今年30周年を迎えたDTS。そのコンテンツの魅力を探るメディア向け視聴会が11月22日に開催された。
イマーシブオーディオの「DTS:X」、ロスレスサラウンドの「DTS-HD Master Audio」といったパッケージ向けのフォーマットのほか、再生機が搭載するアップミックス技術「Neural:X」にフォーカスを当て、高音質コンテンツの見どころ/聞きどころを探る試み。ストリーミング配信では味わえない立体的で高解像度なサウンド、そしてサラウンドならではの表現を体感するのが表のテーマだ。
一方、裏のテーマには、家庭のリビングにあったサラウンド再生環境の提案がある。再生機器は敢えてサウンドバーに限定。JBLのBAR 1000とゼンハイザーのAMBEO Sondbar|Plusを用意して、テレビ中心の視聴環境を組んでいた。
コンテンツのセレクトは、Blu-rayプロデューサーで過去250作品以上のディスク制作に携わってきた伊尾喜大祐氏、映画ライターでWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出や情報誌『DVD&動画配信でーた』で新作紹介をしている飯塚克味氏が担当。合計6本の作品/シーンをデモした。
まずはDTSの歴史をおさらい
映画館の音響としてスタートを切ったDTS。1993年公開の『ジュラシック・パーク』で初採用され、1997年には「DTS Digital Surround」でホームシアターに参入した。2004年には「DTS-HD Master Audio」や「DTS-HD High Resolution Audio」がBlu-ray Discのマンダトリー仕様(必須の規格)となった。2012年には米SRS Labsの買収が完了。2015年にはその「Multi-Dimentional Audio」技術を基にしたオブジェクトオーディオフォーマット「DTS:X」が登場している。ホームシアター分野では、2018年以降、IMAXと提携して「IMAX Enhanced」を展開。動画/音声に加え、再生機器の基準を作り、再生品質を担保したコンテンツの提供/拡散に取り組んでいる。
このように音響を中心にビジネスを展開してきたDTS。現在はその裾野を広げている。dts Japanのシニアセールスディレクター塚田信義氏によると、「DTSはこれまでオーディオ1本でやってきたが、近年取り扱う製品が増えている。デジタルカメラの赤目防止センサーや手振れ補正機能、DMS(Driver Monitoring System)などはその例で、幅広い形でDTSのブランドを展開している状態だ」という。
DTSの技術を搭載した民生機器は20億台以上に達し、機器の種類もAV機器だけでなくスマートフォンなど多彩だ。上述したコーデック技術に加えて、Neural:Xなど、ポストプロセッシング(再生時の処理)で広がりのある音を再現する技術も力を入れているポイントだ。フィーチャーフォン時代に着メロをきれいに聞かせたり、ブラウン管テレビの時代に音場を広げ、低音を響かせたりといった取り組みもあった。現在は、スピーカーの取り付け位置、取り付け角度に制約のある液晶テレビでも、広がりのあるサウンドを実現することにも取り組み、技術的なノウハウは進化とアップグレードを続けているという。
このポストプロセッシング技術については「来年後半に大きな動きがある」とのこと。「エンターテインメント性を高める取り組みとして期待してほしい」と塚田氏は語っていた。
DTSを体験できるコンテンツは何か?
コンテンツについては、DTS:Xの映画館音響に対応したシアターが世界で1000館を超え、Blu-ray Discや4K UltraHD Blu-ray Discは200本以上になったという。国内でも制作環境の充実に努めており、2021年には国内初となるIMAGICAエンタテインメントメディアサービスのDTS:X試写環境、東映デジタルセンターのDTS:Xダビング環境の整備に協力している。映画『えんとつ町のプペル』はこの設備を使い、国内で一貫制作されたものだという。
特別な体験をユーザーに提供するというDTSの姿勢は一貫している。DTS=Dedicated To Sensationと掲げるように、DTSはコンテンツ制作のサポートを続け、グローバル企業という強みを生かし、日本発のコンテンツを海外に配信したり、パッケージで楽しめたりする環境づくりにも取り組んでいきたいという。
DTS:Xを採用した直近のディスクとしては、デモにも協力したNBCユニバーサルの『TOO YOUND TO DIE!』『メアリと魔女の花』『イノセンス』を紹介。また、DTS-HD Master Audoの5.1ch、7.1chコンテンツについても、Neural:Xと組み合わせることでイマーシブ化できるとアピールしている。
リビングに違和感なく置ける7.1.4ch対応サウンドバー
デモに用いられたのは、JBLの「BAR 1000」とゼンハイザーの「AMBEO Soundbar|Plus」の2機種。
BAR 1000はサウンドバーでありながら、リアスピーカーを利用できる個性的な製品。リアスピーカーはバッテリー内蔵で、本体とドッキングして片づけたり、充電できたりする仕様。サブウーファーを含め、各スピーカーはすべてワイヤレスで連携する。DTS:Xを始めとした主要なサラウンドフォーマットに対応。すでに7000台を出荷した人気モデルであり、国内の売上シェアでも首位を占めたこともある製品だ。実売価格は10万円台前半。
AMBEO Soundbar|Plusは、1本バースタイルで7.1.4ch再生ができる世界初のサウンドバー。高性能な自動キャリブレーション機能を持ち、定位感、音場の広がり、再現性などが光る製品だ。視聴コンテンツに合わせた最適化機能も持っている。DTS:Xに加えて、Neural:Xをさらに同機に合わせた形でアップミックスする機能を持つ。実売価格24万円強だ。
これら2つのサウンドバーを用いて、4KUHD版の『アポロ13』を視聴したが、それぞれの個性が感じられた。
BAR 1000はバーチャルではなくリアルで後方から音が鳴るため、高いサラウンド効果が得られ、音の移動感もよく感じ取れる。音質傾向はJBLらしい豊かな中域と、迫力のある低域が魅力的。セリフなどの音も聞えやすいので、効果音など音の演出はもちろんだが、ストーリも分かりやすく把握できるだろう。
AMBEO Soundbar|Plusは、ゼンハイザーらしいクリスプで抜け感のいい音質が印象的。ピッタリと決まる定位感、見通しのいい音場、解像感の高さに加えて、金属音を始めとした高域の鋭さなども的確に再現。ハイエンドサウンドバーらしい上質な体験ができる。音が鳴るのは前方のみだが、指向性のコントロールが巧みなのか、音場の幅に加えて、高さ方向の広がり感も良い。後述する『すずめの戸締り』では、上へ伸びていくミミズやカラスの鳴き声などを立体的に響かせていた。
サウンドバーの音はここ数年、大きな進化を遂げており、ハイエンド機ではAVアンプに複数のスピーカーをつないだ構成と比べてもひけを取らないものになっている。リビングは生活の場所でもあるので、コンパクトに高音質が得られるのであることが一番だ。映画館に迫る体験を手軽に手に入れたい人にオススメだ。
イベントに登壇した伊尾喜さんは「最初、サウンドバーではなく視聴室に設置されていたKEFのスピーカーが鳴っているのではないかと思ったほど。サラウンドにこれまでどれだけ投資してきたのかを考えると複雑な気持ち」とコメント。飯塚さんも「正直サウンドバーをなめていたというか……初期の軽い感じの音の印象が残っていましたが、ここまでの表現ができるとは驚きです。ここからスタートできる、現代のユーザーをうらやましく感じる」などとコメントしていた。
ちなみに、サウンドバーは画面の下に置く必要があるため、声が下から聞こえてしまうという弱点もあるが、デモではともに、インシュレーターを挟み、少し上向きになるよう設置されていた。製品を持ち込み、DTSの視聴室内で試行錯誤を加えた結果だという。
ディスクの魅力は世界観への没入
Blu-ray Discの制作に携わっている伊尾喜さんは、パッケージの制作に際しては、必ずDTSのロゴトレーラーを入れるよう配慮しているそうだ。「内容だけを考えれば、不要なものだが、映画館の雰囲気になるべく近い、わくわくする体験を演出するために入れている」とのこと。
加えて注力しているのが、ディスクにはなるべく「Headphone:X」のトラックを入れること。Headphone:Xはヘッドホンで楽しめる仮想サラウンド技術。手軽に5.1chの魅力を体験できることに加え、2chのオーディオトラックであるため、転送レートも低く抑えられ、ディスク容量の消費が少ない点がメリットだという。これまでに手掛けた10以上のタイトルで採用したとする。後述する『ルパンの娘 劇場版』では、そのテストトラックに「円城寺輝♪」という歌声が様々なチャンネルから聞こえる音源が入っている。こうした遊び心も楽しい
また、配信にはないパッケージの魅力として、転送レートの制約から解き放たれる点を挙げた。マスターに一番近い状態に肉薄できるかを意識し、買ったからこそ得られる音質と画質を提供したいとコメントしていた。また、パッケージは特典や箱自体も付加価値であり、作品の世界観を示せるよう、メニューも含んで細部までこだわっているという。上記のトレーラー映像やテストトラックなどへのこだわりもその表れと言えるのだろう。
制作者そしてマニアの目線で選ぶ、魅力的なコンテンツ6選+α
デモされたコンテンツは飯塚さんセレクトの『ヒックとドラゴン』『ジュラシック・ワールド 新たな支配者』『スリーピー・ホロウ』、伊尾喜さんセレクトの『ルパンの娘 劇場版』『バスカヴィル家の犬』『すずめの戸締り』。そして、来場中にさりげなく流されていた『タイタニック』のDTS CD版サウンドトラックだ。
飯塚さんが選んだのはいずれもハリウッド作品で、最高水準の音響が味わえるコンテンツ。伊尾喜さんはこういった場では珍しい邦画を選択しているのが面白い。ヒックとドラゴン、ジュラシック・ワールド 新たな支配者はDTS:X、それ以外は5.1chのDTS-HD Master Audioの音声を収録したものとなる。
それぞれのシーンと聴きどころは下記の通り。DTSの魅力あるサウンドを体験してみたいと思う人は参考にしてほしい。
【BAR 1000】でデモ
ヒックとドラゴン:3Dアニメ作品。実写化も予定されている人気シリーズだが、3作目が公開されるタイミングで、4KUHD化とDTS:X化を果たした。デモはチャプター9の飛行訓練(43:52~46:20付近)。ドラゴンの風を切る移動感、躍動感、音楽のコラボが見事で。ハリウッドらしい音の動きを体験できる。
ルパンの娘 劇場版:人気テレビシリーズの映画化。デモはチャプター14のタイプトラベル(49:00~51:30付近)。自動車を改造したタイムマシンがタイムトンネルを超えて、バブルの雰囲気が残るジュリアナ東京に飛ぶコミカルなシーン。移動するタイムマシンの効果音、タイムトンネル内で響く宇宙戦艦ヤマトのSE、ジュリアナ東京で響くズンズンとした低域。虫のように小さくなってしまったタイムマシンの周囲を歩く巨大な人間の足音がサラウンド音場でぐるぐると回る音の動きなどに注目。
ジュラシック・ワールド 新たなる支配者:DTSと言えばやはりジュラシックのシリーズ。アクション映画ならではとも言える中盤の盛り上がり。デモはチャプター9の恐竜たちが解き放たれ、バイクや車で逃げ惑い、逃げ込んだ飛行機が離陸するシーンまで(58:40~1:03:20)。恐竜の移動感、バイクのスムーズな動きや縦横無尽に駆け巡る効果音は、これぞサラウンドと呼べるもので、ハリウッド映画は楽しいなと再確認できた。
【AMBEO Soundbar|Plus】でデモ
バスカヴィル家の犬:シャーロック・ホームズを日本的に翻案した邦画。デモは冒頭シーン(0:00~2:00)。脅迫状を作る、ハサミの音が持つ重量感、立ち上がりの鋭さ。菅野祐悟によるストリングスの不穏な劇伴曲の濃密な響き。森の中から聞こえる野犬の遠吠えなど。1本バータイプで包囲感や雄大な音場が出せるかをポイントに置いたという。
スリーピー・ホロウ:1999年制作のティム・バートン監督作品。銀のこしの現像によってモノクロに近い独特の雰囲気を持つファンタジーホラー作品。デモはチャプター1の首無し騎士による馬車襲撃(1:59~3:52)。馬車の移動感や疾走感、そしてそれに呼応する素晴らしい音楽の盛り上がりに注目。
すずめの戸締り:新海誠監督によるアニメ作品。デモはチャプター4の初めての戸締り(9:10~12:50)。5.1ch音声だが、Neural:Xで再生すると、トップチャンネルに独立性の高い音が割り振られ、ドルビーアトモス制作と言われても違和感のない音のインパクトがあるという。ミミズが噴き出すシーンでは、音場が高く高く上がる。カラスの大群が空の上をまとわりつく音の効果、廃墟にたどり着いた後、ミミズが扉から噴き出す轟音の移動感では、音場がぐるぐると動く。扉を閉じる儀式では、土地の記憶(声)が様々な場所に浮かび上がる。シーンの展開に合わせて、音楽も盛り上がるが、フロントに定位はさせていない。サラウンドを意識したミックスであるのは明らかだという。
訂正とお詫び:作品の説明を修正しました。(2023年11月25日)
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