2024年3月26日、ソラコムは、東京証券取引所グロース市場への上場を果たした。設立から10年に渡って「日本発のグローバルIoTプラットフォーム」を掲げてサービス拡充を続けてきた同社だが、KDDIによるM&A後もさらに上場を目指すという「スイングバイIPO」を達成し、一つの節目を迎えた。
技術的優位点と右肩上がりのリカーリング収益で成長
元AWSジャパンの玉川憲氏を中心に2014年11月に設立されたソラコムは、通信、デバイス、クラウドまでをカバーするIoTプラットフォームを展開する。高価な設備をデータセンターに備える他社と異なり、AWSクラウド上にモバイルコアを構築することで、高い競争優位性を確保している。また、通信のみならず、デバイスやクラウドサービスも展開しており、幅広いIoTのニーズに応える。
現在、同社は200種類以上のパートナーデバイスと自社デバイス、3G/LTE/5Gのセルラー通信やLPWA、衛星通信などのデータ通信サービス、そしてデータ蓄積や可視化、アラート通知、リモートコントロール、メンテナンスなどのSORACOMクラウドを提供する。サービスは全部で22で、必要なものをブロックのように組み合わせることでIoTシステムを構築できる。
顧客も2万を超え、スマートメーカー、設備監視、モビリティ、見守り、ロボット連携などさまざまな用途で用いられている。当初からグローバル対応も進めており、北米、南米、欧州、アジア、日本にSORACOMモバイルコアがホストされている。提携キャリアは392に上り、現在180の国・地域でSORACOMにつながる。約150名の従業員の1/3も米国や英国の拠点をベースにしており、売上の1/3もすでに海外だという。
上場発表会において、ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏は、2024年3月期の予想として同社の業績を披露。売上高は80億円にのぼり、営業利益が5期連続黒字になったこともアピールされた。また、契約回線数も600万回線を達成。主要顧客解約率も0.3%に抑えられており、売上継続率も128%になるという。
こうしたソラコムの成長の背景には、デバイスとSIM1枚からスモールスタートし、商用化やグローバル展開にまでステップを踏みながら進んでいくIoTビジネスの特性があるという。現在、同社のIoT SaaSのビジネスはすべてのフェーズでデバイスやSIM購入を追加することで得られる継続的な「インクリメンタル収益」が、通信やクラウドの「リカーリング収益」を生み出すというサイクルで拡大を続けている。そのため、デバイスの売上に変動があっても、リカーリング収益は基本的に右肩上がりだ。
今回のIPOを受け、こうした安定したリカーイング集積の成長に加え、グローバル成長や大型案件を加速させる。その先にはKDDIやSUZUKIとのコネクテッドカー分野の戦略的なアライアンス、通信事業者向けのプラットフォーム提供なども予定しており、自らのM&Aや出資もより柔軟に進めていく。玉川氏は、「グローバルで見ても、IoTプレイヤーの上場はまだ少ない。でも、今後IoTは電気や水道と同じようなインフラとなる。孫に誇れるような仕事をしていきたい」と抱負を語る。
M&AかIPOかの二択に、スイングバイIPOという3つ目の選択肢
今回の上場はこの成長を加速する「スイングバイIPO」になる。同社は2017年にKDDIの傘下に入ったものの、WiL(World Innovation Labs)、セコム、ソースネクスト、ソニーグループ、日本瓦斯、日立製作所などから出資を受け、このスイングバイIPOを目指してきた。発表会では、玉川氏に加え、KDDI代表取締役社長の髙橋誠氏、WiL代表取締役の伊佐山元氏を迎えたトークセッションが行なわれ、このスイングバイIPOの意義が語られた。
スイングバイとは惑星の引力を利用して宇宙船を加速させるという宇宙用語で、大企業の力を借りてIPOを実現するという意味を持つ。もともとKDDIの髙橋氏から「M&Aを受けても、IPOを目指す方向性をポジティブに示す表現を考えてほしい」というリクエストを受け、玉川氏が使うようにしたフレーズだという。
ソラコムに出資するWiLの伊佐山氏は、「今までのベンチャーは成長して、M&Aしても回収したらおしまい。物足りないと思っていた」と振り返る。また、KDDIの髙橋氏も、「M&Aは今までけっこう失敗している。ロックアップすると、人がいなくなる。なぜだろうと思っていた」と語る。こうした課題に対する一つの解決策が、M&A後もIPOを目指すスイングバイIPOだ。
今回ソラコムがスイングバイIPOを実現できた理由について髙橋氏は、「グローバルに進みたいという高い理想を持っていた」ことに加え、「AWS出身ということで、大企業をよく理解していた」からだ説明した。またIPOを目指す理由として、玉川氏から「グローバルを目指すにはエンジニアが必要。エンジニアを集めるにはIPOが必要」と相談を受けたという。
今回の上場について玉川氏は、「今までスタートアップはM&Aか、IPOの選択肢しかなかった。でも、M&Aを経ても、IPOを目指すという第3の選択肢を提示できたのではないか」と語る。ソラコムはKDDIによるM&Aで大型案件で重要な「お墨付き」を得て、日立やソニー、セコムのようなグローバルに認知のある企業の出資を受けた結果、今回の上場が実現できたと説明。昨年、上場申請を一度取りやめた経緯もあり、「とにかく感謝しかない」と語る。
髙橋氏も、「軽いIPOが多い最近の動向を見れば、かなりインパクトのあるIPOではないか」とコメント。伊佐山氏も「上場で話題になっても、時間がたつと株価が落ちてしまうところは多い。夢で盛るには限界があるので、王道をきちんとやりきることが重要」と応じる。
公開後の寄り付き注文は買い気配となっていたが、髙橋氏は「KDDIと合わせて4500万以上の回線という市場の広さ」に加え、「海外売上が30%を超えている」「キーインベスターが事業を支えている」という点も、ソラコム人気のポイントだと持論を披露。一方、玉川氏は「KDDIによるM&Aが第二章の始まりだとしたら、IPOは第三章の始まりで、あくまで通過点」と述べ、日本発のグローバルIoTプラットフォームに向け、アクセルを踏み込んでいく意気込みを新たにした。
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