進化が進む量子技術、日本の企業・研究機関も成果を出している
一方、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局政策企画調整官の増田幸一郎氏は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)について言及。「シップと読む人がいるが、それは間違いであり、内閣府での正式な呼び方はエスアイピーである。ぜひエスアイピーと呼んでほしい」と述べたあと、「SIPは、複数の省庁に関係する課題を対象にしているプログラムであり、そのなかで、量子技術については、第3期において、先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進として、4つのサブ課題を設けている。今回のイベントは、サブ課題のひとつであるイノベーション創出基盤の研究開発テーマであるエコシステム構築において実施しているものになる」とし、「SIPは、5年間のプログラムであり、2023年度に第3期がスタートしたところである。技術だけでなく、事業、制度、社会的受容性、人材の視点からも取り組み、社会実装の推進と、スタートアップ企業の参画を積極的に推進することになる。SIPや今回のイベントを通じて、スタートアップ企業の活動を理解してもらい、発展に向けた情報交換、意見交換を活発化してもらいたい」と述べた。
また、経済産業省 産業技術環境局 研究開発課 研究開発調整官の田中真人氏は、量子の産業動向について説明。「日々目まぐるしく新たな発見が起きている分野であり、足が速い領域である。それによって、産業化が一気に近づいている」と、量子技術を取り巻く状況を示しながら、「2023年度は、量子技術において大きな進展があった1年だった」と振り返った。
2023年2月にGoogleが超伝導量子ビットのエラーを訂正する量子誤り訂正の実験に成功したこと、9月にはQuantinuumが、イオントラップにおいて、3論理量ビットのエラー率を約1桁低減したこと、10月にはAtom Computingが冷却原子により、1180量子ビットを搭載する次世代中性原子プロセセッサを発表したこと、12月にはIBMがエラー率を低減した133物理量子ビット機の開発を発表するとともに、量子ロードマップを2033年まで延長し、新たな技術進化を示したこと、QuEraが冷却原子において、48個の論理量子ビットの作成に成功したほか、誤り訂正量子アルゴリズムを実現したこと、2024年1月には、東京大学が光におけるGKP量子ビットの生成を世界で初めて実現したといった事例を示しながら、「これまでは物理量子ビットの量の議論が多かったが、それが質の議論に変わっている。超伝導だけでなく、イオントラップ、冷却原子、光量子といった様々な方式において、大きな革命が起きている」と語った。
さらに、量子コンピュータによって、2050年までに創出される市場価値が最大110兆円に達すること、経済効果の80%はユーザーによる産業分野が享受すること、量子コンピュータそのものだけでなく、部材や素材のよる市場貢献も大きく、それが約1~2割を構成し、日本が強みを発揮できる分野になることを指摘。「経済産業省では、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、ユースケースや部材、素材にも力を注いでいきたい」と述べた。
そのほか、2023年4月に、岸田文雄首相の指示により、量子未来産業創出戦略をまとめ、国立研究所や大学で構成される量子技術イノベーション拠点(QIH)を通じて、同戦略が実行されていること、経産省では量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)を産総研に創設し、量子技術による新市場創出やグローバルエコシステムの構築を目指しているほか、ABCI-Qと呼ばれるGPUスパコンを設置し、量子コンピュータと組み合わせたハイブリッド計算環境の構築や、大規模量子デバイスの試作設備を構築していること、量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業(旧量子・AIハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業)によるユースケースの創出に向けた取り組みを推進していることなどを紹介した。
さらに経済産業省では、懸賞金型研究開発事業という新たな取り組みをスタート。コンテスト形式によって、最大1000万円の賞金が提供されることになるが、2024年度以降には、新たな量子分野もこの対象になる可能性を示唆した。
経済産業省の田中氏は、「量子技術の世界において、日本がイニシアティブを取るためには、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、ユースケースの創出、部材や素材開発の評価、人材育成も必要であり、NEDOプロジェクトなどを通じて支援を行っている。量子技術の産業化、社会実装に向けた施策を実行していく」と述べた。
量子技術の利用事例を創出する
Q-STARでは、量子技術そのものを捉えるだけに留まらず、多くのユーザー企業が参加することで、ユースケースの創出を中心とした活動を推進しているのが特徴だ。そこに、量子技術分野において、日本が優位に立てる要素があると見ている。「量子技術を意識せずに使える社会の構築」がQ-STARの狙いである。進化が激しい分野において、産官学による連携に加えて、スタートアップ企業の創出と連携を加速させることで、「量子未来社会ビジョン」で示した2030年の高い目標の実現が近づくことになる。
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