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〈後編〉ダンデライオン西川代表、Sansan西村GMに聞く

『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする

期待するのは「関係者のやり取りごと学習して提案するAI」

まつもと 西川さんにはここまで契約書のデータベース化に伴う利点をお話いただきました。今後はさらに利用範囲を拡大されていくと思うのですが、期待や要望はありますか?

ダンデライオン西川 実現可能かどうかはわからないのですが、契約書データのみからの情報ではなく、たとえば日常的に甲乙間の会社の法務や担当者同士が交わしているメールやチャットのやり取りを学習していただいて、契約条文の内容や更新すべき事項を提案してくれるといったことが実現できれば、より法務や担当者間の時間がカットできたり、精度が上がったりするのかなと期待します。あくまで妄想的な期待ですが(笑)

まつもと 裁判に移行してデジタルフォレンジックをしましょうという段階になってから、ようやくメールやチャットの履歴を根掘り葉掘りして真実を見つけるのではなく、何気ない日常業務の段階でAIに学習しておいて欲しい、というわけですね。

Sansan西村 すでに名刺管理サービスのSansanでは、メーラーと連携して署名情報を自動的に抽出し、名刺データとして登録することを始めています。

 西川さんのご要望は、アプローチの難易度は高くなるのですが、特に個人のクリエイターの方々が大手の企業様とお仕事されるときに「必ずエビデンスを残す」という点において必要になるかもしれませんね。実際、契約締結は残せないものの、確認についてはメールで連絡を取られている、という話もありますので今後がんばっていきたいと思います。

契約状況の判定機能があれば、「いつの間にか期限が過ぎていた……」というようなトラブルも事前に回避できる(※開発イメージとなるため、詳細が異なる可能性があります)

まつもと 以前から言われていることですが、日本の特にモノ作りの分野では契約の重要性が軽視されてきたし、今も軽視されている部分もあると思います。「契約は大切」という意識の向上には啓蒙が重要ですが、リーガルテックの進展もまた欠かせないと思っています。

ダンデライオン西川 契約の重要性という意味で私が感じている課題は、まだ弊社の一部の従業員しかサービスを使いこなしていないところです。契約書の要約に触れられる、検索ができる、といったことがまだ十分に知られていない状態なので、まずは営業担当者、プロデューサー、マネジメントのスタッフに理解してもらいたいです。

 次に考えているのは、契約の締結時やデータ管理は最終的には法務でしっかりやるべきことだと思いますが、締結後に契約書を結んだ当事者同士が内容を理解して、適切に運用することも重要だと考えています。

Sansan西村 Sansanとしては、契約が重要であることを啓蒙するために、「契約は使うことで初めて活きてくるもの」と発信しています。法務担当に限らず、事業部門の方々にも日常的に使っていただきたいので、その旨を投稿したり、セミナーを開催したりすることで流れを作りたいですね。

 また、Contract OneはSansanとの連携を進めています。Sansanユーザーが世の中には9000社いらっしゃるのですが、サービス上ではさまざまな企業のニュースや人事情報が流れています。それらの情報をユーザーはほとんど毎日Sansanを起動して確認しているわけですが、たとえば取引先の業績やリリースの発表、あるいは人事異動などのニュースを目にした担当者は、すぐさまContract Oneで自社との契約についても画面上で確認できます。

 そこで「この会社の業績が上がっているけれども、弊社との契約はまだまだ細いな。今度面談があるからIDの拡大の相談をしてみようかな」というような意識が担当者レベルで高まっていきます。契約に対する自意識が高まることで、事業の活性化につながっていくと考えています。

契約データベースの利点はトラブル回避に留まらない。諸サービスと連携することで、ビジネスチャンスを広げる「武器」にもなるという

まつもと ありがとうございました。日本のアニメスタジオは、規模が小さい会社が多く、権利を保持するために必要な専門知識を持った人と運用ができるプロデューサーの両方を備えたスタジオは少ない状況です。製作委員会方式で多くのアニメが作られているなかで、そういった小さなスタジオが本当は権利を持って運用することで、成長の軌道に乗っていく、ということを早く進めなければならないという課題もあります。

 もちろんプロデューサーの契約に対するスキル向上など、さまざまなファクターがあり、Contract Oneのようなサービスのみでは完全に解決できる問題ではないと思いますが、1つの「武器」として活用を考えるというのは十分にあり得る話ではないか、と思います。そういう意味でも、ダンデライオンさんの試みは非常に先駆的ですし、契約の重要性をよく理解されているからこそ、であること強く感じました。

ダンデライオン西川 いえ、きっかけは総務担当が「ハンコつきに出社するのが面倒くさいです」と言ったからなんですけどね(笑)

まつもと それもあるかもしれませんが(笑)、その背景には契約をしっかり管理したいという、経営者としての問題意識があったこと、そしてコロナ禍が背中を押したということだと思います。

ダンデライオン西川 はい。真面目に言うとそういうことです(笑) それから最後に、弊社が手がけた映画『THE FIRST SLAM DUNK』については、契約トラブルは一切ありませんでした。ここは強調しておきたいところです。

まつもと そこはとても大事なところですよね! 本日はありがとうございました。

大ヒット映画『THE FIRST SLAM DUNK』は契約データベース利用中に制作した作品。契約トラブルはゼロだったと笑顔で語るダンデライオン代表取締役の西川さん

前編はこちら

筆者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし(ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者)

 ITベンチャー・出版社・広告代理店、アニメ事業会社などを経て、現在フリージャーナリスト/コンテンツビジネスアナリスト。コンテンツビジネスでの経験を活かしながら、デジタルテクノロジーやアニメをはじめとするポップカルチャーコンテンツのトレンドや社会との関係をビジネスの視点からわかりやすく解き明かす。ASCII.jp・ITmedia・毎日新聞経済プレミアなどに寄稿、連載。

 著書に『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレス)、「アニメビジエンス」(ジェンコ/メインライター)、『知的生産の技術とセンス』(マイナビ/@mehoriとの共著)など多数。また取材・執筆と並行して東京大学大学院情報学環社会情報学コース(後期博士課程)でデジタルコンテンツ・プラットフォームやメディアに関する研究を進めている。法政大学社会学部兼任講師・デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士(プロデューサーコース)。公式サイト http://atsushi-matsumoto.jp/

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