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ドライバーでPCを破壊できるのか? ドリルほどの確実性はないが意外と簡単だった

2024年01月29日 08時00分更新

 世間のニュースでは、政治家がドライバーでPCを破壊したことが話題になっているようですが、ドリルならともかくドライバーでPCを破壊できるものなのでしょうか? 実際に試してみましょう。

 基板に取り付けられているコンデンサーなどの部品をドライバーで剥がせば、PCは動かなくなります。ですが、記録媒体を破壊しなければデータが残ってしまうので意味がありません。

 PCの記録媒体とは、HDDあるいはSSDのことです。ここを破壊すればデータを読み込めなくなりますので、本稿では記録媒体の破壊に限定して話を進めていきます。そもそもPCを破壊する理由はほとんどがデータ消去、つまり証拠隠滅ですからね。なにもPC全体を破壊する必要はありません。

■HDDはドライバー1本で壊せる
■ただし一部のデータは取り出せる可能性あり

 まずは定番のHDD破壊から実行しましょう。電動ドリルでの破壊は以前にこの連載でも試しました

ドリルで確実にHDDを壊す方法はこちら

世間ではあらためてHDDのドリルでの破壊が話題になっているようですが、では実際、どのようにしたらドリルで確実にHDDを破壊できるのでしょうか? 確実に破壊する方法をレクチャーしましょう。

 では、同じことがドライバーでできるのか検証しましょう。HDDに致命的な傷を負わすには、まずはHDDを守る外装をこじ開ける必要がありますので、フタの隙間にドライバーを突っ込みます。プラスドライバーではほぼ不可能なので、細めのマイナスドライバーを使います。

マイナスドライバーをHDDのフタの隙間にねじ込みます。これにはわりと力が必要です。検証では3.5インチHDDを使用していますが、2.5インチHDDでも手順は同じです

 ドライバーを突っ込んだら、ドライバーを逆手に持ち直して、プラッター(HDD内の円盤)を傷つけるようにドライバーを動かします。ガリガリと擦れる音がしたら成功です。万全を期したいなら、反対側からもドライバーを突っ込み、傷をつけるといいでしょう。

ドライバーを左右に振って、内部を徹底的に傷つけます。ドライバーを逆手に持つのは、なるべくドライバーに角度をつけるため。こうすることでより深い傷をHDDに与えられます

 これだけでHDDのデータは読めなくなります。破壊にかかった時間はおよそ1分。ドライバーをHDDにねじ込む力は必要になりますが、ドリルを用意しなくても大人1人の力で簡単に破壊できます。

フタを開けて確認すると、たしかにプラッターに傷がついています。これでデータは読み込めなくなりました

 ただし、この方法で傷をつけられるプラッターは最上段の1枚だけ(しかも片面だけ)。複数枚プラッターがあるHDDでは、最上段以外のプラッターは無傷のままです。無傷のプラッターからデータを取り出せる可能性はゼロではありません。

容量が大きいHDDの場合、プラッターが複数枚積まれているので(写真では2枚)、最上段以外のプラッターは無傷なのが気がかりです

 もしもトルクスドライバーという星型をした特殊なドライバーをお持ちでしたら、そのドライバーでHDDのあらゆるネジを外して分解。そしてすべてのプラッターを徹底的に傷つけるというのが確実です。ただしこれには手間と時間がかかりますので、急いでいるときにはマイナスドライバーを突っ込むほうがてっとり早いですね。

■SSDをドライバーで破壊できるのか?
■チップ剥がし、焼きゴテ、刺突、あらゆる手を試す

 最近のPCは、記録媒体にHDDではなくSSDを採用しているものが多いです。そこで、今度はSSDをドライバー1本で破壊できるか試してみましょう。CDやHDDのように記録面を傷つけるというわけにはいきませんので、HDDより難易度が跳ね上がります。

 SSDはNAND型フラッシュメモリーというチップにデータを記録しています。つまりメモリーチップを破壊すれば、データを読み込めなくなるわけです。チップを破壊……どうすればいいのでしょう?

2.5インチSSDを分解したところ。SSDの本体は右上の小さな基板です

こちらはM.2タイプのSSD。2.5インチSSDと形は違えど、構造は一緒です

 思いついたのは、基板からチップをむりやり引き剥がす、熱したドライバーを押し当てて熱で溶かす、一点に力を集中させて押し潰す、という案です。なんだか中世の拷問のようですね。

写真の下のほうにある2つの長方形チップがフラッシュメモリー。これを破壊するのが目的です。ちなみのその上の正方形チップは、SSDを制御・管理するためのコントローラーです。コントローラーにデータは記録されませんので壊す必要はありません

■ドライバーをねじ込みチップを剥がす

 まずはチップを基板から剥がす案から始めましょう。基板とチップの隙間にマイナスドライバーを突っ込み、力ずくでチップを剥がします。大きいマイナスドライバーでは隙間に入らないため、精密ドライバーを使います。

よく見ると、基板とチップの間にわずかな隙間があります。ここにマイナスドライバーを差し込んでみましょう

意外にもすんなり剥がせました

 

 精密ドライバーのほうが曲がらないかと心配でしたが、ミシミシ、バキッという音とともに剥がれました。剥がれる瞬間にドライバーから伝わってくる感触がなんとも気持ちよかったです! 飲料缶や缶詰のフタが力を入れずにスルっと開いたときの感覚に近いです。

 コツは基板とチップの隙間にしっかりとドライバーを差し込むこと。これさえできれば、あとはテコの原理で簡単に剥がせます。逆に言うと隙間にドライバーを差し込めないといくらがんばってもチップは剥がれません。いかに細くて薄いマイナスドライバー(しかも柄が頑丈なやつ)を用意できるかがキモです。

こちらはM.2タイプのSSD。やはり基板とチップの間に隙間があります

 基板とチップを分離することには成功しましたが、チップ自体を破壊したわけではないので、完全な証拠隠滅にはなりません。ですが、すべてのチップを剥がして基板とは別々に処分してしまえば、データを取り出されることはないでしょう。

■熱したドライバーを押しあてる

 せっかくなので熱破壊も試してみましょう。ガスコンロでマイナスドライバーを熱し、チンチンに熱くなったところでフラッシュメモリーに押しあてます。

ドライバーをガスコンロで熱し、チンチンに熱くなったらチップに押しあてます

ジュッという音とともにチップが溶けだす……と思いきや、ジュッという音すらしませんでした

 結果は、なんの変化もなし。温度が低いのかと思い、再度ドライバーを熱して試しますが、やはりなにも起きません。念のためSSDを覆うプラスチックのガワにドライバーを押しあてたところ、みるみるプラスチックが溶けていきます。ドライバーは十分熱せられているようです。

SSDのガワに熱したドライバーを押しあてたところ、プラスチックが溶けました

 冷静になってみれば当然なのですが、SSDは動作中にかなり高温になります。100度前後の熱で壊れてしまっては製品として出荷できません。熱したドライバーごときでは、びくともしないのは当然です。そんな熱はPCから常に与えられているのです。

 ガスコンロの火に直接SSDをあてれば破壊できるでしょうが、それでは「ドライバーを使って壊す」という前提から逸脱してしまいます。

 ちなみに、ガスコンロに直接SSDをくべる検証は、過去にASCII.jpで実験済みです。このときは360度まで熱したのですが、鉛フリーのハンダの融点が220度ぐらいなので、ハンダが溶けて基板とチップがバラバラになりました。

ドライバーを使わず、直接ガスコンロで火炙りにすればSSDは破壊できます。2分ほどで樹脂が燃え出し、3分もすると黒焦げになります

編注:危険ですので絶対に真似しないでください。火事の危険性が高いうえ、イヤな臭いが部屋中に充満します。

ガスコンロで確実にSSDを壊す実験はこちら

CORSAIR製SSDはどんだけ頑丈なのかを、フツーのHDDとガチ勝負する企画。加熱、水没、落下など過酷な環境でストレージは生き残れるか?

■ドライバーに全体重をかけて押し潰す

 最後は、チップに穴を空けるつもりで、ドライバーを使って押し潰してみます。マイナスドライバーをチップに垂直に押しあて体重をかけていきます。ですが体重55kgの筆者の力では傷ひとつ付きませんでした。これは力が分散しているからだと考え、応力が1点に集中するプラスドライバーで再度試してみることにしました。

なるべく先の尖ったプラスドライバーを探し出し、チップに押しあてました

 血管が切れそうなくらい渾身の力をこめてプラスドライバーを押し込みますが、ヒビすら入る気配がありません。なかなか手ごわいですな。これがガラスだったら粉々に砕けているハズなんですが。

かろうじてチップ表面に傷が入った程度でした。動作にはなんの問題もありません。押し潰し作戦は失敗です

■ドライバー1本でSSDを壊せるが
■チップの破壊までは難しい

 SSDを徹底的にいじめてみましたが、案外ドライバー1本で壊せることが判明しました。ドリルほど完璧ではないものの、どこの家庭にもあるドライバーで破壊できるのはお手軽です。チップは熱や衝撃には強いものの、剥がそうと思えば案外簡単に剥がせてしまうのは思わぬ発見でした。

 さすが議員さんはいろいろな知見をお持ちなのですね。PCを破壊するのにドリルは必要ないということを教えてくれました。ドリルを持ち出してPCを破壊する時間的余裕がないときは、ドライバーさえあればなんとかなるということを皆さんも覚えておきましょう。

筆者紹介───ドリル北村

ドリル北村

 電動ドリルが大好きな自作PC担当兼アキバ担当編集。興味があるモノは分解して中身の構造を確かめないと気が済まないヘンタイ。分解できないならドリルでこじ開けるまで。穴を開けるのが好きだが、逆に穴を見つけたらなにかを詰めたくなるのがたまに傷。エロ北村、モブ北村など、すごくテキトーな名前で呼ばれ、誰もいないトイレで泣くこともある。

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