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充電設備のない駐車場はなくなる? WeChargeが目指すEV社会

2023年09月16日 12時00分更新

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WeChargeの充電設備

 東京都が2025年から新築マンションやビルに対して充電設備の整備義務化を施行するなど、電気自動車(以下BEV)普及に向けたインフラ整備が一気に加速しそうです。その一翼を担うのが「ユビ電」の充電サービス「WeCharge」です。事業戦略説明会で詳しい話を聞いたのでレポートします。

家や駐車場での充電がメインの「WeCharge」

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ポルシェのBEV「タイカン ターボS」

 極端な例になるが、ポルシェのBEV「タイカン ターボ、タイカン ターボS」のバッテリー総容量は93.4kWh。空っぽの状態から3kWhの家庭用充電機でチャージすると、満充電まで31時間以上かかる計算になる(実際は6kWhで充電するだろうが、それでも16時間かかる)。

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充電時間の例

 以上のように、BEVの充電に時間がかかるのはご存じかもしれません。その充電時間はクルマによって様々ですが、1回の充電で長距離走行できる車種になると、条件によっては1昼夜経っても終わらないことがあります。そのため利用シーンに合わせて充電方式をかえるのが一般的です。

 具体的には「基礎充電/目的地充電」と「経路充電」で充電方式を分けます。基礎充電、目的地充電とは、自宅の駐車場に停めている時など、クルマを長時間駐車している状態の時に充電すること。かなりの長時間停車しているわけですから、急速充電をする必要がなく、家庭用の200V交流電源を用いた電力量3~6kWhで行ないます。電池残量によりますが、だいたい一晩たてばフル充電になります。

 一方、経路充電とは、目的地への移動中に充電すること。たとえば高速道路での急速充電などがそれにあたります。この場合、普通充電では時間がかかりますので、50kWh出力の急速充電器で30分間だけ充電し、次の目的地へ向かうといった使い方になります。いわばガソリンスタンド的な使い方といえるでしょう。

 WeChargeは、そのうち「基礎充電」をメインにサービス展開をするブランド。具体的には集合住宅や月極駐車場に個別充電設備を設置し、スマホを用いての供給サービスを行なっています。運営会社の「ユビ電」は、ソフトバンクから社内ベンチャーから始まったスタートアップ企業で現在は独立。ちなみにユビ電のユビは、ユビキタスから来ているのだとか。

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ユビ電 代表取締役社長 山口典男氏

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ユビ電発足の経緯

 ユビ電の山口典男代表取締役社長は、「私はもともとソフトバンクの社員で、この30年間で固定電話から携帯電話へと通信事業が大きく変革した流れを目の当たりにしてきました。同時に10年ほど前、通信と同じ変革を電気事業にも起こせるのではないか? と考え、当時の孫 正義社長に相談したところ、“面白いから、やってみよう!”と言われて、“電気の未来を描くんだ。”をスローガンに掲げ、新しいサービスを開発して、世の中に届けようと立ち上げました」と起業の経緯を語りました。

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ユビ電が目指す電力供給の形

 そして山口社長は「固定電話の時代は電話に出た人に取り次いでもらう必要があったが、携帯電話の時代になると直接つながるようになり、コミュニケーションも詳細になりました。電力も昔は電力会社と契約し、毎月いくらくらい使っているか、合計金額だけで詳細は分からなかった。しかし、ユビ電では電力に対して“いつ、どこで、誰が、何に、どのくらい使った”と、詳細を求められる時代がくるはずだと考えました」と、携帯電話と同じ流れが電力にやってくると予見。

 そのうえで「BEVは家電の中で一番電気を使ううえ、家の外にある。つまりエネルギーの使い方に大きな変化が生まれている。これはもうユビ電の出番だと感じました。どこで作られた電力が、どこのポートで、どのBEVに、どのくらい充電されたのかまでが分かるサービスのWeChargeを生み出し、BEVとエネルギーの新しい関係を作れると考えました」と、WeChargeの概念を語ります。

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充電コンセントに接続する

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スマホでQRコードを読み込むだけ

 では、具体的な利用方法を交えながら、サービス概要をご紹介しましょう。個別の駐車場にWeChargeのQRコードが貼られたAC200Vのコンセントと専用の分電盤を設置します。エンドユーザーは利用する際、車両から充電ケーブルを取り出してコンセントと車両を接続。次にスマートフォンでQRコードを読み取り開始するだけ。

 料金プランはスマホの料金プランのように、走行距離(=充電量)に応じて、毎月一定金額を支払うShort/Middle/Long/Super Longと、月額基本料0円の従量課金のGuestの6種類が用意されています。具体的には、1ヵ月あたり390kmくらい走行する方は月額2200円のMiddle(60kWh相当)を選び、超過料金は1kWhあたり42円の従量課金となります。

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従来のマンション充電の例

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大手デベロッパーへの導入実績を紹介

 この方式のメリットは「使う人が使った分だけ支払う」こと。当たり前のように思えますが、従来マンションなどの月極駐車場でBEV用充電器を設置する場合、急速充電タイプを置くか、または個別の駐車枠にコンセントを設置するのいずれかでした。急速充電を置く場合は、その設置費用は莫大なものになり、一方個別枠への設置は電気代の精算方法をどうするか、という問題がありました。というのも充電器ごとに電力会社と契約をする(電力メーターを設置する)というのは現実的ではないから。すでに大手デベロッパーと提携を結んでいるといいます。

 WeChargeは、この問題を見事に解決するシステム。それゆえ、最近では福岡県福岡市にあるアイランドシティの既築分譲マンション「フォレストプレイス香椎照葉ザ・テラス」の駐車棟全429区画に充電設備の受託に成功。これだけの大規模は国内ではほかに例がないそうです。

電力が足りない? そんなことはない

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ユビ電 COO 白石辰郎氏

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電力がひっ迫するという話はよく聞くが、本当にBEVにしてよいのだろうか?

 BEVが普及すると、電力が足りなくなるのでは? という声を耳にします。2022年3月22日には初めて「電力需給ひっ迫警報」が発令されたほか、西村康稔経済産業相は6月9日の記者会見で「無理のない範囲の節電」を求めていました。ですが、ユビ電のCOOの白石辰郎氏は、そのようなことはない、と語ります。

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BEVが500万台になっても、日本の電力需要の1%程度という

 「現在日本の年間の総需要電力量は8800億kWhあり、そのうち家庭で使用されるのは約30%。現在国内のEV登録数は50~80万台で、仮に2030年までに飛躍的に普及して500万台になったとしても、使用する総EV需要電力量は80億kWhと、全体の約1%にしか満たない」と試算結果を発表しました。

 さらにWeChargeはコンセントに接続しているEVすべてをクラウドで制御できことを特徴の1つとしてあげました。その上で、接続されているEVを蓄電池ととらえ、電力がひっ迫している状況であれば、バッテリーが満充電で動いていないEVから電気を供給できるようにすることも視野に入れているのだそう。この場合、接続しているEVが多ければ多いほど、電気の蓄えも増えて逆供給できる電気量も増え、ひっ迫している電力網に貢献できるというわけです。この場合はおそらくコンセントからの給電ではなく、V2H(Vehicle to Home、EVの電力を家庭用に使えるようにする))対応の機材が必要になると思われます。

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 現状、WeChargeの利用者はまだ数千人レベルですが、2023年末には内定している分も含めてマンションやアパート、ビルを中心に4000ポートまで拡大させる見込みなのだそう。山口社長は「WeChargeは設置されて、ユーザーがEVに乗り換えてからがスタートなんです」とインフラ(充電設備)の重要性を語ります。その根拠として、実際にEVのなかったマンションの駐車場にWeChargeを設置したところ、「EVへの買い替えスピードが4倍くらい早くなった事例もあります」と明らかにしました。

 WeChargeは経路充電にも力を入れていく様子。白石COOは、150kWh級の急速充電器を2027年までに100ヵ所、800口くらいの急速充電器を高速道路のパーキングエリアなどに設置していきたいそうです。

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オリックス自動車 社長室 副室長 斎藤 啓氏

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社用BEVの平均稼働距離と充電時間

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ダッシュボードで運用管理ができると訴求

 また、社用車としてBEVを使うオリックス自動車から、社長室 副室長 斎藤 啓氏が登壇。WeChargeを利用しての感想などを述べました。同社では導入当初、外部に設置されている急速充電施設を利用する運用を行なったところ、遠方利用があると2日に1回充電が必要となり、外出先で急速充電施設を探すのに苦労したほか、並ぶことも多々あり、時間のロスが発生してしまい、施設によっては充電以外に駐車場代が発生するなど、課題があったと言います。

 そこで会社の駐車場にWeChargeを導入したところ、待機や探すといったストレスがなくなり、充電に関する課題はすべて解消。基本的には営業所で毎晩充電すれば足りなくなることはほぼなく、急速充電については外出中の「緊急充電や継ぎ足し充電用」と、運用方法ががらりと変わったのだそうです。

 また、WeChargeはクラウド管理によりダッシュボード機能も用意されていて、誰がどのくらい利用したかなどが細かく確認でき、管理の正確さも増したと実例を紹介。集合住宅だけでなく、事業者向けとしてのWeChargeの優位性を語りました。

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パナソニック ホールディングス モビリティー事業戦略室 DERMS タスクフォース 西川弘記氏

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パナソニックが考えるロードマップ

 次に機器を製造しているパナソニック ホールディングス モビリティー事業戦略室 DERMS タスクフォースの西川弘記氏が登壇。パナソニックが日本での基礎充電器やコンセントで70%のシェアを持っていると紹介。その上で、「ソーラーガレージとか太陽光ビジネスでいろんなことを考えています。ですが、職場やマンションはまだまだ少なく、ここを広げると同時にコントロールできる電源にしていきたいです。また、電力会社の電気料金計算で使われている最大需要電力もなくしたい」と展望を述べました。

 そして「クルマは7~10年で乗り換えても、建物は30年以上は維持する必要がある。これを長期間一緒に実現できるパートナーが必須になります。電気が双方向に流れるようになれば、安全性やそれに見合った蓄電池も必要になってくるし、新しい制度も必要になる。パナソニックもそれに合わせた新しい世界を作っていきたいです」と、WeChargeと共にする理由や展望を語りました。

 魅力溢れるWeCharge。だが設置にお金がかかるのでは? これに関して白石COOは、「現在、集合住宅向けとして補助金が出ている。ケースバイケースなので問い合わせてほしい」とのこと。集合住宅や月極の駐車場において、充電器を設置する絶好の機会といえるのでは?

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 国民全世帯の4割、東京都に至っては7割が集合住宅に居住する日本。当然、駐車場は月極駐車場を利用しています。その中で東京都では2030年以降、ガソリン車の販売を禁止を表明。今後BEVなどを購入せざるをえない状況となります。その時代において「コンセントのない駐車場」は、借り手のいない駐車場になるのでは? 話を聞きながらWeChargeは月極駐車場を利用する自動車ユーザーはもちろん、貸主や管理会社にとって大変魅力のあるサービスに映りました。

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