今年のPixelはスマホも時計も「Pixelらしさ」満点だ(西田宗千佳)
グーグルが「AI推し」であるのは、今に始まった話ではない。だが、今年はさらにそれが強化されている。それがどんな背景によるものなのか、少し考えてみたい。
TPUでの「差別化されたソフト」こそPixelの証
現在のPixelシリーズの軸は、自社設計の「Tensor G」シリーズをSoCとして採用していることにある。Tensor Gの特徴は、CPUの性能よりも機械学習処理の性能を重視している点にある。
SoCの中に機械学習の推論に向いた演算器を搭載すること自体は、ほとんどのプロセッサーメーカーが採用している共通のトレンドではあるが、Tensor Gは差別化点として他社以上に強調している。
今年の「Pixel 8」では「Tensor G3」が採用された。性能を司るCPUであるArmコアとしては最新の「Armv9」を採用、さらに機械学習コアであるTPUについても刷新し、機械学習モデルの規模は、前機種Pixel 7シリーズの150倍に強化された、という。1世代で150倍規模をアップする、というのはなかなか聞いたことがないくらい大きな差だが、その性能を生かした処理が、カメラ系へと大量に投入されている。
特にわかりやすいのが「音声消しゴムマジック」だ。
ビデオから音声を抽出、声・音楽・周囲の人・自然・ノイズ・風に分類して、それぞれの音量を変えられるものだ。ビデオ編集ソフトや音声編集ソフトに似た機能を持つものもあるが、PCを使った高価なものがほとんどだし、それらにしても、スマホ1つでここまでシンプルに使えるものはない。
動画撮影後、余計な騒音や人の声を消せる「音声消しゴムマジック」
グーグルの場合、最初は最新モデルのPixelだけに提供された機能が、のちに過去のPixel向けにも開放される場合も多い。だから新機能とはいえ、どこまでがTensor G3のTPUだけで処理されているのかは不明だ。
とはいえ、いち早く機能実装できるのはTPUを使う前提であるからだろう……とは予測できる。スマートフォンがハードウェアだけでは差別化しづらくなっている今、ソフトウェアに特化して差別化するためにTPUを活用、というアプローチをしているわけだ。
今後は「生成AI活用」にも広がる
その上で今後、グーグルはさらに、Bardなどの生成AIを使ったサービスをPixelに導入していく。
現在のBardはクラウドで動作しているので、どのスマホでも同じように使える。だが最終的には、LLM(大規模言語モデル)であるPalM 2をスマホ向けにコンパクト化し、オンデバイスでの処理比率を高めていくことになる。プライバシーの面を考えても、即応性の面を考えても、LLMを使った生成AIは、可能な犯人でローカル動作するものになっていくと考えられる。そうした場合、SoCに搭載されるTPUには、より高い性能が求められていく。
「Pixel 7に比べPixel 8は大幅にTPUの性能が向上している……」とグーグルは説明しているわけだが、こうした背景を考えると不思議な話ではない。ただ、生成AIへの活用は今年に入ってから出てきた路線だろう。半導体製造に関わる時間を考えると、Tensor G3のTPUが生成AIブームに乗った要素……と考えるのは難しい。画像認識や音声認識などのために準備してきたものがたまたま生成AIにも使えた、と考える方が妥当だ。
まあ、そもそも生成AIも画像認識AIも、必要とされる処理自体には大きな差がないので、大きな括りで「AIが必要な処理は増大する」と予測して開発していた……ということなのだろうが。しかし、生成AI系の実装にはまだまだ時間がかかるし、日本語を含めた多言語対応も必要になる。だから、「生成AIで便利になることを期待してPixel 8を買う」というより、「Pixel 8を買ったら将来的に、生成AIの活用も幅が広がる」くらいに考えておいた方がいいだろう。
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