パナソニックは6月21日、テクニクス(Technics)ブランドのアンプ一体型ネットワークオーディオプレーヤー「SU-GX70」のメディア向け説明会を開催した。同社の機器と連携したデモも実施されたので、そのインプレッションとともに解説する。
なお、本製品は今週末から店頭に並び始め、本日6月24日と25日に開催中の「OTOTEN 2023」でもテクニクスブースで展示されている。
旧来のHi-Fiと新しいメディアがクロスオーバーする製品
テクニクスは昨年50周年記念モデルが登場した「SL-1200」シリーズを始めとして、国内オーディオ史に残る数多くの製品を投入してきたブランドだ。2014年にはブランドが再始動し、現在はリファレンスクラスのR1シリーズを筆頭に、グランドクラス、プレミアムクラス、DJクラス、そしてヘッドホン・イヤホンなどかなり豊富なラインアップを備えるようになっている。
このうちグランドクラスは、いわば正統的な高級Hi-Fiオーディオコンポのシリーズで、型番の一部にGが付いている。フルデジタルアンプの「JUNO Engine」や、テストトーンを測定し、スピーカーの設置場所に合わせて最適な音質に調整する「Space Tune」など、独自技術も多く投入している。デジタル技術を積極的に投入し、補正処理など新しい発想も取り入れ、正確で質の高い音楽再生を目指しているブランドのコンセプトを体現したシリーズだ。
SU-GX70は、フルデジタルアンプにデジタルアナログの豊富な入力端子を備えた一体型のネットワークプレーヤー。テクニクスとしては初のHDMI ARC入力を搭載した点も特徴となっている。型番の「GX」は、高音質なステレオ再生が楽しめるGシリーズであると同時に、テレビを始めとした映像機器との接続、そして音楽ストリーミングサービスなどとのクロスオーバー(X)を目指す製品であることを示している。
多機能を薄型の筐体に凝縮
オーディオソースの主役はかつては、レコードやCDといったディスクメディアだったが、最近ではダウンロードしたファイルやインターネット上で提供されるストリーミングサービスなどに移っている。同時にネットワーク機能を装備したテレビは放送を見るだけでなく、YouTube、Netflix、Amazon、Appleなどが提供する、さまざまな映像/音楽ストリーミングを楽しむハブ的な役割を持つようになってきている。放送自体の高音質化も進んでおり、「テレビを経由した音を高音質に楽しみたい」「所有している高音質なスピーカーでその音が聴けたらさらにいいのに」というニーズはどんどん高くなっていると言えるだろう。
SU-GX70はこうした状況を踏まえつつ、LANやWi-Fiを経由したストリーミング再生やネットワーク再生、USBメモリー再生、USB DACとして機能するPCオーディオ再生、さまざまな機器に対応できる同軸/光デジタル経由での再生、アナログレコード再生(MMカートリッジ対応のPHONOイコライザーを内蔵)など、オーディオ機器に求めらえる機能をほぼ網羅。さらに、独自の高音質化技術を取り入れた“HDMI ARC”再生も装備する。
一方で、本体は高さ98mmと薄型。ワンボディーの本体はテレビ台やローシェルフなどにも手軽に設置できる。多機能と高音質、そしてさりげないスタイリングなど、魅力あふれる要素を多く取り入れた製品に仕上がっているわけだ。
HDMI ARCの高音質化とテクニクス独自技術の融合
さて、最大の特徴であるHDMI ARCの高音質化技術については、HDMI規格のライセンサーでもあり、BDレコーダーやプレーヤーの開発も手掛けるパナソニックの知見が多く生かされたものだ。ARCは「Audio Return Channel」の略で、ひとつの端子で、HDMI機器からの映像/音声の信号を入力、HDMI機器に対する音声信号の出力の両方ができる機能となる。
ここでポイントとなるのは、映像と音声を両方扱うことによるデメリットだ。HDMI規格では映像と音声を一緒に扱うため、テレビからHDMI機器に音声信号を受け取ろうと思った際にも、HDMI機器からテレビに対して映像信号(ダミー信号)の伝送も必要になる。このダミー信号は音に悪影響をおよぼす。そこで、SU-GX70では、信号に送信に使うHDMI LSI内のノイズを低減できるよう、映像信号のレートを低解像度な480pまで下げ、かつ黒(YCbCrの各値がゼロ)に近い映像にしている。例えば、白と黒に激しく切り替わるような映像はノイズの発生につながりやすく、黒にすることでその弊害を最小化している。
テレビを経由して入力する音声信号についても、HDMIインターフェースをバイパスして、DIR(Digital audio Interface Reciever、デジタル信号を受けるためのセレクター回路)に直接入力する仕組みとなっている。
また、「Pure Amplification Mode」として、ネットワーク再生回路、HDMI回路の電源を個別に(いずれかもしくは両方)落とすことも可能だ。飛び込みノイズの抑制や各回路に共有する電源に余裕を持たせられるといったメリットがある。ノイズそのものは微小でも、音声回路やデジタルアンプへの入力経路では小信号を扱うので、これを重畳した状態で増幅すると再生音に悪影響が出てしまう。使わない機能をオフにすることで、より高音質にできるということだ。
アンプについては、上位機と同様、フルデジタルの「JENO Engine」を採用。高精度なクロックとクロック再生成回路を搭載し、デジタル伝送過程で発生するジッターを徹底的に低減し、高精度な再生ができるのが特徴だ。また、LAPC(Load Adaptive Phase Calibration)も搭載。スピーカーには4Ω、8Ωといったインピーダンスの表記があるが、この値(負荷)は常に一定ではなく、周波数によって変動する。その結果、振幅や位相にもブレが出てしまう。そこで、周波数ごとに変わる負荷に合わせてアンプの特性を補正してより正確な再生音を得ようというのがこの技術の骨子だ。変動の仕方はスピーカーごとに異なるため、信号音を出しながら測定して適切な値(位相回転のないアンプの理想的なインパルス応答)を得る。
このように、上位機や他の製品開発で培ったさまざまな技術を取り入れて、高音質化に取り組んでいるのが、SU-GX70なのだ。
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