第230回
ワイヤレスイヤホンがスマホの呪縛から解放される日は来る?
Bluetoothに加え、低電力Wi-Fiにも対応するクアルコムの“S7 Pro” Sound Platform
Wi-FiとBluetoothがシームレスに切り替わるXPAN
XPANについては、クアルコムのOnQブログにもう少し詳しい記述がある。
それによると、接続レイヤーの切り替えで、ニーズや場所、周囲の接続状況に応じて、適切な接続オプションを選択するとある。例えば、Bluetoothの圏外となる別の部屋や別のフロアに移動すると、イヤホンやヘッドホンはスマートフォンとの直接接続からシームレスに切り替わり、代わりにWi-Fi経由で接続されるとある。つまり、BluetoothとWi-Fiをシームレスに切り替えることで、到達範囲とデータレートを拡張できるということのようだ。
クアルコムが先日実施したユーザー調査によると、約7割のユーザーがロスレス音質を購入の決め手としており、高価格帯イヤホン所有者の約8割が次のイヤホンの購入の決め手として「家庭内全てをカバーすること」を挙げている。このXPAN技術はそうしたユーザー要求に応えたものとも言えるだろう。
スペックシートによると、XPANのデータレートは29Mbpsに達し、aptXの拡張により192kHz/24bitのデータをロスレス伝送できるとしている。
このように、S7 ProではイヤホンでWi-Fiが使えるようになる。消費電力の関係でBluetoothの牙城であったワイヤレスイヤホンの接続方式が、低電力Wi-FiとXPANの登場で大きく変わることになるかもしれない。
Wi-FiであればIPを通せる
もう一つの隠されたポイントは、BluetoothとWi-Fiの違いは到達距離や転送速度ではなく、IPをルーティングできるかどうかなるという点だ。
例えばBluetoothのAuracastでは、手元のスマホを経由せず、イヤホンで直接、周囲の音を聞けるようになる。結果、イヤホンの独立性が増す。しかしながら、いまのところBluetooth接続のイヤホンで直接Apple Musicに繋ぎ、ストリーミング再生を楽しむことはできない。BluetoothはIPとは違う仕組みで通信するので、インターネットに接続できないためだ。
IPが通るWi-Fiでイヤホンが通信するようになれば、スマホを介さず直接ストリーミングサービスにつなげる完全ワイヤレスイヤホンが登場するかもしれない。そうなれば、スマホを探さず、イヤホンだけで音楽を楽しむ時代が来るかもしれない。もちろんその場合はUIの問題があらたに発生することになるわけだが。
このようにS7 Proがもたらす変化には極めて大きな可能性がありそうだ。
その一方で別の懸念もある。先日Bluetooth SIGがLE Audioの5GHz帯や8Mbpsへの拡張を発表したが、それを待たずにアップルが5GHz帯を使ったロスレス対応の動きを見せている。また、クアルコムも29MbpsのWi-Fi伝送をイヤホンに実装しようとしている。もしかしたら、Bluetoothという標準に沿って発展してきたワイヤレスイヤホンが、独自技術によって分裂する曲がり角に来ているのかもしれない。
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