2023年8月26日(日本時間)、ドイツはケルンで開催されているゲームイベント「gamescom 2023」に連動して発表を行い、WQHDゲーミング向けの新GPU「Radeon RX 7700 XT」および「Radeon RX 7800 XT」の2モデルを正式に発表。発売日は北米時間で2023年9月6日22時(これまでの慣例から、国内発売日はやや遅れるのではと推察される)とアナウンスされた。
お詫びと訂正:掲載後にTwitchのライブストリームで判明したことは、追記致しました。(2023年8月26日03:25)
またAMDはRadeonのみならず全てのゲーマーが熱望していたフレーム生成技術「FSR 3」こと「AMD FidelityFX Super Resolution 3」の進捗も開示し、今秋に試せるようになる予定と発表した。
本稿はgamescomにおける発表に先立ち、プレス向けのブリーフィングなどで先行開示された情報をまとめたものである。ただし本稿執筆時点(解禁24時間前)では価格などは一切開示されていない。その点はご容赦いただきたい。
しかし、リサ・スーCEOは登壇しなかった(追記)。
WQHDゲーミング向けの新Radeon
今回の発表の目玉はRX 7700 XTおよびRX 7800 XTである。RDNA 3世代のGPUは4Kゲーミング向けのRX 7900 XTXとRX 7900 XTが最初に登場し、今年フルHDゲーミング向けのRX 7600出たが、その中間が抜けた状態だった。RX 7700 XTおよびRX 7800 XTはそのギャップを埋めるWQHDゲーミング向けのGPUである。
「GeForce RTX 4070」「同RTX 4070」もWQHDゲーミング向けのGPUだが、RX 7700 XTはこれらのGPUにかなり近いスペックとなっている。一方、RX 7800 XTはメモリーバス幅256bit、VRAM搭載量16GBと、RTX 4080に近い仕様を備えている。
また、Board PowerにおいてはRX 7700 XTはRTX 4070よりも高い(245W対200W)ものの、RX 7800 XTはRTX 4070 TiやRTX 4080よりも低い(263W対285W/320W)設定となっている。
ただゲーム中のワットパフォーマンスにおいてRTX 40シリーズは、額面よりもずっと実消費電力が低いことがこれまでの検証で判明しているため、消費電力に関してはスペックだけで判断するのは避けたいところだ。
RX 7700 XTおよびRX 7800 XTの設計についてはRX 7600のようなモノリシックではなく、RX 7900 XTなどと同様のチップレット構造が採用された。すなわち、描画処理のコア部分のみを集約したGCD(Graphics Compute Die)を1基、さらに64bit幅のメモリーコントローラーと第2世代Infinity Cacheを小分けにしたMCD(Memory Cache Die)を複数基載せるという構造である。
メモリーバス幅の関係から、RX 7700 XTのMCDは3個でInfinity Cacheは48MBである一方で、RX 7800 XTではMCD4個でInfinity Cacheは64MBという構成になっている。
肝心の性能に関してもいくつか発表があった。まずRX 7700 XTおよびRX 7800 XTは、RTX 2070 SuperやRX 5700 XTといったGPUを置換することを目的としている。RTX 2070 SuperやRX 5700 XTで最新ゲームをWQHD&最高画質で楽しもうとすると60fpsを大きく割り込んでしまうが、RX 7700 XTおよびRX 7800 XTであれば60fpsを余裕で上回ることができる。
また、RTX 4060 Ti (16GB)やRTX 4070といった現行GPUに対しても、RX 7700 XTおよびRX 7800 XTは性能的アドバンテージが十分あると謳っている。ただご存じの通り、RTX 4060 Ti (16GB)はフルHDゲーミング向けのGPUであるし、RTX 4070はWQHDゲーミング向けでも下のモデルである。つまりRTX 4070 Tiには負けることを暗に仄めかしている気がしないでもない。
ただこの情報から、RX 7700 XTおよびRX 7800 XTはRTX 4060 Ti (8GB)よりやや上、RTX 4070あたりの価格帯で投入されるのではないだろうか、と筆者は推測している。
FSR 3は生きていた! 対応予定ゲームも発表
また、AMDは我々が待ちに待ったFSR 3に関する進捗を発表した。FSR 3についてAMDはこれまで「Fluid Motion Frames Technology」を使った技術であるとしか説明してこなかったが、今回プレス向けのブリーフィングで(筆者の記憶する限りでは)初めて「Generate Frame」という表現を使用したことで、NVIDIAのDLSS FG(Frame Generation)に近い技術であることが明らかにされた。
ただFSR 3はFSR 1や2と同様に「オープンソース」の技術であり、特定のハードウェアを必要としない。AMDは残念なことにプレスブリーフィングでも具体的GPUを述べるようなことはしなかったが、逆に“このGPUでは動かない”という言い方もしなかった。皆が一番知りたい情報をちゃんと開示しないのが困ったところだ……。
FSR 3の対応GPUに関して、AMDは同社のブログで詳細を発表した。それによればFSR 3にはFrame Generationありとなしの区分があり、対応GPUと推奨されるGPUがそれぞれ違う。
対応GPU:RX 5700以上、もしくはRTX 20シリーズ以降
推奨GPU:RX 6000シリーズ以降もしくはRTX 30シリーズ以降
対応GPU:RX 590以上、もしくはGTX 10シリーズ以降
推奨GPU:RX 5000シリーズ以降、NVIDIAはRX 20シリーズ以降
つまり、FSR 3はGPUを選ばないという説明は間違ってはいないが、Frame GenerationというFSR 3の核心的な機能を使う場合においては、RX 5700 XTやRTX 20シリーズといったDirectX 12 Ultimate対応のGPUが必要になる。
それ以外のGPUでFrame Generationがどう動くかはGPUの設計によって変わってしまうため、GPUによってはパフォーマンス向上がほとんどみられない可能性があることが判明した。
FSR 3はFSR 1や2の対応とはべつに、ゲーム側の個別対応が必要となる。今回FSR 3に最初に対応するタイトルは「FORSPOKEN」と「Immortals of Aveum」の2本になることが発表され、リリースは今秋が予定されている。
特にFORSPOKENについては動作デモも行われ、4K解像度ではFSR 3非使用時の3倍以上のフレームレートを出せるとした。DLSS FGが約2倍であったことを考えると、FSR 3の伸びしろはかなり高いものと期待できそうだ。
ただFSR 3についてはまだ多くの不明点が残されている。内容的には出力解像度より低い解像度でレンダリングしたものをFSR 2でアップスケールし、同時にFluid Motion Technologyを利用してフレームを生成すると思われるのだが、DLSS FGのように生成されたフレームは若干崩れる可能性があるのかといった内容は一切明らかにされていない。
ただ注目すべきはFSR 3の処理においてシステムレイテンシー(マウス入力が画面出力に反映されるまでのタイムラグ。入力遅延)を短縮する効果もあると謳っている。これはまさにNVIDIAがDLSS FGにReflexを組み込んだことと全く同じである。
いずれにせよFSR 3の技術的詳細は、後日GPUOpen(https://gpuopen.com)に公開されると思うので、そちらを楽しみにしたい。
その他注目すべきこと
今回の発表の目玉は新RadeonとFSR 3の進捗報告だが、その他にもAMDはいくつかの情報アップデートを行った。その中で注目に値することを簡単に紹介しよう。
●「HYPR-RX」ようやく実装
昨年AMDがRDNA 3を発表した際、「HYPR-RX」という機能をドライバー(AMD Software: Adrenalin Edition)に追加すると言っていたことを覚えているだろうか? システムレイテンシーを減らす「Radeon Anti-Lag」やフレームレートを向上させる「Radeon Boost」「Radeon Super Resolution(RSR)」「FSR 1/FSR 2」といった機能はこれまで個別にオン・オフする必要があったが、HYPR-RXを使うだけでまとめて有効化できるというもの。
ゲームが対応していない機能はオフのままだし、個別の機能はゲーマーにとってメリットのある機能であるため、使ってみて損のない機能だ。まだ試せていないが、恐らく次の新ドライバーからHYPR-RXが実装されるだろう。
●「AMD Noise Suppression」がCPU側でも動く
背景音はゲーム配信を行う際の大敵だが、Radeonに搭載されている「AMD Noise Suppression」を使えば簡単に除去できる。ただこの処理はGPU上で動作するため、わずかにゲームのフレームレート下げてしまうデメリットもある。
そこでAMDはNoise SuppressionをCPU側で実行できるようなオプションを追加する。ただこれがどのCPUでも使えるのか、Ryzen 7000シリーズのiGPUを使うからなのかまでは不明だ(問い合わせ中)。
●ROCm(Linux)のサポートにRDNA 3世代のGPUが追加
GeForceにCUDAがあるように、RadeonにはROCmを利用することで効率良くAIやGPGPUなどを利用したソフトウェアを開発することが可能になる。Windows向けのROCmでは既に現行GPUが対応リストに入っているが、LinuxのROCmではRDNA 3世代のGPU対応は遅れていた。
だが今秋を目処にLinux上のROCmでもRX 7900 XTXおよび「Radeon PRO W7800」がROCmの対応GPUとして追加される。2モデルに絞った理由は大容量のVRAM(24GBおよび48GB)を搭載しており、学習分野でのパフォーマンスが期待できるから、とAMDは説明している。Linux環境でROCmを使っているユーザーにとっては朗報といえる。
レビューは後日解禁予定
以上でAMDの発表に関するまとめは終了だ。冒頭で述べた通り事前ブリーフィングの内容を元に構成されているため、もしかしたらここに書かれていない内容がリサ・スーCEOの口から飛び出すかもしれないし、逆に出てこない話題もあるかもしれない。その場合はご容赦いただきたい。
そして、気になるRX 7700 XTおよびRX 7800 XTのパフォーマンスレビューはまだ解禁されていない。通例であれば発売と同時の解禁になるはずだ。
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