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宇宙望遠鏡を救え! スペースXとアストロスケールチームが競う延命ミッション

ハッブル宇宙望遠鏡を救うのは日本発の"掃除屋"かもしれない

2023年07月13日 07時30分更新

文● 秋山文野 編集●ASCII

ハッブル宇宙望遠鏡

2009年に最後の軌道上修理が行われたハッブル宇宙望遠鏡(HST)

 史上最大の宇宙望遠鏡ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が働く今でも、1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡(HST)は、軌道上での5回の修理と機能アップグレードを経て宇宙の進化を解き明かす観測を続けている。とはいえ、打ち上げから30年を越えて働き続けているハッブル宇宙望遠鏡にも、いよいよ寿命が迫り始めた。高度が徐々に下がり始めているのだ。このままなら、2030年代の半ばには地球の大気圏に再突入すると見られている。

 打ち上げ時には約600kmだったハッブル宇宙望遠鏡の高度は、2022年末の時点で高度約540kmに位置しており、2025年には500kmまで下がると予想されている。地球周辺の高度500km付近まで非常に薄いものの大気があり、これが衛星にとってわずかながら抵抗となって速度を低下させる。衛星の周回速度は少しずつだが遅くなり、やがては重力で地球の大気圏に再突入して、燃え尽きることになる。皆が良く知っている国際宇宙ステーション(ISS)は高度400km付近にいるが、大気抵抗による高度の低下を防ぐために、1年に何回もエンジンを噴射して高度を調整し、かなりの努力で高度を維持しているのだ。

ハッブル宇宙望遠鏡のリブースト計画とは?

 ハッブル宇宙望遠鏡はもともと大気抵抗の影響をあまり受けない高度にいたため、国際宇宙ステーションのようにエンジンを噴射して軌道を維持する機能を持っていない。30年以上働いたために、さすがに高度の低下が無視できなくなってきた一方で、アップグレードを重ねたハッブル宇宙望遠鏡の機能はまだ現役だ。もともとは、打ち上げが遅れたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測を始めるまでの延命策でもあったが、2009年の最後の軌道上修理で更新され、新たな観測機器が追加されたほか、バッテリーも交換されている。軌道を維持できれば、さらに数年は活躍することができる。

ハッブル宇宙望遠鏡

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の最初の軌道上修理の様子

 そこで2022年9月、NASAはイーロン・マスク率いるスペースXに、ハッブル宇宙望遠鏡をより高い軌道に移動させる技術の"提案"を依頼した。スペースXは、2020年から民間企業として初めて宇宙飛行士をISSに輸送する宇宙船「クルードラゴン」を運用しており、日本人宇宙飛行士も何度も搭乗している。クルードラゴンはISSより高い軌道へ飛行することも可能で、2021年には民間人だけの初の軌道飛行「Inspiration 4」ミッションで、高度575kmを達成した。

 ちなみに、これまで5回実施されたと書いたハッブル宇宙望遠鏡のアップデートは、スペースシャトルに搭乗した宇宙飛行士による人力のサービスミッション。スペースシャトルの後をついで活躍するクルードラゴンを持つスペースXが、ハッブル宇宙望遠鏡のリブースト(エンジンを噴射してより高い軌道に乗せること)を担当する役割を期待されるのは、十分に考えられることだ。

 ただし、NASAの依頼はあくまでリブーストの技術的"提案"の提出であって、他の企業が提案をしても問題はない。2022年末に公開されたNASAの依頼に対して、もう1チーム名乗りを上げたのが、日本発の「宇宙の掃除人」を名乗るアストロスケールの米国支社と、パートナーのモメンタスだ。

用語解説 ハッブル宇宙望遠鏡(HST)

 NASAとESAが協力して開発・運用する口径2.4mの宇宙望遠鏡で、スペースシャトル・ディスカバリー号によって1990年に打ち上げられた宇宙観測用望遠鏡。長さ13.1メートル、重さ11トンの筒型。地球の大気や天候による影響を受けず、高い精度での観測が可能。銀河系を取巻く暗黒物質(ダークマター)の存在を明らかにするなど数々の功績を挙げ、科学成果は枚挙に暇がない。現在も安定した運用を続けている。

用語解説 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)

 2022年夏から稼働を開始し、地球から約160万km離れた宇宙空間に浮かんでいる宇宙望遠鏡。その感度はハッブル宇宙望遠鏡の100倍で、46億年前の宇宙で最初期の銀河や密集した5つの銀河、灼熱の星も捉えるなど、惑星、銀河、星雲、星形成領域などを赤外線で観測している。JWSTの活躍は、まだほんの始まりにすぎないといわれている。

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