週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

〈後編〉エクラアニマル 本多敏行さんインタビュー

70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化

木上さんが描いた絵本はまるでフィルムブック

まつもと 上映イベントまで手作りしたのですね。その後、あにまる屋からエクラアニマルに社名変更した後も自主制作で何作も手がけていらっしゃいます。その流れで『いつか木上益治さんの絵本もアニメ化しよう』と構想を練り続けたのですね。

本多 またチャンスが来たらやろうと。

まつもと 子どもが喜ぶものを、ということですよね。

本多 ええ。前述したように、あの絵本はアニメ化を想定して描いていますから。通常の絵本は文章がメインで、基本は頭の中で場面を想像させるような体裁ですよね。でも木上くんの『小さなジャムとゴブリンのオップ』の絵本はアニメ的で、コマを割ってストーリー順に絵が並んでいるんですよ。

まつもと まるで原画を連ねたフィルムブックのようですね。印刷もかなり凝ってます。ちなみにどのくらい刷ったのですか?

本多 全部で1000冊です。「アニメ化しませんか?」とあちこちに配ってスポンサーを探しました。

まつもと 巻末には、「テレビやビデオの作品を中心に制作しているけれど、内容の評価となると視聴率や売上でしか判断する方法がない」と記されていますね。アニメ化を想定して作られていることがわかります。ここから35年が経ち、京都アニメーション放火事件をきっかけにアニメ化が再始動したと。

本多 そうですね。悲しい事件で複雑ではありますが、皮肉なことに1つのきっかけではありました。

 その間もイベント上映だけでなく、保育園に『だるまちゃん』のフィルムを持って行って鑑賞会を開いたりしました。意外と子どもってちゃんと見てくれるんです。テレビと違って反響・反応がすぐにわかるので、私たちも『この試みは面白いな』と病みつきになりました。

まつもと 絵本って実はずっと安定して売れ続けているんですよね。子ども向けの漫画雑誌が厳しい一方、絵本は親が読み聞かせるという需要があるので市場が残っています。

本多 今回の『小さなジャムとゴブリンのオップ』も、絵本が持つ“読み聞かせる”というニュアンスは壊さないように作っています。

まつもと そういえば、自主制作アニメのキャラ着ぐるみも作られたとか。

本多 昔ゴジラの着ぐるみを作っていた人が手掛けてくれたんです。イベントに着ぐるみを持って行ったら、「これは誰が作ったの?」と聞かれたので、「品田さんが」と答えたら、「えっ、品田冬樹が作ったの!? すげー!」と。コアな特撮ファンにも喜ばれるんですよ。

木上益治さんの『小さなジャムとゴブリンのオップ』はコマ割りされており、ストーリーも追いやすい。フィルムブックのように読める絵本となっている

「木上に描けない絵はない」
スタジオジブリから“助っ人要請”も

まつもと シンエイ動画~あにまる屋での木上さんは子ども向けのアニメを主なフィールドとされていましたが、京都アニメーションが作る作品はもっと上の年齢層を狙って作られていましたね。

本多 我々の周りでは「木上に描けない絵はない」って言われるくらい上手で、フランク・フラゼッタそっくりのイラストも描けちゃうほどだったんです。だからジブリから「手伝ってくれ」と直々に声を掛けられて“出稼ぎ”に行ったこともありました。『AKIRA』もそうですね。

まつもと 木上さんが京都アニメーションに所属してからも親交はあったのですか?

本多 ええ。とは言え、京都に用事があったら一緒に飲みに行くぐらいでした。たとえば1990年代に『Freakazoid!』という米国アニメのオープニングをあにまる屋で作ったのですが、そのプロデューサーの1人が『必殺仕掛人』のセットを見たいというので京都に連れて行った帰りとかに。

 ちなみにそのアニメ、製作総指揮がスティーヴン・スピルバーグで、私はワーナーのパーティーであいさつした覚えがあります。横に大柄のボディーガードがずらりと並んでましたよ。

 ……たぶん木上くんには“子ども向けをやりたい”という気持ちがあったと思うんです。でも当時はテレビ局やスポンサーが求めるものは違っていたのでね。

まつもと 残念ながら、時代が“子ども向けを作るという機会”を与えてくれなかったのですね。

■Amazon.co.jpで購入

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事