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早いペースで新コアIPを発表してRISC-Vを広めたSiFive RISC-Vプロセッサー遍歴

2023年12月04日 12時00分更新

スーパースカラーを支えるBOOMコア
(Berkeley Out-of Order Machine)

 RISC-Vのスーパースカラーコアそのものは、連載743回でも少し言及したBoomと呼ばれるコアが存在する。これもv1~v3があり、Boom v1は性能重視ながら動作周波数が上がらず、これを解決した(パイプライン段数が3段増えている)のがBoom v2である。Boom v3はさらに高速化を目指し、ついでに性能改善も狙ったものだ。

単に1コアだけでなく、4コアあるいはそれ以上の対応も必要になっているあたりが手間取った要因かもしれない

 簡単にまとめると、以下のようになる。

Boomコアのスペック表
  Boom v1 Boom v2 Boom v3
デコード 2wide 2wide 4wide
イシュー 3 4 8
DMIPS/MHz 2.5 1.9 3.9

 Boom v2はBoom v1よりもやや性能が落ちるが、その分動作周波数を引き上げやすい構成になっている。Boom v1は2017年4月、v2は2017年8月に発表されており、v3は2020年5月なので、前掲の2020年1月の製品ラインナップには間に合わない。

 性能や回路規模を考えればおそらくはBoom v1をベースとしたものと考えられるが、それでもBoom v1の登場から3年弱を要したのは、単に忙しかった以上に商品化には相応の時間が必要だった、ということに思える。というのは、2020年8月には7シリーズの上のグレードで8シリーズが投入されているためだ。このU84はおそらくBoom v2ベースのものになっていると思われる。

7IVは7シリーズにINT型のVector Unitを追加したもの。さすがにEコア/Sコアには用意がなく、Uコアのみである

 ちなみにここまでのシリーズは、現在ではエッセンシャル・シリーズとしてまとめられており、今はこの上位にあたるパフォーマンス・ファミリーとベクターエンジンのみを提供するインテリジェンス・ファミリー、それと自動車向けのオートモーティブ・ファミリーが用意されている(U8はパフォーマンス・ファミリーにまとめられたようだ)。

 やはりというべきか、当然というべきか、Armのハイエンドプロセッサーに相当するコアをいきなり投入するのは「普通」難易度が高い。

 例外はTenstorrentで、Jim Keller氏がハイエンドプロセッサーコアの設計経験が豊富だったからこそ、Jim Keller氏の参画後にいきなりAscalonコア(それもいきなりトップエンドの8-wideデコーダーのコアを開発し、そこからカットダウンするかたちで6/4/3/2-wide デコーダーの派生型を作るという荒業を成し遂げた)を投入できたが、普通の設計者はまずシングルイシュー/インオーダーのコアを製品化し、これを売りながら改良型や派生型を開発、ラインナップを広げていく。

 こうした流れで時間を稼ぎつつ、これと並行して高性能なコアを開発、より高い性能が求められるアプリケーションプロセッサーやサーバーの市場に殴り込みをかける。もちろんサーバーといってもクラウドサービスに使われるようなもの、つまりインテルのXeonやAMDのEPYC、あるいはArmのNeoverseを利用したAWSのGravitonシリーズのようなものにいきなり投入、というのは困難というよりも不可能であって、まずは小規模なエッジ・サーバー狙いということになる。

 このあたりのストーリーはArmと同じで、2010年にCortex-A15を発表したときは、まず小規模なStatic Web ServiceとかCDN(Contents Deliver Network)などに採用事例を増やしていく見通しであった。

 ArmがNeoverse N1を発表するのは2019年で、途中ソフトバンクによる買収などでエコシステムの充実が加速されたとはいえ9年を要していることを考えると、RISC-Vももちろんそう簡単にクラウドサーバーなどを含むハイエンドサーバー市場に参入はできないだろう。

 ただ卵と鶏ではないが、とりあえずそうしたハイエンドサーバー市場にリーチできるような性能を持つプロセッサーIPコアがないと話にならないし、そうしたコアはサーバー以外にも例えば自動車向けなどでもニーズがあるから、高性能コアを用意するに越したことはない。ただ普通これには数年~10年くらいの時間がかかる。特に高性能コアの開発は、そのための開発費がシャレにならない。

高い資金力があるから
開発を急ピッチで進められる

 SiFiveがこの短い期間で8シリーズやパフォーマンス・シリーズを投入できたのは、Boomシリーズという「元になるコア」があったことも大きいが、それよりもRISC-Vベンダーの中では群を抜いて資金力が高いことに起因する。

 要するにファンドからの資金を潤沢に確保できているのが、開発を急ピッチで進められた最大の要因ではある。公開されている分だけで、2022年3月の時点で合計3億6600万ドルを調達しており、この資金調達は、やはりAsanović教授の存在がかなり大きかったはずだ。

 ほかのベンダー、つまりAndes/Codasip/Cortus/TenstorrentなどもやはりRISC-Vプロセッサーを手がけていることが評価され、やはりファンドからの資金調達を行なってラインナップの拡充につとめている。それもあって、各社とも独自のコアを提供していた時に比べるとはるかに早いペースで新コアIPを発表するようになっている。

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