IT部門の仲間、誤送信からのハプニングなどドラマチックな20ヶ月を振り返る
導入過程自体がDXだった みずほ第一FTの新人が立ち向かったAsana導入3つの壁
ワークマネージメントツール「Asana」のエンタープライズユーザー会「PLANETSカンファレンス2023」において導入事例を披露したのは、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー(以下、みずほ第一FT)の田所 雅大氏。導入を推進した二十代の新人から見たAsana導入の3つの壁とその越え方、そしてAsana導入で得られたメリットとは?
「導入するためにどうすればいいか」を考えてくれたIT部門
Asanaはプロジェクトやタスクを管理するワークマネジメントツールで、自身のタスクと組織の目標(ゴール)をひも付けられるのが大きな特徴。世界190カ国100万チームで利用されているという。昨年11月に開催された「PLANETSカンファレンス2023」は、Asanaのエンタープライズ企業向けのユーザー会「PLANETS」初のカンファレンスで、Asanaを活用して業務改善や企業変革に取り組む企業が事例を披露した。
今回登壇した田所氏が所属するみずほフィナンシャルグループ(みずほFG)のみずほ第一フィナンシャルテクノロジーは、金融工学を用いたアドバイザリーを手がけており、第一生命、損保ジャパンからも出資を受けている。2021年にみずほ銀行に入行したばかりの田所氏は、同年にみずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向し、データサイエンティストとしてみずほFGやみずほFGの顧客に向けたDX支援、企業風土変革のほか、量子技術や数値最適化技術の研究開発も手がけている。
田所氏がリードしたみずほ第一フィナンシャルテクノロジーへのAsana導入は2022年3月からスタートし、30ユーザー程度でのトライアルを実施。2023年4月からは全社規模での200ユーザーでの導入が行なわれている段階だという。その間、さまざまなイベントが発生し、壁を超えたことで今に至っている。
田所氏が最初にAsanaの名前を知ったのは、2022年3月頃。北米にいる先輩からの「Asanaというイケイケのツールがあって、イケイケなシリコンバレーの企業はだいたい使ってるぜ」という話を聞いたのがきっかけだ。当初はピンとこなかったのだが、みずほFG向けのプロジェクトを展開するにあたって進捗を管理できるツールを探す必要が出てきたことで、5月にさっそくAsanaの担当者と面談。世界観は理解できたものの、社内での導入効果にイメージが沸かず、まずはトライアルさせてもらうことにした。
しかし、そのトライアルの段階で第一の壁である「セキュリティの壁」が立ちはだかった。トライアルでありながら、本番環境と同じセキュリティ要件の確認が必要となり、2年目の新人だった田所氏にはハードルが高かったため、ひとまずIT部門の仲間を作ることにした。その上でAsanaの担当に資料作りを手伝ってもらい、IT部門とセキュリティに関するセッションを持ってもらったという。
このセッションのあと、IT部門に協力を依頼したところ、IT担当の米良氏から「導入できない理由を探せばいくらでもあるんですけど、導入するためにはどうすればいいかを探しますね」という前向きなコメントを得ることができた。経験のないセキュリティの壁で心が折れかけていた当時の田所氏にこの言葉は大きかったという。「とても励みになる言葉をいただけた」(田所氏)と、自身もセキュリティ要件に関しても前向きに取り組み、きちんと資料を作ることができたという。
「全体のタスク数の4割は僕だった(笑)」
資料を元に提案した社長からOKが出て、IT部門によるセキュリティ検証を経て、2022年10月に無事トライアルがスタートした。まずはみずほFG向けの単体プロジェクトからAsanaを使うことに決め、オンボーディングを実施した。
田所氏がリードしたオンボード施策は大きく4つ。Asanaをどうやって使うべきかのガイドラインの策定、Asanaの基本的な使い方デモの実施、Asanaに関する社内用のQ&Aの構築、そして定例ミーティングでのナレッジ共有だ。このうち特に重要だったのはAsana Japanによるデモ。そして、録画したデータはこのあと思いも寄らない影響をもたらす。
ただ、トライアルで使い始めたところ「今まで使っていたツールに戻ってしまう」という問題が発生した。「単一のプロジェクトでAsanaを使っても、他のプロジェクトでTeamsを使うと、どうしても既存のTeamsに戻ってしまう」と田所氏は振り返る。そのため、単一プロジェクトの枠を外し、全プロジェクトでAsanaを利用できるように開放したのだが、そこで2つ目の「周知の壁」にぶち当たる。みんなで利用できるのに、周知されていないために、使われないという事態だ。
田所氏は単一プロジェクトから全社トライアルに拡げた後のタスク数のグラフを披露。もちろん伸びてはいるのだが、トライアル参加人数が約5倍になっているのに、タスク数は増えてない。それどころか、「全体のタスクの4割くらいは僕だった(笑)」という衝撃の事実が発覚した。確かになかなかツラい状況だ。
そんな中、少しでもユーザーを増やそうと、録画しておいたAsana Japanによるデモ動画を共有しようとしたところ、田所氏は誤って社長や取締役も読む全社メールにデモ動画のリンクを送ってしまったという。「それでも誰かに刺さればいいかなと思ったら、なんと社長に刺さった(笑)」(田所氏)とのこと。「動画の長さは2時間で、社長はきっかり2時間後に返答してくれ、素晴らしいとコメントしてくれました。先方に会いたいのでセットしてもらえますか?と前向きなお返事をくれました」というミラクルな事態に発展した。「乗るしかない、このビッグウェイブに!」と考えた田所氏は、矢継ぎ早にデモ動画の第2弾を共有した。
習熟度の壁を越えるべく、「とにかく便利に使ってもらう」
全社の前で社長が前向きに反応したという事態のインパクトは大きかった。上司もより前向きになり、同僚からも「Asana使ってみたよ」という声が出てきた。「やっぱりトップダウンって大事だなと正直思いました」と田所氏は振り返る。今回は社長の鶴の一声という追い風があったが、それを引き出せたのも地味な周知活動のおかげ。「できる周知活動は、できる限りやった方がいい」という教訓が得られたという。
そして、2023年度からはいよいよAsanaの本導入となった。セキュリティ要件を満たすため、エンタープライズプランでの契約だったため、コストもお高め。そのため、効果につなげるべく、理論武装もそれなりに行なったという。「なぜAsanaなのか? なぜ他のツールではダメなのか? 金額に対してどれくらいのリターンが得られるのか? 理詰めでパワポを作りました」と田所氏は語る。
4月からの本導入では再度オンボーディングを実施。環境整備、デモ、Q&Aとともに、ナレッジ共有にも注力した。具体的には、社内でAsanaナレッジセッションを定期開催。最初は以前収録したデモ動画を流す程度だったが、オンボード期間の後半では、プロジェクトや社内問い合わせ対応などを例にした社内でのAsanaの活用法まで披露されるようになった。
ここまではわりと順調に来たが、今ぶち当たっているのは3つ目の「習熟度の壁」だ。「Asanaの認知は高まったけど、Asanaを活用している人と、Asana難しくてよくわからん、うまく使えないという人の差が激しくなってきた」と田所氏は語る。タスク数のランキングを見ると、さすがに「田所さん4割」という状況は解消されたが、1位の人が全体のタスクの5%を占めてしまい、ばらつきが出始めてきたという。
使いやすいツールを使うという意味では、ばらつきもよいのだが、情報が分断しているという状況からすると、必ずしもプラスではない。そこで、田所氏が現在取り組んでいるのは、Asanaをより便利に使ってもらうための工夫だ。
具体的には、普段プロジェクトで連携することの多い親会社へのAsanaの導入支援のほか、基幹システムへの情報入力をAsanaで実現できないか検討している。これはAsanaのタイムトラッキング機能を活用して、プロジェクトにかかった時間をSalesforceに登録し、プロジェクトの係数管理を自動的にできるようにするというものだ。さらに、全社のルーティン業務をAsanaに移管できないか検討している。
Asanaの導入過程自体が企業変革ではないか?
同社では、他部署との連携でプロジェクトを運用することが多いため、Asanaのチーム機能を利用していない。基本的にはすべてのプロジェクトは全社公開され、一部のプロジェクトのみ部門やチームを作成して運用しているという。ポートフォリオ機能も自由度が高く、各人・チームで好きなように作成できるようになっている。
自由度の高いプロジェクトに対して、上位概念に当るゴールだけは記入ルールが厳格に定められているという。「ゴール機能で役員や社長がプロジェクトを一気通貫で見ていくので、記入の方法がバラバラだと見にくい。そのため、この階層ではこの目標にひも付けるというルールが明確化されている」(田所氏)。
こうしたルールがあることで、ゴールに対してどの程度の進捗度合いなのかを経営の目線から見られるというAsanaゴールならではのメリットをきちんと享受できている。また、メンバーにとっても、自身の関わっているプロジェクトがどんな目標にひも付き、ミッションに対してどのように貢献しているのかを、日々認識できるという。
現在、同社のAsanaを開くと、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)とともに、同社が目指す「本源的社会課題の解決」につながっているかを確認でき、階層状に設置された部署やプロジェクトごとにリンクされた目標を見ながら仕事ができているという。とはいえ、前述した習熟度の壁はまだ越えられていない状況とのこと。タスクの数は順調に増えているものの、全社員で割ると、もっと伸ばせる余地があるという。
田所氏は「Asanaはとても便利。カルチャーという目線でも、DXという目線でもいいツール。このツールを社内展開するために、協力してくれたIT部門、ずっと許容してくれた上司、トップダウンの社長などの協力もあってAsanaの輪が拡がった」と、ここまでの20ヶ月をまとめる。その上で田所氏は、「AsanaというデジタルツールがDXにつながるが、そもそもAsanaというツールの導入自体も企業変革やDXにつながっているのではないか?」とまとめた。
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