〈前編はこちら〉
コロナ禍の音楽市場とYOASOBIのグローバル戦略
引き続きParadeAll(パレードオール) 代表取締役の鈴木貴歩さんにストリーミング隆盛となった音楽業界の現在と未来についてお話をうかがいます。約10年前に同じテーマでインタビューした際の記事「Spotify上陸直前――定額配信とリアルイベントは音楽に何をもたらす?」と対比しながら読み進めると一層理解が深まるかもしれません。
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まつもと これも『デジタルコンテンツ白書』で触れられているのですが、日本の音楽は世界市場に目を向けると全体として伸びています。
YOASOBIが象徴的だったと思うのですが、国内のジャパン・プライシング・ギャップの問題はありつつも、「じゃあもう世界で売っていけばいいんじゃないか」という見方もできると思いますが、このYOASOBI現象についてはどう思われますか?
鈴木 ちょうどパンデミックの入口から独自の表現を始めたYOASOBIは、いわゆるボカロP的な日本独自の土壌から世に出て行きました。
2020年にパネルディスカッションでお話を伺ったのですが、ボカロPといえばニコニコ動画というイメージですが、YOASOBIはニコ動よりはYouTubeだったようです。ボカロPのカルチャーを受け継ぎながら、YouTubeというグローバルなプラットフォームを中心に選んだのが良かったのだと思います。
そして2人のメインのチームメンバーと、Ayase君とikuraちゃんがLINEグループでさまざまな施策をスピード感を持って実行したとお話をうかがって、そこがすごく効率的だったのではないかと。
また、YOASOBIをディストリビューションしているのはThe Orchardという独立系のレーベル、ディストリビューション会社なのですが、同時にグローバル企業でもあるので(海外進出の)ノウハウがあったことも大きいかと思います。
まつもと 起点としてアニメがありつつ、機動力があってグローバルプラットフォームで素早く実行することに長けている。それらが組み合わさったときに大ヒットにつながっていった、と。今後、楽曲としての『アイドル』的なものが複数アーティストから同時多発的に生まれる可能性はあるものでしょうか。それとも、YOASOBIは「特異点」として捉えるべき?
鈴木 エッセンスとしては、「誰でもできる」「やろうと思えばできる」ということになるでしょう。ただ、それをやろうと思ってやり切る意志力には差があると思います。
また、登場したタイミングがコロナ禍の入口だったことも非常に大きかったでしょう。家で過ごす時間が増えた頃に登場して、同時期に「THE FIRST TAKE」が始まり……と、そういった盛り上がりの入口にいられるかどうかは運の要素もあります。
まつもと コロナ後という観点からうかがうと、マンガ市場でも一種の揺り戻しがあり、巣ごもり特需が一段落してもう一度物理パッケージや対面での流通が戻って来ているものの、明らかに戻らない部分もあります。音楽についてはどうでしょうか? 自粛されていたライブ公演もだいぶ戻っているようですが……。
鈴木 やはり揺り戻しのような「リアル回帰」という流れはあります。業界でもそう考える人が増えてきていると思うのですが、個人的にはそれはあくまでも「消費のタッチポイント」の1つだと思っています。
タッチポイントの“あいだとあいだ”をつないでいるのはデジタルであり、ヒットの種になっているのもデジタル消費です。コロナ禍のときと同じように仕掛けていかないと、ライブがどんどんタコツボ化したり、売上が先細ったりする可能性のほうが大きいと思っています。
NewJeansがあれだけ話題になったのも、基本的にはデジタルで多くの人が消費して認知が上がったためです。ファンベースの継続や増加にはやはりデジタル施策が必要となります。この考え方をどれだけキープできるかが重要でしょう。
今は特需の中にいるかもしれませんが、上記を考えていかないと、K-POPなどとの差はあらためて開いてしまう可能性が大きいと思います。
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