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実は次世代Bluetoothのショーケース、手のひらサイズのCear「パヴェ」の新しさは?

2023年10月09日 17時00分更新

シーイヤー(Cear)のパヴェ(Pave)

パヴェ(第2世代)

 シーイヤー(Cear)がその技術と新製品を発表する“Cear Technology Conference 2023”が開催された。ここでは新製品として発表されたシーイヤー「パヴェ」(第2世代)について深く考察してみる。

 シーイヤーは業界では黒子、つまり技術を他社に提供するB2Bのビジネスで重要な役割を果たしてきた。例えば、finalの「ZE8000」の発表会で細尾満代表が技術的な協力を受けたと言及している。いくつかのコンシューマー向け製品も発表しているが、パヴェはCearのブランドで本格的にコンシューマー市場に乗り出す事実上の嚆矢であると言える。現在はクラウドファンディングで先行予約が行われている。

シーイヤー(Cear)のパヴェ(Pave)

Cear Technology Conference 2023の様子

 パヴェは端的に言うと、Bluetooth採用のワイヤレススピーカーだ。内部に2つのスピーカーを搭載し、独自技術と組み合わせて立体的な音響を再現できる。

 これを深掘りしていくと、大きく3つのキー技術から構成されていることが分かる。いずれもこの連載で過去に触れたトピックスに関わる点も注目だ。

 第1のキーは「Cear Field」の搭載による立体音響、第2はLE AudioやSnapdragon Soundによる低遅延特性、そして第3のキーはAuracastを拡張したリンク機能だ。

Cear Fieldはヘッドホンへの応用も可能

 Cear Fieldは仮想音源での立体音響技術で、この連載でも5月にインタビュー記事を掲載している。その中で「製品化を目指した開発を進めていている」と書いたが、これがこのパヴェであろう。

 シーイヤーのメンバーが大学の研究課題として立体音響に取り組んでいたことから生まれた技術で、CES 2023で最新の第5世代技術を発表している。

 パヴェはCear Fieldを内蔵するクアルコム製のSoC「QCC5181」のソフトウェアに仕込んでいる。QCC5100シリーズはプログラマブルなプロセッサとDSPコアを搭載していて、コンピューターのようにソフトウェアを組み込める。例えば、完全ワイヤレスイヤホンのLDAC対応にもこのプログラム機能が使用される場合がある。

シーイヤー(Cear)のパヴェ(Pave)

仮想音源は両手の広さほどに広がる

 Cear Fieldモードでは、一般的なステレオモードだと普通に前からしか聞こえない音が、まるでサラウンドスピーカーに囲まれているように回り込んで聞こえるようになる。実際にはヘッドホンで聴くような位置に仮想音源を計算して再現しているという。単にサラウンドのように聞こえるだけではなく、音が濁らずクリアに聞こえるのも特徴だ。音を立体化する際の副作用を抑える独自のノウハウがあるそうだ。これらによって手で触りたくなるような立体音場効果が得られる。

 パヴェでは一個のキューブ状の筐体の中に二つのスピーカーを内蔵しているが、Cear Fieldは2つ以上のスピーカーユニットがあれば、何にでも応用が可能だという。つまり、ヘッドホンでも使えるということで、先行きが楽しみな技術である。

最新世代Snapdragon採用による広がり

 クアルコムの関係者が出席したことでも分かるように、シーイヤーはクアルコムと深い協力関係を保っている。自社内に無反響室を備え、「Snapdragon Sound」のテクニカルサポートや通話品質を評価する業務も行っている。

 LE AudioとSnapdragonという意味では、先日クアルコムがゲーム向けに発表した「Qualcomm S3 Gen 2 Sound Platform for Gaming Dongles and Adaptors」を思い出す。これはSnapdragon Sound Gen2とLE Audioを組み合わせて、さらに低遅延を得るという提案だ。これは20msの低遅延まで可能ということだったが、パヴェについてはaptX Adaptiveと同程度の50ms程度とされている。

シーイヤー(Cear)のパヴェ(Pave)

低遅延デモの様子、右が従来のSBC、左がLE Audio

 この関係についてクアルコムの担当者に直接聞いてみたのだが、先のクアルコムの発表はPCなどホスト側に専用ドングルを使用した場合の数値であり、レシーバーのデバイス側はSnapdragon Sound Gen 2/Snapdragon S3またはS5プラットフォームであればいいという。パヴェもそのひとつとなるということだ。つまり、クアルコムの専用ドングルとパヴェをLE Audioで接続した場合には20msが達成でき、専用ドングルを使用しない場合は50msとなるようだ。パヴェは「S5 Gen 2 Sound Platform」を採用している。これはワイヤレススピーカーとしては初搭載だ。

 この低遅延特性はパヴェの適用市場を広げるかもしれない。立体的な音響をゲーミングスピーカーに使うとまた面白い展開があるのではないかと思う。

ブロードキャスト技術を活用したスタックも

 最後がLE AudioのAuracast機能をベースにしたリンク機能だ。独自の拡張を加えており、「Cear LINK」機能と呼んでいる。AuracastはLE Audioの機能を独自ブランド化したワイヤレス・ブロードキャスト技術だ。MWCでのデモを紹介したが、Bluetooth SIGは日本のCEATECにおいてもAuracastをデモする予定だ。

シーイヤー(Cear)のパヴェ(Pave)

会場では5台のパヴェをCear LINKで同期して再生した

 Cear Technology Conference 2023では、Cear LINKで5台のパヴェから同じ音楽を再生するデモを披露した。クラウドファンディングの紹介動画においてはCear LINKで複数台を同期し、音を左右に広げたり、音量を上げたりとさまざまな楽しみ方ができるとしている。

 パヴェは石畳という意味も持つフランス語で、音を敷き詰められる製品という意味も込められている。

 Cear LINKの可能性については未知数でもあるが、ワイヤレススピーカーの未来を切り開く技術として期待したい。

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