便利と危険は背中合わせ
電動キックボードの規制緩和
電動キックボードとは、本来地面を蹴って進むキックボードに、モーターとバッテリーを搭載した個人用モビリティー。2017年くらいから徐々に世界中で普及が進み、シェアサービスなどが盛んである。自転車に乗るほどでもないが、歩くのは面倒という微妙な距離の移動に最適なのだ。特に筆者が取材で訪れるサーキットなんかでは非常に心強い移動手段でもある。その辺のコンビニに行きたいときにも便利(普段運動不足なんだからそれくらい歩けと言われそうだが)。
そんな電動キックボードが再び注目されている。7月1日から道路交通法が改正され、電動キックボードを含む電動モビリティーたちのルールが変更になったからだ。どんなルールになったのかは別記事にて紹介しているので、ここでは特徴的な変更点のみを紹介し、自動車乗りの視点から電動キックボードについて考えてみたい。
まず前提として、電動キックボードはマイクロモビリティーとしては非常に優れた乗り物だ。自転車よりも小さなボディー、折りたためる収納性、モーターによる力強い走り、あとちょっとの距離を補完してくれる利便性。自動車のように排気ガスも出さない。電気もそれほど使わない。今後の日本に必要不可欠……は言い過ぎかもしれないが、移動というものを変えてくれる存在なのは間違いない。それがなぜネガティブなイメージで見られるようになってしまったのか……。
法改正で車両区分が変わった
16歳以上は免許なしでOKに
改正前の法律では電動キックボードは車両区分が原動機付自転車と小型特殊自動車だったが、今回の改正で「特定小型原動機付自転車」という区分が新設された。特定小型原動機付自転車は車両走行時の最高速度が20km/hまで、16歳以上なら免許不要、ヘルメットは努力義務、自賠責加入とナンバープレートは必須となっている。また、自転車走行可能な標識があれば歩道も走れるが最高速度は6km/hにとどまる。
なお、特定小型原動機付自転車以外の原動機付自転車は「一般原動機付自転車」という名称に変わったが、従来通り原付免許が必要だが、今回のテーマとはちょっと違うので割愛する。
特定小型原動機付自転車は原動機付自転車や小型特殊自動車と違い、16歳以上なら免許ナシでも乗れるのが特徴。ただし、16歳未満は乗車禁止で、レンタルやシェアサービスなどでも乗ることはできない。特に若者への間口が広がったのはその通りなのだが、免許がないということは交通ルールを知らないということ。
これは後述する自転車も同様なのだが、標識の意味もわからず、車道を20km/hで走るのである。筆者は自動車を運転するので、この点は非常に心配している。ただでさえ自転車がこわいのに、さらに気を遣う対象が増えるのかと。車道を走っているのは基本的に免許を持っている人たちなので、みんなルールの中でマナーも守って走っている。それでも事故は起きてしまうのが現状だ。
特定小型原動機付自転車に乗って交通違反をすれば処分対象になるらしいが、果たして免許を持っていない人が何が違反かわかるだろうか。二段階右折とか一方通行(入れるところもあるが)とか、たとえば16歳の若者には難しくはないだろうか。免許持っている人ですらうっかり違反することもあるのに。
また、さっそく電動キックボードの飲酒運転が話題になったが、そもそもクルマじゃなければ飲酒運転をしていいわけでない。電動キックボードみたいな小さい乗り物でも飲酒をすれば判断力が低下し重大な事故に繋がる可能性があるわけだし、自転車だって飲酒運転は違法だ(酒酔い運転は処罰の対象)。酒を飲んだらあらゆる乗り物を運転してはいけないというのは社会全体で教える必要がある。
せめて原付免許くらい簡単に取得できるものでいいので、交通ルールや心構えなどを教えるためにも免許は必要だと思う。
またヘルメットは努力義務ではなく、義務にすべきだった(自転車も努力義務)。たしかにヘルメットを持って移動するのは面倒だが、電動キックボードは自転車やバイクと同じく、カラダを剥き出しで乗るため転んだら必ずケガをする。タイヤも小さく、ブレーキも弱い。サスペンションがないモデルも多い。ちょっとした段差で転びやすいし、バランス感覚が悪い人なら立ちコケもある。最高速度が20km/hとはいえ、走ってて転んだらかなりのケガになるだろう。なのに、ヘルメットが「着けなくてもいいけど着けたほうがいいよ」という努力義務なのだ。頭は打ち所が悪いと大変なことになってしまう。髪型が崩れるとか見た目がダサイとか、着けたくない理由はたくさんあるかもしれないが、これから乗る人はヘルメットを着用してほしい。
そして、なんといっても接触事故の危険性だ。自分一人が転んでケガをするくらいならいいのだが、ほかのクルマに突っ込んだり、歩道で歩行者を引っかけたりすると目もあてられない。自賠責保険加入必須とはいえ、巻き込まれた側はたまったものではないだろう。車道ではトラックなどの大型車両から見づらく、左折時の巻き込みも予想できるし、タイヤもブレーキも小さいので制動距離が長く、電動キックボードの飛び出しもこわいし、電動キックボードを運転中に子どもや動物などが飛び出してきたら対応できないだろう。歩道では小さい子どもやお年寄りは特に危ない。
電動キックボードで違反をすると
懲役と罰金が待っている
自動車やバイクなどで違反をすると、免許の点数が足されていき、一定の基準に達すると免許停止や取り消しが待っている。しかも反則金や罰金も納めなければならない。しかし、電動キックボードは免許がないのですべて懲役か罰金となる。主な違反とその罰則を警視庁のサイトで調べてみた。
・16歳未満の者の運転の禁止→6ヵ月以下の懲役、または10万円以下の罰金
・飲酒運転の禁止→5年以下の懲役、または100万円以下の罰金
・2人乗りの禁止→5万円以下の罰金等
・二段階右折違反→5万円以下の罰金
・車体の点検・整備→3ヵ月以下の懲役、または5万円以下の罰金等
・信号機の信号に従う義務→3ヵ月以下の懲役、または5万円以下の罰金等
・通行の禁止→3ヵ月以下の懲役、または5万円以下の罰金等
ほかにもまだあるが、代表的なものをチョイスした。さすがに飲酒はかなり厳しく設定されている。車体の点検・整備とはいわゆる整備不良車のこと。ブレーキがきかないだとかウィンカーが作動しないだとか、クルマと同じく定期的な整備が必要だ。通行の禁止は標識に従っているかどうか。進入禁止や通行禁止のところに入っていくと罰金というわけだ。このように、免許の点数はないのもの、クルマと同じように懲役や罰金が発生するのが電動キックボードなのである(自転車も同様だが)。場合によっては講習を受けさせられるようだ。
個人的に今回の件でよくないと思ったのは、法改正が異例の早さだったということ。ニュースを見ていると、有識者の意見すら置いてきぼりで改正に向けてまっしぐらという感じだった。陰謀論は好きではないが、なにか裏があるのかと勘ぐってしまうほどだ。そんなに急いで決める理由がどこにあったのか……。
【まとめ】ルールを守ってヘルメットも
みんなが幸せになれる交通社会に
賛成派の、これから戻ってくるインバウンドのため、地域活性化のため、地方の公共機関までのラストワンマイルのためという意見もわかる。新しい何かを始めるには、反対意見ばかりではいけない。新しいことを始めるからこそ、日本が前に進んでいけるのだ。電動キックボードは合理的な乗り物だし、活用法はたくさんあるだろう。散々書いてきたが、筆者はどちらかというと賛成派だ。乗り物が好きなのでいろいろ乗って楽しみたいのである。
それに、前述したとおり問題点はわかっているのだから、みんなで気をつければ事故は減るだろう。左折するときは慎重に、歩道で電動キックボードを見たら距離を取るなどの対処ができるはずだ。自転車に対してもそうしているだろう。
ただ、自動車乗りとして反対派の「危ない」という意見もわかる。みんな、電動キックボードが憎くて反対しているわけではない。新しい取り組みだからこそ慎重に、というのはごく当たり前のことだ。人命にもかかわってくることだけに、もう少し丁寧に話し合いをすべきだった。
また、今回電動キックボードがやり玉に挙げられているが、自転車も結構危ないのも事実。免許がいらないし、逆走や歩道走行は当たり前、電動キックボードより大きなボディーに、スポーツモデルならスピードも速い。努力義務のヘルメットをつけている人はロードバイク勢以外ほぼいない。なんならイヤホンを着けてスマホを見ながら走っている人もいる。
電動キックボードと危険性はどっちが上かと言われると、どっちもどっちと言わざるを得ない。自転車は16歳未満も乗れるし、保険に入っていない人も多いし。
その昔、自転車が新しい乗り物として出てきたときも、こんな感じで社会を巻き込んで議論になっていたのだろう。
この機会に、社会全体で乗り物に対する向き合い方を見直すのもいいかもしれない。電動キックボードも自転車も便利な乗り物。それは間違いない。自動車もバイクも自転車も電動キックボードも、そして歩行者もすべてが尊重し合って共存できる、そんな交通社会が理想だ。筆者も電動キックボードに乗る前に、まずは自分の自動車の運転から見直してみたい。
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