◆自動化&電動化の先はAIとSDVでの進化
世界最大級のエレクトロニクスとITの展示会である「CES」。その最新の「CES 2024」の取材は、個人的にはコロナ禍を挟んで5年ぶりとなるものでした。「CES 2024」の会場は、新たなWest Hallという巨大展示スペースと、イーロン・マスク氏が作り上げた地下トンネルの「Vegas Loop」が加わり、コロナ禍という災厄にも負けずに、しっかりとパワーアップしていることを感じさせてくれました。
ちなみに、テスラは「CES 2024」に出展していません。ですが、来場者は会場内の移動に「Vegas Loop」を利用することで、何度もテスラのEVに乗車することになります(将来的には自動運転になるようです)。これほど大きなプロモーションはありません。みんなの役に立って、しかもテスラをアピールできる。なんともうまいアイデアですね。
今回、あちこちのプレスカンファレンスやブースを見て、何度も耳にしたのが「AI」と「SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)」という言葉です。今年の「CES 2024」のキーワードは、この2つで決まりでしょう。
「AI」は展示会場の建屋に大きく「AI for ALL」とあるように、イベント全体でもフィーチャーされていました。私が取材した自動車関連でも「AI」は注目の技術でした。自動車関連のプレスカンファレンスのトップバッターとなったフォルクスワーゲンの発表の目玉は、音声認識技術を扱うセレンス社と共同開発した、ChatGPTを使った対話型AI音声アシスタント「Cerence Chat Pro」でした。
デモでは、小粋なジョークを交えてクルマに話しかければ、対話型AI音声アシスタントがスムーズな受け答えを見せてくれました。決まった特定ワードにとらわれない、柔軟性を備えているのが特徴です。
また、プレスカンファレンスの最後に行なわれたソニー・ホンダモビリティの発表でも、マイクロソフトと共同開発している対話型AI音声アシスタントが「AFEELAプロトタイプ2024」に搭載されることが説明されました。プレスカンファレンスにはマイクロソフトからデータ/AI/デジタルアプリケーションプロダクトマーケティング担当コーポレートバイスプレジデントのジェシカ・ホーク氏が登壇し、AIの可能性を強く訴えていました。
ほかにも、West Hallのロビーに対話型AI音声アシスタントを搭載したBMW車両も展示されていましたし、マレリ社のインテリアの展示でも、バーチャル・エージェントの存在が想定されていました。さらにセレンス社では、クルマのマニュアルを対話型AIアシスタントで利用するサービスも用意。膨大な情報から欲しい情報を、より容易に素早く手に入れる方法としてAIを提案していました。
◆AIは先進運転支援にも使われる
AIは対話型AI音声アシスタントだけではなく、ADAS用の映像認識などに利用することもできます。実際にソニー・ホンダモビリティでは、「AFEELAプロトタイプ2024」の開発にAI技術を採用していると説明していました。
AIによる映像認識の精度向上は、そのまま自動運転技術の進化に直結します。今回は、さらにヴァレオ社が、性能を飛躍的に高めた第3世代のLiDAR「SCALA3」を2025年に市場導入することを明かしていました。AIによる解析技術の向上に、LiDARの進化も合わさることで自動運転技術の進化も大いに期待できます。2026年にデリバリーが始まる「AFEELA」は、自動運転レベル3を実現すると明言しています。2026年ごろには「AFEELA」に限らず、数多くの自動運転レベル3車が登場するのではないでしょうか。
◆自動車業界の注目のキーワードが「SDV」
もうひとつのトレンドと言えるのが「SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)」です。これは自動車関連に限りますが、やはりあちこちの自動車メーカーやサプライヤーから聞くことができたキーワードです。
「SDV」とは、クルマをハードウェアとソフトウェアの2つからなる製品と考え、そのうちのソフトウェアを更新することで、全体の価値を高めてゆくことのできるクルマを意味します。従来のクルマは、新車として発売された直後が最も高い価値を持ち、時間の経過とともに価値が減っていきました。
ところがSDVであれば、その価値は常に更新され、高いまま維持することができます。通信機能を使ってソフトウェアをアップデートする、OTA(Over the Air)技術がクルマにも実用化されたことでSDVが可能となりました。
そのため、今後、登場する新しいクルマにはOTAを用いたSDVになることが予測されています。実際に、今回の「CES 2024」でデビューしたホンダの新しいEV「0(ゼロ)シリーズ」も、ホンダ独自の「E+Eアーキテクチャー」が使われており、サービスや機能が新車購入後も進化していくと説明しています。
「AFEELA」は車載のアプリケーションやサービスをオープン化することが発表されています。社外のクリエーターによる、新しいアプリやサービスを次々に採用することもSDVの1つともいえるでしょう。
さらにサプライヤー側のSDVへ積極的な対応も、今回の「CES 2024」で見ることができました。ボッシュは、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)と協力して、新たなサービス創造に挑戦していることを明かしました。ヴァレオはEVのバッテリーの温度管理を行なうことで航続距離を延長するソフトウェアを開発しています。サプライヤーとして部品を作るだけでなく、ソフトウェアの開発にも力を入れているのです。
技術の進化は早く、そして普及も驚くほど早いのが自動車の世界です。もう数年もすれば、対話型AI音声アシスタントや、ソフトウェアのアップデートによる新サービス追加というのも普通のことになるかもしれません。「CES2024」は、そうした、ほんの先の未来を知ることのできるイベントなのです。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります