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日本にはコンピューター博物館が必要だ! 青梅の新「マイコン博物館」のクラファンがスタート

新しいマイコン、パソコンの聖地が誕生

 一般財団法人 科学技術継承財団 館長の吉崎武氏が立ち上げた「マイコン博物館」の拡張・移転のためのクラウドファンディングが、開始後わずか2時間で目標額の200万円を達成した(この原稿を書いている約12時間後には2つ目として設定されたゴールの500万円も達成している)。

 吉崎氏は、1977年創刊の『月刊アスキー』初代編集長で、『ログイン』の初代編集長でもあり、現在は、学習用マイクロコンピュータの企画・開発・販売、関連の出版を手がける株式会社技術少年出版の代表。初期のマイコンからパコソンがさまざまな分野に浸透した時代に、みずからそれにかかわった人物である。

 私は、吉崎さんのあと、宮崎秀規さん、大熊正美さん、土田米一さんと引き継がれて5代目の『月刊アスキー』編集長だが、私のアスキー入社とほぼ入れ違いに独立されたので面識がなかった。最初にお見かけしたのは、日本科学未来館で開催されたMaker Faire Tokyo 2013での「Legacy8080」のブースでだった。

 元『ログイン』の船田巧くんに「絶対に見てくるといい」と言われて行ってみると、いかにも70年代までのコンピューター然とランプが並んでピアノスイッチもある箱がある。Legacy8080というのは、初期のマイコンを代表する「Altair 8800」(1974年)を現代に蘇らせるプロジェクトなのだった。

 「マイコン博物館」は、吉崎氏が2016年に8000冊の技術雑誌を収蔵する「夢の図書館」を八王子市高尾で仮オープン。その後、2019年に青梅に「夢の図書館」「マイコン博物館」「模型とラジオの博物館」として正式オープンしたものだ。

 当時、マイコン博物館の見学を申し込んだのだが、なにかの都合で行けないままだった。初めて出かけたのは、2020年になって、これまたマイコンの最初期から活躍されているABITの檜山竹生さんやイーストの下川和男さんたちと、どちらかというと夢の図書館に関わることでおじゃましたのだった。その後も含めて3回ほど「マイコン博物館」に出かけている。

 いまや100年分2万冊の貴重な技術雑誌を収蔵する「夢の図書館」も桁違いだし、「マイコン博物館」も、少なくとも国内で比類するものがない貴重なコレクションだ。なかなか、言葉だけでは伝わりにくいと思うのだが、今回、拡張・移転のために新拠点に運び込まれた機材は、30トンにおよぶとのこと。

 いままで展示できずに倉庫などにあったものも新「マイコン博物館」では展示されるとのこと。それはとても楽しみ。それでは、どんなものがマイコン博物館にあるのか? 移転前のマイコン博物館で撮影させてもらったスナップ写真があるので、少しだけ紹介させてもらうことにする。

Apple III。アップルコンピュータが、Apple IIの成功のあと後継機として1980年に発売したコンピューターだ。Lisaは1983年、Macintoshの発売は1984年である。

初期のマイコン御三家の1つはコモドールのPET 2001だが、これは、ヨーロッパでは商標の関係で別シリーズ名となったCBM 3032らしい。

手前はDECの端末VT-100。私も仕事でお世話になりました。その左がAltair 8800。VECTOR 3。個人的には上のブラウン管式電卓 Friden 130も気になる。

SEIKO S-500は、精工舎がAltair 8800よりも2年前の1972年にインテルと8008を共同開発して発売した。このクラスも揃っている。

TI Silent 700は、音響カプラとサーマルプリンタのついたポータブル端末。プログラマー時代にこの種の端末が規制緩和で使えるようになり少しだけ触ったことがある。

ポータブルパソコンの元祖的な存在のOsborne 1。

初期マイコンユーザーなら涙が出そうなTeletype ASR 33。

コンピューターのソニーとも評されたソードのM223 Mark IIIとM243。

アスキーの原稿用紙! 私が入社した1985年にはデータ入稿していたが編集部にはまだあった。懐かしすぎる!

かつて高校の電卓教育というものがあったそうだ。

Sol-20。Altair 8800の誕生でも重要な登場人物である『Popular Electronics』の編集者レス・ソロモンの提案がきっかけで作られたものだそうだ。

これが、Legacy8080だ!

 私の興味や関わりのあったものに偏って写真を選んでしまったが、この博物館の充実ぶりを感じてもらえただろうか。博物館は、展示のされ方で大きく性格が異なるわけだが、紙資料や周辺機材も丁寧に扱われており、ライブ感のある内容がうれしい。

 吉崎氏によると、新「マイコン博物館」は、2024年3月から4月にオープンの予定だ。JR青梅線の青梅駅(新宿から中央線快速直通で約1時間)から徒歩2分。この新拠点の広さは1000平方メートルもあり、旧拠点の10倍となる。元銀行のビルなので、大金庫室が2個あり、強固な壁と扉で守られている。

 ちなみに「マイコン」とは、初期のキットやパソコンなどのコンピューターを指す呼び方だったわけだが、新「マイコン博物館」は、個人用の計算機(マイコンピュータ)をテーマとした博物館であり、初期の8ビット機だけの博物館ではない。計算尺、真空管式アナログ計算機、ミニコン、ワークステーションも展示される。

 ところで、2023年3月、この「マイコン博物館」と「夢の図書館」が、情報処理学会が運営している「分散コンピュータ博物館」として認定された。

 分散コンピュータ博物館というのは、その公式ページに「我が国にはコンピュータ専門の博物館がありませんが、規模は小さいながら、貴重な資料を蒐集、展示している組織・施設は多数あります。その努力に感謝すると共に、より多くの方々にその存在を知っていただき、利用してもらえるようそれらを情報処理学会の分散コンピュータ博物館として認定する制度を発足しました」とあるとおり、コンピューターが保存されている施設を認定、リンクするしくみである。

 それにしても、海外から見たら日本はテクノロジーの国であると同時に、コンピューターでは必須の半導体技術をはじめ、いくつかの分野で世界のトップを走った国である。1974年には、大型コンピューターでIBMを凌駕する性能を叩きだし、1980年代には日米スパコン摩擦を生ずるまでになり、携帯電話では米国よりも先行してモバイルインターネットなどサービス面でも見るべきものがあった。

 パソコンは、国内規格が強かったという特殊性はあるが、高く評価すべき製品がたくさんある。また、それ以上に、カラー液晶、記録メディア、プリンタなど、周辺装置やデバイスで世界を圧倒するパワーを持っていた。最初のマイクロプロセッサの開発者の1人は日本人であり、リチウム電池やフラッシュメモリでも日本のはたした役割が大きい。まさに、1980年代にNHKが「電子立国」と表現したとおりの歴史がある。

 それにも関わらず、それらをまとまった形で保存して記録する博物館が存在しないというのは不思議な話である。

 情報処理学会は、「分散コンピュータ博物館」と同時に「情報処理産業遺産」という認定を行っているし、「IPSJ コンピュータ博物館」というバーチャルな博物館もある。また、国立科学博物館の産業技術史資料情報センターが、「重要科学技術史資料」なるものを選定している。いずれも、貴重な取り組みだが、大切なのはやはり“現物”なのではないか?

 それは、米国や英国に立派なコンピューターミュージアムがあるからそれと比較して自分たちもほしいなどという話ではない。我々がいま日々暮らしていけている基盤を築く原動力になった、我々の先達たちが生み出した製品の数々。それは、国宝や文化財のように扱われてもおかしくない、資源のないこの国のあり方を教えてくれる“国民的な宝”だからだ。認定やリンクが“宝”なんて聞いたことがない。

 本来なら国など公的機関が作るべきコンピューターの博物館を、有志が集まって推進している貴重なプロジェクトが、まさにこの「マイコン博物館」であるわけだ。そしてまた、コンピューターの博物館ということであれば、同時代の海外製品も我々にとっては貴重な存在だった。先ほどの写真でみてきたように、ここにはそれがある。人々がそれとともに学び助けられ創造性を刺激された魅惑的なマシンたちである。

 ところで、マイコン博物館というと、リタイア世代が、懐古趣味を楽しむ場所と思われるが、来館者で一番多い年代は、やる気満々の10歳代なのだそうだ。X(旧Twitter)の夢の図書館+マイコン博物館+模ラ博物館(公式)のアカウントを見ていると、小中学生向けの技術セミナーも毎週開催してきたことがわかる。

 吉崎氏は「博物館とは、本来、子供たちの学びの場であり、ここから、5年後、10年後に、大活躍する人材を輩出したい」とのことだ。

マイコン博物館 新拠点「青梅プラザ」

大金庫室を利用したマイコン博物館の特別展示室

青梅プラザ2階、マイコン博物館予定フロア

新拠点に運び込まれた大量の展示物

 新「マイコン博物館」のオープンを期待して、ぜひクラウドファンディングのページをアクセスしてみてはいかがだろうか? クラウドファンディング「青梅にあるマイコン博物館の拡張・移転へのご支援をお願いします」は、以下のリンクより。

 https://readyfor.jp/projects/2023_ComputerMuseum295

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667

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