私は40歳のWebメディア編集者。首都圏のとある田舎町に妻、6歳児、3歳児と4人で暮らしています。6年前までは都心に住んでいましたが、保育園を探すなか、子どもに自然のなかでのびのび育ってもらいたいという気持ちがわいて、田舎への移住を決定。テレワークで仕事を続けながら庭仕事にいそしむ日々を送っています。そんな私がいまテレワーク移住者として気になっているのが、北陸の石川県小松市。知れば知るほど魅力的で、2度目の移住を真剣に考えてしまうレベルです。
小松が移住先に選ばれる3つの理由
小松市は人口約10万人の地方都市。失礼ながら機械のコマツしか知りませんでしたが、東京大学と日本経済新聞による2021年の調査「多様な働き方ができる自治体」第1位、東洋経済新報社「住みよさランキング2020」全国8位など、移住界隈でたびたびトピックになる注目のまちです。
その魅力はまず交通の便がいいこと。市内にJR小松駅があり、JR金沢駅まで在来線で30分と通勤圏内。2024年3月には北陸新幹線小松駅が開業し、小松駅から東京駅まで2時間40分でアクセス可能になります。さらに市内には小松空港もあり、国内4路線(札幌・羽田・福岡・那覇)、国際線3路線(台北・上海・ソウル)が就航。JR小松駅から4km程度の近さで、出張にも便利です。
もうひとつの魅力は、子育て支援が充実していること。保育園の待機児童はゼロで、小中学校給食費の無償化や、高等教育の修学を支援する「貸与型奨学金制度(無利子)」など、様々な独自施策も打っています。「応援してますよ!」という自治体の熱意が伝わってきます。
そして大事なのは生活環境として便利なこと。自然豊かな環境でありながら、スーパー、図書館、病院、子どもたちが雨の日でも遊べる施設が市内にあり、ベッドタウンとしての利便性は完璧。いま住んでいるまちよりずっと便利で正直うらやましいです。
魅力あふれる小松市ですが、いざ首都圏を離れるとなると構えてしまうのも事実。移住へのためらいはないのか、実際どんなふうに暮らしているのか、地方ならではの困ったことはなかったかなど移住の“リアル”を、都内IT企業にフルリモートで勤務する先輩に聞いてみました。
★話を聞いた人
佐藤つわのさん
都内・外資系IT大手勤務、3児の母(10歳、8歳、9ヵ月)。2022年4月に神奈川県川崎市から石川県小松市に移住し、小松生活は今年で3年目。
0歳児から保育園、保活なしでOK「点数はありません」
── 移住のきっかけは?
小松出身の夫が、市の職員に転職したのがきっかけです。
── 親戚がいるとはいえ、地方移住に抵抗はなかったですか。
もともと夫の前職で地方転勤があり、半年から2年半のスパンで福岡、広島、金沢に住んでいたので、地方都市自体には抵抗はありませんでした。川崎にしばらく住んでいて、都会の良さはあるんですが、地方都市のほうがのんびり……というか、他人を気づかうあまり子どもを制約することが少ないと感じたんです。ちょうどコロナ禍だったということもあると思いますが。
── 確かに都心で子育てをしていると、常に誰かに配慮している感覚がありました。仕事がリモートでできることも移住のしやすさにつながっていそうですね。
そうですね。フルリモートで2013年くらいからずっとやってきていましたから。
── 小松市は子育て支援が充実しているという話でしたが、実際はどうでしたか。
妊娠中に給付金があるんですよね(妊婦に5万円を支給する「おなかの赤ちゃん給付金」)。想定していなかったので、「こんなのもあるんだ」と驚きでした。
── 保育園の待機児童ゼロというのも心強いですよね。
役所にどんな点数の付き方になるかを聞きに行ったら、「点数はありません」と言われたんですよね。入りたい園に直接問い合わせてくださいと。結局、うちは今年4月入園にしたんですが、年度途中入園も相談できるそうです。
── 保活そのものがゼロ! すさまじいですね。
あと、3人目の子は保育料が無料なんです。都内では2人目から保育料が無料という話もありますが、地方で、年齢が離れていても無料というのは有難いです。
── まさに年齢が離れた2人目の保育料に「ウギャー!」と悲鳴をあげている身です。うらやましい……。
あと、3ヵ月から1歳になるまで毎月、見守りと子どもにおむつの配達をしてくれる制度があるんです。生協さんが受託しているんですが、同じ方が来てくださるので、我が子の成長を一緒に喜んでくれる人がもうひとり増えるという心強さがありました。
30分でスキー場、無料で通える日本舞踊教室
── あたりは自然豊かで、子どもの遊び先にも困らなそうですね。
今の時期だと「スキーに行きたい」と毎週のように行っています。クルマで30分の距離にスキー場があって、1時間弱かければ別のスキー場にも行けるんです。朝からスキー場へ滑りに行き、昼ごはんを食べて帰ってくるということもよくあります。
── もはや公園感覚ですね。夏はやっぱり海ですか?
海もありますが、うちの場合は川遊びの方が多いです。ライフジャケットを着けて変な生き物を追いかけたり(笑)。あと、私自身はキャンプが好きなので、今年はキャンプにも行きたいなと。関東に住んでいたときはキャンプ場も数ヵ月前から予約したり、キャンセル待ちが必要だったんですが、こっちなら行きたいときに連絡するだけでキャンプができるので。
── 市内では毎週のように子ども向けイベントが開催されているという話を見たんですが、どんな内容なんでしょうか?
子ども向けの講座だったり体験教室ですね。上の子(10歳)なら、サイエンスヒルズこまつ(科学館)の「レゴプログラミング教室」。下の子(8歳)なら歌舞伎。小松は勧進帳の舞台になっていて「歌舞伎のまち」をPRしているんですが、子ども歌舞伎を見てから「やりたい」ということで、「小松市民歌舞伎 こども入門コース」に申し込みました。月1〜2回の講座を4〜5ヵ月くらい習っているんですが、市川翠扇さんという市川團十郎さんの妹さんが日本舞踊を教えてくれるんです。それも無料で。
── その内容でタダ!! すさまじいですね。
人口が多いところだったら、おそらく抽選になったり、先着順で電話をかけてもつながらないような講座が、手を上げればゲットできるという状況です。付添の大人も楽しめるような内容で。講座は学年ごとに提供されていてちょっとずつレベルアップしていくものなんですが、今のところ抽選に外れることなく通えています。
── 赤ちゃんと行ける公園や図書館なども多いんでしょうか。
公園も結構多いですし、この子(9ヵ月)の場合だと、乳幼児に特化した図書館があるんです。靴を脱いであがれる場所に赤ちゃん向けの本があり、おなかがすいたら離乳食をあげられるスペースがあって、わりと気に入っています。こういう図書館はいままでの自治体では見つけられていなかったですね。
家は150平米、小学生が友達と遊んでいてもリモート会議が可能
── お住まいは戸建てですか?
駅の近くに割と大きな家を借りています。150平米で「えっ」というくらい広かったんですが、このあたりはみんなそのくらい。両隣はうちよりも大きくて。
── すごい。50坪くらいですかね。仕事部屋の確保は余裕そうです。
いまお話している部屋が仕事場ですが、なんなら使っていない部屋もあるので、そこでも仕事ができますね。川崎にいたときもリモートが多かったんですが、子どもたちが学校から帰ってくると会議がしづらくなるので学童に入れていたんです。たまには家で遊びたいとか友達と遊びたいというときもあったんですが、いまは完全に1Fと2Fで分離できるので、仕事しているあいだにも遊んでいてもらえます。
── 市内には買い物や外食などで普段づかいできる店もあるんでしょうか?
スーパーもあるし、食事するお店もあります。余談ですが、小松に来てみて飲食店のクオリティが高いことに気付きました。地方に行くとチェーンが多くて、そこしか選択肢がないようなところもあったんですが、小松はクオリティの高い個人店が多く発掘するのが楽しいです。小松は工業のまちで、接待に使う料亭が多いらしく、おいしい和食のお店が多いんですね。ミシュランの星をとっているお店もあります。
── いいですねえ。日本海の地魚料理もおいしそうです。交通の便がいいことのメリットを実感したことはありますか?
単純に外に行きやすくなるのがいいですよね。個人的には沖縄出身なので、小松空港からの直行便があるのがとてもうれしいです。1人で子どもを3人連れて帰省したこともあります。クルマで10分で空港まで行けるので楽なんです。今年からは北陸新幹線も通るので、いざ東京に「バック・トゥ・オフィス」と言われたときも行きやすいですね。
── 地元民から移住者への風当たりが強かったり、行事に参加しなければいけないなど困ったことはありませんでしたか?
地元の人は小松愛が強いので、「小松を気に入ってくれてうれしい」という人が多いくらいの印象です。獅子舞とか左義長(いわゆる「どんど焼き」)のような伝統行事はありますが、「参加したければ参加できる」くらいの感覚でした。
── 移住者の多いまちということで、移住者同士のつながりもあるんでしょうか。
小学校に上がった子たちの周りで、移住者の人たち同士のつながりができて助け合っています。あと、「カブッキーランド」というボーネルンドが作っている遊び場があり、半年から1歳までは無料で使えるんですが、初めての子育てで親戚がいない人同士がそこでつながっているところもあるようです。
── 最後にあらためて、小松の一番気に入っているところを教えてください。
「アクセスの良さ」ですね。別の場所から来たり、どこかへ行くのもそうですし、「家からの30分圏内に色々な場所がある」という意味でも便利です。時間を有効に使える、いわゆる“タイパ”がいいんです。私は欲張りなので、休日に「これをして、ゆっくりする時間もとって」と過ごせるのが最高ですね。
“タイパ”がいいまち、小松市に行きたい
佐藤さんの話を聞いていると、まるで実際に自分が暮らしているようなイメージがわいてきました。特に魅力的だったのは“タイパ”の話。30分圏内に様々な楽しみが詰まった、まさにコンパクトシティの魅力です。都会とはまた違う遊びやすさがあり、子どもも大人も好きなことを追求できそうな環境です。ブロードバンドさえあれば仕事ができるIT関係者にとっては天国のような場所に思えました。小松はいい飲食店も多いということなので、まずは家族旅行でもしてみますかね。
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