インクジェットプリンタはエコである
セイコーエプソンでは、2024年度の事業戦略として、「イノベーションを通じた社会課題の解決により、事業成長を目指すだけでなく、プリントヘッドやドライファイバーテクノロジーの応用、オープンイノベーションなどの共創により、新領域の開拓を加速する」とし、引き続き、「環境」に対する取り組みを加速する姿勢をみせる。
そして、「利益創出を重視し、事業ポートフォリオに応じたメリハリのある費用投下を行い、次なる収益の柱を育てるため、成長領域および新規領域への投資を継続する」と述べた。
2024年度におけるエプソンのトピックスのひとつとして注目されるのが、同社が2010年から販売を開始した大容量インクタンクプリンタの累計出荷台数が、2024年には1億台に到達する見込みである点だ。
同社によると、大容量インクタンクプリンタの全世界の累計出荷台数は、2023年12月に9000万台に到達しているという。
2023年度のインクジェットブリンタの販売計画は約1600万台であり、そのうち、78%にあたる約1240万台を大容量インクタンクプリンタが占める。
2024年度の販売計画はまだ明らかになっているが、2023年度並みの実績を維持すれば、1億台達成は十分視野に入る。
実は、大容量インクタンクプリンタの事業拡大も、環境という観点では大きな役割を担う。インクカートリッジなどの消耗品や包装材に関わる資源消費量が削減でき、環境負荷を低減。従来のカートリッジ方式と比較して、消耗品のCO2排出量を約84%削減できると試算する。インク切れの心配やカートリッジ交換の手間が軽減されるというメリットもある。
そもそもインクジェットプリンタは、レーザープリンタに比べると、省エネ性能において圧倒的な強みがある。
医療・福祉分野のあるユーザーの事例では、従来は535台のレーザープリンタを導入していたが、配置の最適化により、489台のインクジェットプリンタに置き換え、設置台数を約8%削減。さらに、従来の年間消費電力は4万1538kWhであったものが、約85%減となる5886kWhへと大幅に削減。CO2排出量は年間1万7279kgから、2448kgへと約85%削減できたという。
エプソン販売の鈴村社長は、「このユーザーの場合、レーザープリンタが稼働していた際には、電気代が年間160万円を超えていたが、インクジェットプリンタに置き換えたことで、年間25万円となった。プリンタの入れ替えが約7年で行われていることから逆算すると、1000万円規模の電気代のコストダウンが可能になる」と試算する。
その上で、「インク吐出に熱を使わないインクジェットプリンタの導入は、オフィスにおいて、すぐに実行できる環境対策のひとつである」とする。
セイコーエプソンの小川社長は、「レーザー方式に比べて消費電力が低い環境性能と、メンテナンスの手間が少ないストレスフリーの性能を強みとして、2024年度も、レーザーからの置き換え需要を獲得していく」と意気込む。
実は、インクジェットプリンタの省エネ性は、こんなところでも歓迎された。
エプソン販売は、2024年1月1日に発生した能登半島地震の影響を受けた石川県庁と珠洲市役所、能都町役場にそれぞれ2台のインクジェット複合機を提供。災害対策業務支援や罹災証明の発行などの行政活動の支援を行ったという。
エプソン販売の鈴村社長は、「被災地におけるコミュニケーションでは、紙が欠かせないという話をもらった。だが、紙にプリントして、配布するのにも電力の問題で苦労しているという話も聞いた。環境性能の高さを生かして、住民への緊急連絡やスムーズな復興活動を支援している」と報告した。
被災地でも、消費電力の低いエプソンのインクジェットプリンタは優位性を発揮できるというわけだ。
だが、インクジェットの普及戦略においては反省点もあるという。
「インクジェットプリンタは、圧倒的な環境性能を誇っているが、自動車産業のEV化のように、切り替えようというムーブメントが起こし切れていない。プリンタ単品だけでの訴求では顧客に響かないため、よりお客様に寄り添った形での提案が必要だと考え、『サステナビリティ経営の推進支援サービス』という形でアプローチを開始している」(鈴村社長)という。
環境に対する投資を加速するなど、一歩先を進むエプソンの取り組みが、プリンタやPC分野においても、大きな潮流を作ることができるか。2024年度のテーマのひとつになりそうだ。
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