「CES 2024」は世界最大級のエレクトロニクスとITの展示会です。その特徴は、B to B(ビジネス向け)のイベントであるということ。つまり、展示されるのは未来の夢ではなく、明日のビジネスの種となる新技術です。今日ではなく、来年や再来年といった近い未来の最新技術を目にすることができるのが「CES 2024」の魅力と言えるでしょう。
そんな明日の技術の提供元である、サプライヤー関係の展示を紹介します。
◆大きく飛躍する自動車のAI
今年の「CES 2024」のテーマであり、大きな注目を集めた技術が「AI」です。様々な活用法がありますが、自動車関連でいえば、主に2つの用途が多かったようです。1つめが対話型音声AIアシスタントとしての活用。そして、もう1つがADAS(先進運転支援システム)の映像認識への活用です。この対話型音声AIアシスタントとしての活用で、大活躍となるのが、音声認識技術を扱うCerence(セレンス)社です。
Cerenceはフォルクスワーゲンと自動車向けの対話型音声AIアシスタント「Cerence Chat Pro」を共同開発し、アメリカで販売されるフォルクスワーゲンの一部モデルに導入することを発表しました。特徴は、Chat GPTを活用すること。音声アシスタントの名前は「IDA(アイイダ)」で「インテリジェント・ドライブ・アシスタント」の略となります。従来の音声AIアシスタントよりも、より柔軟で正確な受け答えが可能とのこと。
Cerenceとしては、二輪用のシステムも用意するつもりとか。ほかにCerenceでは、取扱説明書を対話型AI音声アシスタントで利用するシステムも展示していました。取扱説明書を対話で利用できるのであれば、クルマに限らず広い活用が期待できます。
◆第3世代のLiDAR「SCALA3」で自動運転の進化が加速する
サプライヤーとして興味深かったのは、フランスのヴァレオ社の展示でした。ヴァレオはセンサーや温度管理系など幅広いリソースを揃えるサプライヤーです。そんな中でも、今回の「CES 2024」での注目は、2025年に市場導入予定の第3世代のLiDAR「SCALA3」です。
2021年に自動運転レベル3を実現したホンダの「レジェンド」には、ヴァレオの第1世代のLiDARが採用されていました。その第1世代の性能は検知距離は60mしかありませんでした。それに対して第3世代の「SCALA3」は、1250万画素で200m先まで検知可能と言います。驚異的なまでに進化したセンサーの登場は、自動運転技術の進展に大きく貢献することでしょう。
またヴァレオでは、ほかに超小型の暗視カメラの展示もありました。通常カメラの映像とミックスして使うことで、ADASカメラの性能向上に貢献します。それ以外にも、EV向けバッテリーの温度管理ソフトウェア「Predict4Ranger」のデモも行なっていました。適切な温度管理をすることで、バッテリーの性能を存分に引き出し、航続距離延長を実現します。
こうした技術は、気づかないうちにEVに採用されていることでしょう。最新のEVの電費性能向上には、こうした隠れた技術が貢献しているのです。
ちなみに、防眩インナーミラーで有名なアメリカのジェンテック社も、暗視カメラ&通常カメラをミックスさせる技術を展示していました。ほかに、サンバイザーに防眩ミラーの技術を応用。通常は透明で、まぶしくなると徐々に黒くなって防眩するというものです。
◆元カルソニックのマレリはインテリア関連を展示
インテリア関連やサーマル関連に強いサプライヤーがマレリ社です。ルーツである「カルソニックカンセイ」という名前をご存じの方もいるはずです。その展示で目を引いたのが「ソフトウェア・ディファインド・インテリア」と名付けられたデジタルコクピットです。
特徴は「デジタル・デトックス」をテーマにしていること。フロントウインドウの下には、左右のピラーをつなぐような細長いディスプレイが備えられ、センターディスプレイや、助手席前のパネルにもモニター表示が可能となっています。しかし、ディスプレイが不必要なときは、センターディスプレイは収納され、ほとんどのモニター表示を消し去ることができます。
無秩序に増えるディスプレイ表示を考え直そうという、賢い提案には脱帽するほかありません。
◆日本のタイヤメーカーも存在感を見せた
国内では「ダンロップ」ブランドで知られる住友ゴム工業が「CES 2024」に初出展しました。タイヤというアナログの極致のような製品を扱うメーカーが、エレクトロニクス&ITの展示会になぜ出展したのでしょうか? その理由は、展示の新技術にありました。それがタイヤの状態を検知する「センシングコア」です。
この技術を使うことにより、運送会社などの多数の車両を管理することが可能になります。タイヤを売るのではなく、センシング技術と運行管理システムでビジネスを行なおうというわけです。住友ゴムとしては、B to Bのイベントである「CES 2024」において、アメリカでのビジネスパートナーを探すのも狙いのひとつ。プレスカンファレンスの日は、半日でいくつかのオファーがあったとの話も聞きました。
ブリヂストンも「CES 2024」にブースを構えていました。そして、こちらもタイヤを展示するのではなく、運行管理サービスが売り。ブース全体が、クラウド&デジタルをイメージしたものでした。ブリヂストンは、すでに現地ベンチャーを買収してビジネスがスタートしています。
◆ボッシュは水素ビジネスに積極的
サプライヤー大手のボッシュは、自動車に限らず、幅広いソリューションを披露しました。プレスブリーフィングで長い時間をかけて説明したのは、家庭用のヒートポンプシステムや、電動工具のバッテリーの共有化などでした。もちろん自動車関係がないわけではありません。
トレンドとなるSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル:ソフトウェアの更新で価値を高めるクルマのこと)では、アマゾンとの共同開発を発表。クラウドを利用した運送業などのフリート業者向けサービスも発表しています。また、自動運転では、自動駐車システムに充電機能を追加。EV時代に向けた、新しい自動運転技術を提案していました。
また、ボッシュは水素の燃料電池システムだけでなく、水素エンジンの量産化なども言及。水素ビジネスにも積極的な姿勢を見せました。
サプライヤーたちの技術展示を見ていけば、まだまだクルマは進化し続けてゆく! そんなことを確信することができます。自動車のモーターショーでは、なかなか見えにくい技術が、ここ「CES 2024」では主役。だからこそ、「CES 2024」の取材は面白いのです!
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