低価格で平面磁界型ヘッドホンを欲しいユーザーにとっては要注目機種だ。
FitEar「MH335DWEX」、堀田氏のもと現代的な音のチューニングに
FitEarは、Inter BEEで発表した「MH335DWEX」を展示。須山氏によると、もともと「MH335DW」はステージ向けのモデルだったが、それをスタジオ向けの「MH335DW Studio Reference(SR)」として、高域を伸ばしパーツを見直したという。さらに、MH335DWEXでは、堀田息吹氏を中心に現代的な見直しを行ったモデルで、リスニング目的を含めてオールラウンドに使えるようにしているという。アップグレードサービスも実施。その場合の料金は3万5000円となる。
Softears「Enigma」は約30万円12ドライバー構成
シンガポールのJabenブースでは、Softearsの新作「Enigma」が展示されていた。Softearsは、中国で2017年に創業した比較的新しいブランドだ。Enigmaは最新のモデルで、ダイナミックドライバー2基、BAドライバー6基、ESTドライバーを4基と多数のドライバーを搭載している点がポイントだ。実売価格は30万円ほどになるハイエンドモデルである。音は立体感が高くワイドレンジ。どちらかというとリスニング寄りで、躍動感と迫力のあるサウンドが楽しめた。
Eversolo「DMP-A8」
ブライトーンは国内導入されたばかりのネットワークプレーヤーEversolo「DMP-A8」と、セットでも使えるDAC内蔵ヘッドホンアンプ「DAC-Z8」を展示した。
DMP-A8はAndroidベースのシステムなので、本体側でApple Musicの再生できるのがポイントだ。Apple Musicのハイレゾロスレス音源を、本体で直接再生できる。Amazon Musicで再生中の楽曲を、AirPlayなどで受信できるプレーヤーはあるが、Apple MusicはRoonでも統合ができないため、ハイレゾでかつ本体で直接ストリーミング再生できるプレーヤーはまれである。PCオーディオを構築しているユーザーは重宝するだろう。ただし、DMP-A8にヘッドホン端子はないので、ヘッドホンユーザーは別途ヘッドホンアンプを接続する必要がある。
タッチ操作の反応もそう遅くはなく、画面の視認性も良さそうだ。DAC-Z8からヘッドホンで音を聴いたが、透明感があり引き締まって緩みがないサウンドが楽しめた。
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