シャープは8月7日、東京国際フォーラムおよびオンラインで「SHARP Tech-Forum」を開催した。同社は11月11日に、創業111周年にあわせた記念イベント「SHARP Tech-Day」を開催する予定であり、その先行イベントとして実施。「半導体の未来とシャープの可能性」をテーマに、注目を集める半導体分野の動向に関する講演が行われた。
シャープ常務 研究開発本部長の種谷元隆氏は、「大きな潮流となっているAIの進化を支える半導体は、これからの生活やビジネスに欠かせないものになる。そして、次世代通信やセンシング、ロボティクスにも半導体技術が活用される。今回は、産官学の著名な専門家の講演を通じて、半導体産業の近未来を展望したい」と、イベントの狙いを位置づけた。
ひとつのチップを複数に分けて動作させるチップレット
「集積回路から集積チップレットへ」と題して講演したのは、シャープの親会社でもある鴻海グループの最高半導体戦略責任者の蔣尚義氏だ。
「私が50年間に渡って関わってきた半導体業界は、いまが最も大きな変化のなかにある。ムーアの法則は終焉に近づいていることは、半導体業界が迎える初めての大事件であり、物理的な面からも進化の限界が訪れている。また、アプリケーションの多様化の流れもある。それに対応するのが高度なパッケージテクノロジーであり、チップレットである。ひとつのチップを複数にわけて、動作させるこの技術は、偶然によって生まれた概念だ」とする。
「チップレットは、レゴブロックのようなアプローチであり、様々な要件にあわせて機能やコントローラを搭載し、IoTのような多様な用途にも対応できる。しかも、システムレベルでの統合ができ、先端パッケージのプロセスは1ヵ月で済み、コスト削減ができ、時間をかけずに市場投入ができる。集積チップレットのアプローチはこれからのトレンドであり、特定の領域は置き換えことになるだろう」と述べた。
また、「集積チップレットでは、GPUとDRAMを近くに置くことができるため、遅延を40%改善でき、消費電力を60%削減でき、システムの性能を強化することができる。AIやGPUではこうした効果が生まれることになる」と述べたほか、「モジュール型のアプローチにより柔軟性が高まる。パーツごとに、最新テクノロジーや最もコスト性能に優れたものなどを組み合わせることもできる」とした。その上で、「これまでの半導体業界がそうだったように、チップレットテクノロジーにおいても、新たなエコシステムを形成する必要がある。むしろ、エコシステムを構築したものがチップレット市場において勝者になる。今後は、さらに大きなイノベーションが起きるだろう。チップレットはそれに向けて、重要な『つなぎ』の技術になる」と語った。
日本のパッケージ技術は多くの優位性を持つ
また、大阪大学 名誉教授の菅沼克昭氏は、「協働で拓く次世代半導体実装技術」をテーマに講演した。
菅沼名誉教授は、「世界中の企業が、日本のパッケージ技術を求めている。チップレットは、台湾TSMCが切り拓いたものだが、要素技術は日本の企業が関与している」と前置きし、「AIや自動運転で、半導体の活用が進められているが、ここでは、日本が得意とする信頼性の高さが求められている。また、チップレット製造を低コストで行うためにも日本の技術が求められており、インターポーザーを不要にしたり、ハイブリッド接合で生産性を高めたり、マイクロビアの信頼性を確保するといったことが可能になる。米国が中心となったチップレット規格の集積化が進んでいるが、ここにも日本の知恵を生かしたい」とした。
一方で「3Dパッケージは、いかに熱を克服するかが鍵になる。材料と構造設計などが重要である。自動運転や自律型AIといった社会インフラで使用する半導体を実現するには、高性能と同時に、信頼性をハードウェアで保証する必要がある。日本の製品や技術の価値はここにある。高性能とともに、信頼性を提案できるかが課題になる」とした。さらに、「日本の製品の価値を支えるのが人材である。台湾では国をあげて、半導体分野の人材育成に力を入れているが、日本でもこの仕組みを学んでいくべきだ」と提言した。
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