これが「戦力外通告」なんだと思った
大谷:今回、改めて取材したいと感じたのは、講演の端々で感じた鋭い企業や社会への批判をきちんと聞きたかったからです。お人柄や話し方もあるのでソフトに聞こえましたが、私はすごく「企業も、社会も、年寄り扱いしやがって!」という不満や叫びみたいな部分を嗅ぎ取ったのです。
根崎:私の世代の女性はせっかく就職しても、「寿退社」で結婚や出産時に仕事を辞めるのが普通でした。私も周りからは「子育てしながら仕事を続けるなんて!」とよく言われましたし、保育園もそもそもほとんどなかったので、探すのも本当に大変。会社には「今日は子どもが熱出たので帰ります」だったし、保育園には「仕事が伸びたので、お迎えが遅くなります」だったし、あっちにもこっちにもひたすら頭を下げていました。
しかも、3人の子どもは歳も離れているので、子育てが終わった頃には、今度は親の介護です。そして、介護が一段落し、頭を下げないでやっと自分の仕事が思い切りできると思ったら、もう定年だったんですよ(笑)。
大谷:kintone hiveでのお話はそこからですよね。
根崎:はい。今から5年前の4月に還暦を迎えて、出向を解かれて自分の会社に戻るのですが、講演でも話していた王子がちょうど産まれたんです。王子って、実は孫のことなんですが……。
大谷:安心してください。みんな知ってますよ(笑)。
根崎:ですよね(笑)。とにかく、当時は王子が産まれたのにはしゃいでいて、自分の定年のことを考えてなかったんです。再雇用の契約書もろくすっぽ読んでなかったし、定年後のビジョンを家族で話し合うようなこともありませんでした。
でも、少し経ったら、定年後に働く人への扱いの違いを痛感することになったんです。「これはなにかの間違いでは?」と思うくらい給料は下がっているし、残業という概念がないので定時で帰らなければなりません。
で、担当の人に「なんの仕事をすればいいですか?」と聞いたら、「うーん。これから、ちょっと探しますから」と言われたんです。これが「戦力外通告」かと思いました。お恥ずかしながら、潮時を読み間違えたことに初めて気がつきました。もっと早く、自分の仕事の終わり方を考えておけばよかったんです。
kintoneを触ったときはWindowsと同じ感動だった
大谷:講演によると、kintoneとの出会いもちょうどその頃ですよね。
根崎:はい。社内でアプリを作っていた方がいたんですけど、その方が辞めるということで、「根崎さん、やってよ」と言われたんです。でも正直、おっくうでした。新しいものを今さら勉強して、覚えるなんて考えてもみなかったんです。だから、イヤイヤ始めたんです。
実は、同じようなことが30年くらい前にあって……って、話が長くなるんですけど。
大谷:どんどん長くしていきましょう(笑)。そもそも30年前はどんな仕事をしていたのですか?
根崎:当時はプログラマーでした。大型コンピューターのプログラマーなので、鉛筆でコードを書いて、パンチャーに打ってもらうやつ。COBOL自体というより、COBOLの言語開発ですね。
一番下の息子がお腹にいるときに、やっぱり同じように仕事がなくなったときがありました。会社が傾いて、産休明けどうしようかと思ったのですが、今さらこのお腹で就活もできないし。どうしようかなと思ったときに、会社で見つけたのが月刊ASCIIでした。「Windows、日本上陸」って書いてあったんです。
大谷:ということは、Windowsって95じゃなくて、3.0ですね。さすがに私も大学生の頃ですね。
根崎:はい。お腹が大きくて、時間だけはあったので、雑誌を読んで、秋葉原に行って、初めてWindowsを見たときにすごく感動したんです。だから、臨月間近だったんですけど、笹塚にあったマイクロソフトに資格をとりに行きました。
大谷:周りの人はびっくりですよね。子どもが産まれそうなお母さんが資格とりに来たわけで。
根崎:当時は子どもが産まれたら、これでなんとか仕事しようと思いました。ただ、その後はオープン化の流れに乗ってSEやったり、事務職やサポートもやったのですが、定年までの数十年はプログラマーとしての仕事はやってきませんでした。だから、kintoneに触ったときは、昔プログラマーやっていたときの感動がよみがえってきたんです。「これからはこれだ!」みたいな。
大谷:プログラマーとしては、どこらへんに感動したんですか?
根崎:もともと大型コンピューターのプログラマーだったし、アセンブラの黒い画面ばかりだったので、30年前はWindowsのGUIに画が出ていて、それをマウスで操作できるのに驚いたんです。その点、kintoneもドラッグ&ドロップでパーツを配置するだけで、システムが組める。今で言うノーコードツールなんですが、私からするとGUIの感動と同じ。30年でこんなに進化したんだって思いました。
大谷:それでイヤイヤ始めたkintoneにはまっていくわけですね。
根崎:昨日知らなかったことを、今日知ることができる。それが毎日続くみたいな感じです。
1人で勉強するのもつまらないので、サイボウズの日本橋オフィスによく行ってました。週4勤務だったので、平日の無料セミナーがあったら、必ず予定に入れてました。話を聞いているだけでしたが、知らなかったことを知ると、すぐに触ってみたくなります。
承認欲求が強いタイプなので、できたことを誰かに見せて「へえー」と言われると、また調子に乗って学んでしまう。「こういうことできますか?」と聞かれたら、心の中はガッツポーズして、作ってしまうんです。こうしてドンドンはまってしまう。
大谷:失礼ながら、お話を聞くと、調子に乗るタイプでもありますね。
根崎:よくおわかりで(笑)。ありがたかったのは、日本橋に集まってきた人とつながれたことです。この歳でいっぱい友達ができるのが、うれしかった。kintoneのおかげなんですけど、再雇用の期間は本当に幸せな時期でした。
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