AI規制進めるヨーロッパでは、産業界から反発も
AI開発企業に様々な義務を課す厳しい内容を含むことで注目を集めているEU AI規制法案は、6月に欧州議会で法案が通過し、各国間で最終合意を目指す会合が続けられています。このまま年内に法案が合意され、来年には発効、施行が始まるものと思われていました。しかしここに来て意見が分かれ、合意の見通しが立たないと報道されています。
EUのAI規制法案は、AIを4段階のリスクに分類し、リスクに応じて規制をかけていくというもの。ChatGPTのような基盤モデルと呼ばれるAIシステムを開発している企業はシステムの設計に関する詳細を開示し、トレーニングに使用した著作権付きデータの概要を提供することを求めています。違反した場合には最大3000万ユーロ(約40億円)か全世界売上高の6%という巨額の制裁金が課される可能性があるという非常に厳しい内容です。
これは明らかに、大きく先行するアメリカのIT大手をターゲットにしたものでした。
過去に検索システムなどでは太刀打ちできなかったことから、AIでは事前に規制をかけることでアメリカ企業の独占に歯止めをかけようという目論見がありました。ところが、この規制をヨーロッパ域内のAI企業に適用すると、欧州で発展させるのが非常にしんどいという意見が出ているのです。
10日のEURACTIVの報道によると、実際にEUのAI規制法に関して産業界の反対が出てきています。特にフランス、ドイツ、イタリアというEU内で影響力の強い三国が反対しているとされています。フランスでは元国務大臣が入っているミストラルというAIスタートアップが反対。ドイツでもAI企業が反対しています。このルールを適用してしまうと、アメリカのみならず、中国にも遅れをとるということで、年内には合意できない可能性が高まっており、交渉は暗礁に乗り上げているようです。
AIは、次世代の巨大産業になりそうな気配が強くなりつつあるため、各国とも自国の産業をいかに成長させるかということが焦点になりつつあります。規制ありきの考え方では産業育成につながらないのでは、という論調が強くなってきているのです。
この対立構造の突破口になるかと思われたのが11月1〜2日にスナク首相が開催した英AIセイフティサミットですが、あまり大きな成果は生み出せませんでした。アメリカからはカマラ・ハリス副大統領が参加しましたが、初日は会場に姿をあらわしませんでした。アメリカ大使館で大統領令の内容について発表するという、露骨にサミットの格を落とす対応をとったんです。
これはアメリカが中国政府の代表団が参加していることを嫌がったからとされています。中国の参加はスナク首相が推し、アメリカと日本は反対していたとされています。アメリカと中国とは、半導体も含めてAIに関連する先端技術で対立関係にあるため、中国政府と一緒にAIの国際的な枠組みをつくるのを望んでいないのですね。
イギリスは中国を含めてG7以外の国々も招待しており、このサミットをきっかけに中国を含めた国際的な議論の枠組みづくりで音頭をとりたかったのが本音だろうと思うのですが、その意図は空回りした格好です。宣言が出たものの、リスク管理と継続的な議論の必要性といった内容には目新しささはなく、G7以外も含む29の国と地域が署名したというぐらいのものでした。
その後、15日に、米中首脳会談がありましたが、そこでは「高度なAIシステムのリスクに対処し、AIの安全性を向上させる」ための米中政府間協議をすることを発表しており、アメリカはリスクに絞って、独自に二国間で対応する方針を明らかにしています。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう