先だって、アウディ・ジャパンによるメディア向けの「アウディe-tron EV ワークショップ レベル0/EV入門者向け勉強会&試乗会」が開催されました。その内容をレポートします。
フォーリングスに示されるアウディ誕生の歴史
EV勉強会において、最初に説明されたのは、アウディ社の歴史と現在の電動化戦略についてでした。
アウディの歴史は、1899年のホルヒ社の設立に始まります。創設者はアウグスト・ホルヒ氏です。「レースは技術の実験室」「私は常に、最高の素材を使って最高のクルマを作ることだけを目指してきた」という言葉が残っています。ただし、その言葉からも察することができるように、ホルヒ氏は採算性を重視しなかったため、すぐにホルヒ社から追い出されてしまいます。
しかし、ホルヒ氏はめげずに1909年にアウディ社を設立しました。ホルヒに近いドイツ語の「Horchen(聴く)」というラテン語の「アウディ」が新会社の社名の由来となっています。
その後、ドイツは第一世界大戦後の大恐慌時代を迎えて、業界の再編成が行なわれます。その中で、ホルヒ社、ヴァンダラー社、アウディ社、デーカーヴェーの4社が合併。新たにアウトウニオン社が生まれました。ここで、現在に至る「フォーリングス」のエンブレムが使われるようになりました。これが、現在のアウディに続くルーツになります。
「技術による先進」をスローガンに
そんなアウディは、1969年に「技術による先進(Vorsprung durch Technik)」というブランドスローガン掲げます。現在のアウディを生み出した礎となる方針です。どのブランドよりも、最新技術を最も早く開発して市販車に採用するという内容です。その技術のひとつが、アウディの代名詞ともなる、クワトロと呼ぶ4輪駆動技術です。
そして、電動パワートレインの開発も1989年から開始しており、その技術が現在の電動車にまで脈々と継承されているといいます。現在のアウディの最先端の電動車となる電気自動車の「e-tron」は、2009年のフランクフルトモーターショーにて登場します。そして2019年にアウディ初の電気自動車としてe-tronは市販されました。
現在のアウディは、“技術を革新しながら新しいクルマ社会に貢献してゆく。いろいろな創造を続ける”という意味で、「先進を生きる(living Progress)」をブランドのコアとし、「実感できる、進化を」をブランドコミュニケーションとして掲げるとアウディ・ジャパンの広報担当者は説明しました。
2030年に向けた電動化ロードマップ「Vorsprung 2030」
そんなアウディは現在、2030年に向けたロードマップ「Vorsprung 2030」を掲げます。これは「2030年までに持続可能性、社会的責任、技術革新におけるリーダーになろう」というものです。具体的には、2025年に「内燃エンジン搭載の最後のニューモデル生産」、2026年に「新たに発表するモデルはすべて電気自動車」、2033年には「内燃エンジン生産停止(中国を除く)」という目標を設定しています。
そうしたロードマップに沿うように、現在のアウディは「Q8 e-tron」「e-tron GT」「Q4 e-tron」という3車種の電気自動車を販売しています。
また、車両の電動化の進行と同時に、「ミッション:ゼロ(MISSION:ZERO)」という環境に対する取り組みも進めています。その内容は「脱炭素」「資源効率」「水資源」「生物多様性」があり、それぞれについての取り組みが進んでいます。そのひとつとなる「脱炭素」では、世界中のアウディ車の生産拠点で再生可能エネルギーを導入し、2025年のカーボンニュートラル達成を目指しているといいます。
充電する電力を再生可能エネルギーに
アウディによる「脱炭素」の取り組みのひとつとして、クルマを利用中のカーボンニュートラルも含まれます。その実現のアイデアが「充電する電力を再生可能エネルギーにする」というもの。その具体的な取り組みが都市型の急速充電ステーション「アウディチャージングハブ(Audi charging hub)」です。特徴は「コンパクト」「どこでも設置可(キューブと呼ぶエネルギー貯蓄システムを利用)」「古いバッテリーの二次利用」「約2.45メガワットの蓄電能力」というもの。
すでにドイツのニュルンベルクをはじめ欧州5ヵ所に設置されており、日本にも2024年に設置を予定しています。
また、アウディの販売拠点のカーボンニュートラルも進められており、日本では2023年1月にアウディ浜松の店舗が日本国内自動車ディーラー初となるカーボンニュートラルを実現しています。さらに、2023年10月にアウディ八王子にパワーエックス社の蓄電池型急速EV充電器を業界初導入。2024年前半までに、全国のアウディ・ディーラーを中心に30基の設置を予定しています。
そして、アウディ広報としては、持続可能な社会実現の実用性を訴える「アウディ・サスティナブル・フューチャー・ツアー(Audi Sustainable Future Tour)」を開催。これまでに4回実施しているといいます。
アウディのEV「e-tron」の構造
アウディによる会社的な取り組みのあとに説明されたのが、電気自動車であるアウディe-tronの構造や特徴です。
アウディのe-tronは、電気自動車専用設計というのが大きな特徴です。そのためエンジンが不要なので、フロントのオーバーハングの短いデザインが可能となります。また、後席を広くするロングホイールベースも実現しています。コンパクトSUVの「Q4 e-tron」の後席は、同じアウディのエンジン車の大型SUV並みの広さを確保できています。さらにラゲッジも広くなっています。
そして、ロングホイールベースの床下にはバッテリーが敷き詰められています。重いバッテリーが床下にあるということは、低重心化と前後重量バランスに優れることを意味します。そのため、ダブルレーンチェンジ(2回連続して車線変更すること)などを試すと、低重心で前後重量バランスのよい「Q8 e-tron」は、300kg以上も軽いエンジン車と同等の走行性能を体験できました。
バッテリーの安全性を確保する強固なフレーム
e-tronの床下に格納されているバッテリーは堅牢なフレームで守られており、その強固なフレームはボディーのねじれ剛性を高める役割も果たしています。また、高い安全性能はバッテリーを守るだけでなく、事故に対する乗員を守るものともなるというのです。
さらに、バッテリーの床下は丈夫なアンダーカバーでおおわれています。そのカバーの表面にはディンプル(くぼみ)が設置されており、その存在により床下を流れる空気を整えることで、クルマの直進安定性にも貢献しているとのこと。
Q8 e-tronに搭載されるバッテリー
「Q8 e-tron」には、400V、電力量114kWh(グロス)/106kWh(ネット)のバッテリーが搭載されています。グロスとネットとは、グロスがバッテリー本来の電力量を示しており、ネットは実際に使用する電力量を意味します。これは、リチウムイオンバッテリーは満充電や完全放電すると性能が著しく劣化するため、劣化を抑えるため数%の使用しないレンジを設定しているのです。
そして、そのバッテリーへの充電は、「基礎充電(ホームチャージング)」「経路地充電(クイックチャージング)」「目的地充電(ディスティネーションチャージ)」という3つの方法で充電を行ないます。基礎充電は交流200V・3kW/8kWの普通充電器、経路地充電は直流150kW/90kW/50kWの急速充電器、目的地充電は交流200V・3kW/8kWの普通充電器を使用します。
アウディは、フォルクスワーゲンとポルシェの3ブランド共同によるPCA(プレミアム・チャージング・アライアンス)を構築しており、日本国内に90~150kWの急速充電器300ヵ所を用意。2024年には400ヵ所以上への拡大を予定しています。
優れたランニングコストと便利なエアコン
そんなアウディの電気自動車、e-tronのランニングコストはどれだけのものになるのでしょうか? 「Q8 e-tron55 sportback」とエンジン車「Q7 55 TFSI quattro S line」と比較します。月間1000km走行すると、e-tronが1万570円に対して、エンジン車は1万9148円。月に8578円の差になるというのです。
また、e-tronには補助エアコンを搭載しているため、寒い時期に即座に温風を出すことが可能なので、クルマに乗る前に車内を温めておくことができます。さらに走行後にもエアコンを一定時間作動させる機能も備えます。エンジン車よりも、エアコンを自在に使用することで、より快適なカーライフを実現するというのです。
最新のEV「Q4 Sportback 40 e-tron」を試乗
アウディの歴史と計画、そしてEVの基本のレクチャーの後に用意されていたのは試乗タイムでした。ただしコースは市街地で、時間もごくごく短いもの。まさに、さわりという試乗です。クルマは最新の「Q4 Sportback 40 e-tron」。アウディのe-tronシリーズの中で、最も新しく、そして最もコンパクトなモデルです。
駆動用モーターは後輪用のひとつだけ。そのパワーは、最大出力150kWに最大トルク310Nm。搭載されるバッテリーは82kWhです。一充電における航続距離は594kkm(WLTCモード)。価格は758万円です。
走らせてみれば、加速時にはステアリングの手応えが軽くなり、まさに後輪駆動であることが実感できます。また、パワーはそれほど大きくはありませんが、トルクがたっぷりあるため、車両重量2100kgであることを忘れるほどの軽快さがありました。低重心で、前後重量バランスのよさも、走りが良い理由のひとつでしょう。
インテリアは、モダンかつ高品位で、上位のモデルとそん色ありません。日本の同クラスのSUVタイプのEVよりも若干価格が高めですが、バッテリー容量やブランド価値を考えれれば納得というか、リーズナブルにさえ感じます。「
先進を生きる(living Progress)」というアウディらしさと、「実感できる、進化を」を感じることのできる試乗となりました。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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