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地域から世界へ、CES2024 学生派遣プロジェクト in 青森の挑戦

CES2024を青森へ持ち帰れ! 学生二人がラスベガスで見たものは?

 世界最先端のテクノロジー見本市「CES2024」に派遣された青森県の学生二人は現地でなにを見たのか? 青森の地域課題に世界水準のテクノロジーを還元するために実施された「CES2024 学生派遣プロジェクト in 青森」。同行したメンバーが、未来を切り拓く二人の若者の挑戦をレポートする。

青森の熱意ある若者と世界をつなぐ「CES2024 学生派遣プロジェクト in 青森」

 2024年1月9日から4日間、ネバダ州ラスベガスでCES2024が開催されました。新型コロナウイルス感染症の拡大を経て、2024年もオンラインを組み合わせたハイブリッド開催となっていますが、3500を超える出展者が世界中から集まり、かつての熱狂を確実に取り戻しています。

 「CES2024 学生派遣プロジェクト in 青森」は、青森県内の事業者数社が渡航費や滞在費をサポートすることで、ICT分野に夢を抱く学生をこのCESに送り出しています。プロジェクトの目的は、世界水準のテクノロジーを青森の地域課題へ還元するきっかけを作ることだ。

 CES2024 学生派遣プロジェクト in 青森は、地元のヘプタゴン 立花 拓也氏とアイティコワーク 岡本 信也氏を発起人とする、青森県内の事業者数社による若手人材育成に向けた取り組み。2018年と2019年に続く3回目の取り組みで、コロナ禍を挟んで久しぶり。今回CES2024へ参加するのは、八戸工業高等専門学校 専攻科1年の新田 彩奈さんと八戸工業大学 工学部4年の瓜田 壮一郎さんの二人。彼らは学校内のお知らせやICTコミュニティを通じてこのプロジェクトを知り、出資企業および大学の担当教員による選考を経て選ばれました。

アイティコワーク 岡本氏、参加者の瓜田さん、新田さん、ヘプタゴン 立花氏

ロボットの最新事例を子どもたちの教育に活かす

 出資企業からの期待も集まる中、二人はどんな展示に興味関心を持ったのでしょうか。

 「中学生向けのプログラミング教育を研究しているので、教育分野のテクノロジーを中心に海外の動向を確かめたい」と語る新田さん。デジタル技術の学生アイデアコンテストで優秀賞を受賞し、プログラミング教育のボランティア団体にも所属している新田さんは「人に親しみを持ってもらうロボットとは」という視点で、世界の最新ロボットに興味津々でした。

新田さんとキッチンカーでコーヒーを注ぎ、来場者に配るロボット

「今回のCES視察では教育目的と商用目的のそれぞれで使われる人向けのロボット」の共通点を見つけたいと考えていました。多くの企業がひと向けのロボットを展示していましたが、特にフランスのスタートアップ企業Enchanted Tools社が展示していたキツネ型のロボット『Miroki (ミロキ)』が印象的でした」

「生成系AIを実装して人とコミュニケーションをするのを目的としたロボットです。人に受け入れられやすいように、ロボットのインターフェースを全体的にラウンド型にしていたのが印象的で、実際にとてもやわらかいと感じる作りでした。開発者の方と人に親しみをもってもらうロボット作りについて意見交換ができたのも嬉しかったです」

人向けロボット「Miroki(ミロキ)」

 さらに、新田さんは中学生向けにプログラミングを教えている経験を踏まえ、こうしたひと向けロボットを自分が担当している学生に使ってもらうとしたら、どのような用途が考えられるかについても感想を述べていました。

「私は普段さまざまな中学生と接する機会が多いです。コミュニケーションがあまり得意ではない学生もいるのですが、日常会話の話し相手としてロボットを活用することで、そうした学生たちが人との会話とは異なる感覚で、会話を練習することもできると感じました」

 普段は教育目的でロボットを利用している新田さんですが、ロボットに使われるセンサーの商用事例に関しても興味を持ちブースを回っていました。数ある展示の中でも、旭化成エレクトロニクス社の車内上部にセンサーを搭載したコンセプトカーが印象的な展示だったと話しています。

「車内上部のセンサーが人の呼気を検知して飲酒量を計測することでアルコール運転を防止したり、センサーが子どもを判別してチャイルドシートの有無を確認したりしていました。事故を未然に防ぐといった取り組みをセンサーが担えるのが、とても良い発想だと感じました」

旭化成エレクトロニクス社のコンセプトカー

AgeTechで地元青森の地域課題を解決したい

 「人工知能 (AI) の商用事例にも興味はあるが、青森県の地域課題の解決に応用できる技術を見たい」という瓜田さんは、大規模言語モデルを活用した研究をしています。今回のCESでは、高齢者の課題をテクノロジーで解決する「AgeTech」の特設ブースが設けられており、瓜田さんは地元・青森県の高齢者に関する地域課題を技術でどのように解決できるのか、という視点でAgeTechの出展を積極的に見て回っていました。

 青森県は高齢者の割合が多く、地域課題となっています。介護の現場で起きている人手不足などの課題を解決するための一助として、女性向けヘルスケアデバイスを開発するスタートアップ企業DAVINCI WEARABLES社の製品がとても良いアイデアだと思ったそうです。

DAVINCI WEARABLES社の代表に積極的に質問をしていた瓜田さん

「ショーツ型のデバイス「Eve」は、老若男女が使えて顧客範囲がとても広いという視点で印象的でした。ショーツの腰回り、デリケートゾーン、仙骨部にマイクロチップが搭載されており、体温や分泌物を測定できます。測定結果は専用のアプリでリアルタイムで確認でき、AIが結果を診断し、生活習慣の改善についてアドバイスします」

「現在はアスリートを中心に利用されているそうですが、介護の場面に応用できれば、介護士の方が高齢者の健康状態をスマートフォンから簡単に把握できますよね。技術的にもそこまで高度ではなく、日本製のショーツにチップを埋め込めば良いだけです。真似しようと思えば日本でも展開できそうです」

マイクロチップが搭載されているショーツ「Eve」

 また、瓜田さんは高齢者の歩行を支えるデバイスにも興味関心を示しました。高齢者は移動時に歩行器や杖を利用します。こうした道具は歩行の補助に有効な一方で、使い方を誤ると転倒などの事故につながります。こうした事故を防ぐアイデアの解決策として瓜田さんが関心を示したのは、アメリカのスタートアップ企業De Oro Devices社が展示していた歩行器や杖に装着する正方形の小さなデバイス「NexStride」です。

NexStrideの担当者と親睦を深める瓜田さん

「僕の地元では杖や歩行器を使っている高齢者をよく目にします。NexStrideを杖や歩行器に設置すると、横一本線のライトが足のつま先を照らします。歩行者はこのライトを頼り、つまずかないように歩幅を調整できます。また、デバイスからは一定のテンポ音も発せられるので、目と耳で歩行改善ができます」

「介護の現場では”簡単に使える”というのが何よりも重要です。このデバイスは杖や歩行器に設置するだけで使えるので、介護士や高齢者の方が導入しやすいところも魅力的でした」

 瓜田さんは大学で大規模言語モデルを用いた研究をしています。自身の研究とこのデバイスを融合したアイデアについても目を輝かせながら語っていました。

「たとえば、杖や歩行器に設置する機械にAIを搭載して高齢者と対話できるようにするとより便利だと思います。道に迷った時に機械に杖に話しかければ、杖が道案内してくれる、とったイメージです」

地域と世界の架け橋に、CES2024学生派遣プロジェクトin青森が拓く未来

 二人の学生はそれぞれの視点でCESを見て回り、世界の企業と交流するなかで生まれた新しいアイデアを、自身の研究から青森の課題解決まで積極的に取り入れようとしていました。

 4日間のわずかな期間でしたが、最終日には「私たちでもCESに出展するスタートアップ企業と遜色ない技術力を持っているのに気がついた」「テクノロジーをどう応用するかで海外に全然追いつける」といった研究や技術力に対して自信を持った頼もしい発言が見られるなど、目覚ましい成長を遂げたのは間違いありません。

 帰国後は二人を中心とした青森県内でのプロジェクト報告会や出資企業へのレポート提出などを通じ、獲得した知見を青森の課題解決に投入することが期待されています。

 このプロジェクトは単なる海外視察に止まらない、地域社会へポジティブな影響をもたらす可能性を秘めています。瓜田さんと新田さん、二人の若者の挑戦はまだ始まったばかり。彼らが持つ熱量はいつしかテクノロジーの種となり、青森の地から世界へ芽吹くかもしれません。

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