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漫画家・すがやみつる「73歳のマンガ家が生成AIを使ったら」

2023年12月12日 18時00分更新

漫画家・すがやみつる先生

 生成AIはクリエイターのライバルなのか?

 文章やイラストを生み出せる生成AIは、編集者の自分にとっては大いに助かっている技術だ。その反面、その制作を生業とする作家やイラストレーターなどのクリエイターは、まるで手に負えない商売敵が登場したように感じているのかもしれない。

 そんな自分の思い込みは、とある漫画家の話を聞いて覆された。

生成AIの活用例や可能性を語るすがや先生

 角川アスキー総合研究所が不定期に主催する「TECH×SHOCK meat」は、業界で面白い取り組みをしている人々と交流し、新しい何かにつなげようとする取り組み。第2回では、漫画家・すがやみつる先生が登壇し、「73歳のマンガ家が生成AIを使ったら」というお題で講演した。

 すがや先生が公開したスライドを見ながら生成AIの活用例を紹介しよう。

トークイベントで公開されたスライド

ChatGPTは嘘をつくので「フィクションの創作」に向いている

 質問したら大抵の答えを返してくれる「ChatGPT」。調べ物をする際の時短になるが、時にその情報の正確性が怪しい場合もある。

 しかしそれは「フィクションの創作」に向いているのかもしれないと、すがや先生は考えた。

 そこで「いま、アイデアができなくて困っています」とChatGPTに相談。すると、「自分の人生経験を元にしたストーリーを考えましょう」「今話題のトピックなどを取り上げましょう」といったアドバイスが返ってきた。

 行き詰まった際には、まるでカウンセラーのように親身なアドバイスもくれる。チャットをしていたら朝になっていた、という経験もあるという。

「型通りのシナリオ」を生み出すのが得意

 すがや先生は「連載マンガのストーリーを創ってほしい」と、これまた無茶に思える問いかけをした。

 それに対してChatGPTは、「ゼロレーサー」というタイトルと以下のようなプロットを提案。

 「トラウマを抱えた主人公が、その解消のために何かと戦い、危機を乗り越えて成長する」というような、ハリウッドスタイルのエンタメドラマによく見られるストーリーだ。

 試行錯誤の中から、すがや先生が気付いたのは、ハリウッドなど海外の王道作品で用いられる「三幕構成」「セーブ・ザ・キャット」といった定型的なドラマ形式のシナリオ(構成)を出力するのが得意だということ。

 しかし、「具体性が無い」ことが欠点だという。どんなトラウマ? 戦うのはどんな敵? 襲い掛かるき危機は?といった、物語の面白さを決める重要な要素の提案は力不足なのかもしれない。

 足りない要素はユーザーがデータを追加することで解消できる。主人公の名前や時代背景などを付加して問いかけることで、こちらの考えた設定を飲み込み、いくつもの準タイトルとエピソードを提案した。

「アイデアを出す数と速さ」は頼りになる

 提案された準タイトルとエピソードの1つが作品に使えそうと思ったすがや先生は、その後もChatGPTとのやりとりを挟みつつ意見を叩き合った。

 感想を求めれば、さらに追加の提案までしてくれる優秀なサポーター。それもほめ言葉を添えて返事をしてくれるので、ユーザーは創作の気分も上がるだろう。このやりとりの上手さは編集者の我々も見習いたい。

 加えて、作業を大幅に効率化してくれる。

 漫画を描くすがや先生は、セリフとナレーション部分を抽出するPythonのプログラムをChatGPTに作ってもらい、その抽出された台詞・ナレーションをマンガ制作ソフトの「CLIP STUDIO」に配置しているという。

 こうした処理は、スクリプトを使うと一瞬で済むため、必要に応じてコードの作成をChat GPTに頼むといいとアドバイスしていた。

 漫画のコマに合わせて適切な改行までしてくれるようで、漫画を創作する中で多くの時間を要する作業がクリック1つで完了する。

生成AIを扱いこなすと「創作の幅が広がる」

 生成AIは嘘をつく(情報の正確性は怪しい)、アイデアに具体性が無いといった欠点があるものの、型通りのシナリオを生み出してくれたり、アイデアを出す数と速さは頼りになったり、補うには余りある利点をいくつも持っている。

 これらを扱いこなすことで創作の幅が広がることをすがや先生から学んだ。クリエイターには、参考になった例を自らの作品作りに取り入れてほしい。

 すがや先生が公開したスライドは以下のポストから全編が見れる。

 また以下の動画では、オープン編集部・TECH×SHOCK meatにて、すがや先生がトークした内容(質疑応答部分)を公開。

■すがやみつる「73歳のマンガ家が生成AIを使ったら」質疑応答

 すがや先生の生成AIを使った試行錯誤の数々は、創作に関してだけでなくさまざまな人にとって参考になるので、ぜひ動画を見てみてほしい。

■すがやみつる

漫画家。小説家。元京都精華大学教授。作品は『ゲームセンターあらし』(コロコロコミック)/『ゲームセンターあらしと学ぶ プログラミング入門 まんが版こんにちはPython』(日経BP)/『コミカライズ魂』(河出新書)など

■「空飛び娘、ひらり」連載中

 「みたいな!」(角川アーキテクチャ)にて、すがやみつる先生が描く「空飛び娘、ひらり」連載中。詳細はこちら

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