クリエイティブ系アプリでの挙動をみる
冒頭でも解説したとおり、AMDはVRAM 16GBはクリエイティブ系アプリで効くとしている。ゲームではRX 7600との差は小さかったが、クリエイティブ系やAIの処理では差がつくだろうか?
実際に「Premiere Pro」を動かす「UL Procyon」の“Video Editing Benchmark”を使用する。総合スコアーのほかに、そのスコア算出の根拠となったテスト結果(エンコード時間)も比較する。スコアーは4本の動画のエンコード時間から算出されるが、これは単なる動画→動画のエンコードではなく、ぼかしや色調整など、基本的な調整処理を加えたクリップを繋いでいる。
CUDAの使えるGeForceの方が高スコアーになると予想していたが、RX 7800 XTが思いのほか健闘した印象がある。肝心のRX 7600 XT 16GBはRTX 4060 Ti (16GB)やRTX 4060に総合スコアーでやや負ける程度だった。個別のテスト結果に目を向けるとどのテストでもRX 7600とRX 7600 XT 16GBは似たような処理時間となっている。VRAMをもっと積極的に使うような処理でないとRX 7600 XT 16GBのメリットを活かせないのではないだろうか。
続いては「DaVinci Resolve Studio」のMagic Maskの処理時間比較だ。再生時間約16秒の4K動画に写っている被写体にマスクをかける処理の速さを比較する。最初のフレームで人物にマスクをかけ、そこから動画の最後まで被写体をトラッキングしつつ連続でマスク処理をする時間を計測した。
ここではGeForceが圧倒的に強いが、Radeonの中だけで比較するとRX 7700 XTとRX 7600 XT 16GBの間に非常に高い壁がある。RX 7600 XT 16GBはRX 7600より短時間で処理を終えているが、VRAM搭載量の差由来の速さというよりは、TBPやクロックの違いに由来していると考えられる。
「Topaz Video AI」に内蔵されたベンチマーク機能でも比較してみよう。入力動画の解像度を1920×1080ドットとし、ノイズ除去や拡大といった様々な効果のある処理をかけていった時のフレームレートを比較する。
今回も比較的軽めのテスト3本の結果を抜粋した(作図の都合上省略したテスト結果も、このグラフと傾向としては同じ)。最も高速なのはRTX 4070 SUPERであり、Radeon勢最速のRX 7800 XTもRTX 4060 Ti (16GB)相当の性能にとどまる。ここでもRX 7600 XT 16GBはRX 7600と大差ないことが示されている。
最後に試すのはUL Procyonにの“AI Inference for Windows”だ。AI処理デバイスにはGPUを、計算精度はFP32、APIは“WindowsML”としている。総合スコアーの他にテストごとの推論回数も比較する。
Windows MLを使っていてもAI処理ではGeForceが強い、という理屈は覆らない。もっと言えばAPIにTensorRTを指定すれば、GeForce勢はさらに推論回数を増やす(=総合スコアーもアップ)ことができる。ここでもRX 7700 XTの壁は高く、RX 7600 XT 16GBはRX 7600と大差ないスコアー/ 推論回数にとどまった。使用している学習モデルやVRAMの使われ方が甘いためRX 7600 XT 16GBの良さを評価できないという感じだ。
RX 7600と大差ない性能だが、VRAM消費量が激しい状況では輝く
以上でRX 7600 XT 16GBの検証は終了だ。全体としてはRX 7600と性能的に大差なく、RX 7700 XTとの差が非常に大きい。どちらもCUをRX 7600から増やさなかったことに起因する。クロックやTBPを少し盛った程度では、劇的な性能差を感じることは難しいだろう。
RTX 4060 Ti (16GB)レビューの時と似た展開だが、今回RX 7600 XT 16GBは若干クロックが上がっているため、なんとか違いを見いだせる。この点においてAMDはNVIDIAの失敗に学んだと言ってよいだろう。
RX 7600 XT 16GBの真の力はVRAM消費量が多いシチュエーションだが、これはゲームが極めて限定される。WQHD以上のディスプレーを所持していて、ちょっと上の解像度も見てみたいなと考えているなら、RX 7600ではなくRX 7600 XT 16GBを選ぶ方がよいだろう。VRAM消費が8GBで十分間に合うようなシチュエーションであれば、RX 7600を使っていてもAFMF(とFSR 1/ FSR 2)の併用で劇的にフレームレートを伸ばせる。
ただ、AFMF(あるいはそれを包含するHYPR-RX)が画質やレイテンシーという側面を加味しても良い技術なのか、という点に関してはまだ検証しきれていない。それでも無料でフレーム生成が行えるAFMFはハイエンドGPUに手が出せない人への強力な支援機能であり、Radeonを購入する大きな理由になるだろう。
ただ残念なのは最安でギリギリ5万円台という価格設定だ。あと1万円上乗せすれば、基本性能が格段に高く、AFMFを併用すれば格上も狩れるRX 7700 XTに手が届く。VRAM16GBに惹かれるが、特にゲームではVRAM残量よりも先にGPUそのものの処理性能がネックになりやすい。画質を落とせばそもそもVRAMへのプレッシャーも減る。この点はRTX 4060 Tiと同じジレンマが存在する。価格が落ち着いた時にゆっくり判断するのがおすすめだ。
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