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ついに独自開発DAC搭載に踏み切る、Astell&Kern「A&futura SE300」

2023年05月15日 13時00分更新

とんがった機能を持つA&futuraシリーズ

 5月12日にAstell & Kernから驚くような新製品のリリースがあった。

 それは独自FPGAとDAC、さらにA級とAB級アンプの切り替えまで実現した新世代モデル「A&futura SE300」である。A&futuraは、Astell & Kernのラインナップでは新技術を率先して導入していくシリーズであり、過去にはESS Technologyと旭化成エレクトロニクス(AKM)のDACを別個に採用し、DACメーカーの違いによる音の違いを楽しめるSE200やDACモジュール交換式のSE180などがあった。

 SE300は興味深いことにFPGAを含む、自社開発のDACモジュールを搭載したことになる。しかも、そのDACの形式は一般的なΔΣ(デルタシグマ)形式ではなく、R2R形式を採用している。R2R形式はデルタシグマの1bit形式との対比でマルチビット形式とも言われている。デルタシグマ形式のDACでは、内部処理の関係で、マルチビットのPCM信号を扱う際、1bitの形式に変換する処理が必須となるが、それがデジタル臭い音になる理由だという人もいる。R2Rではマルチビット信号のまま扱うので、この変換が必要ない。結果として「オーディオらしい豊かな音につながる」と言う人もいる。

 反面、R2RはResistor-to-Resistorの略だが、この名称から分かる通り、たくさんの抵抗を組み合わせてD/A変換するので、抵抗の精度が問題となる。SE300のR2R DACはディスクリートで組まれており、48組96個(23×R、25×2R)ある抵抗を誤差0.01%と超精密なものとし、かつ選別品を使用している。

 DAC側でオーバーサンプリング(OS)とノンオーバーサンプリング(NOS)モードの切り替えができるのも、R2R DACらしい仕様だ。オーバーサンプリング処理は、DAC内部のS/Nを高める効果が得られるが、その処理を省くNOSモードは「味がある音になる」とも言われており、オーディオマニアの間では支持者も少なくはない。OSモードは一般的だが、こちらはS/N感が高い端正な再生が期待できる。

 筆者の想像とはなるが、おそらくOSモードではqdcの「Folk」のような「味系」の高性能イヤホンと相性が良いことだろう。NOSモードは同じqdcでいうと「TIGER」のようなモニター系の高性能イヤホンと相性が良いのではないかと思う。

 まだ詳しくはわからないが、独自設計のFPGAはR2R DACの前段に置かれ、このモード切り替えにも関係していると考えられる。

A級増幅とAB級増幅が選べるアンプにも注目

 また、A級増幅とAB級増幅を切り替え可能なアンプ技術を搭載した点も注目だ。

 一般的にA級増幅では滑らかな音が期待され、AB級では高出力が期待される。それを切り替えることができるわけだ。これは「AK PA10」で採用した、「カレントコントロール」の発展技術ではないかと推測している。これはA級アンプのバイアス電圧を可変にする機構だ。もちろんバランス出力に対応していて、バランス出力時には最大6Vrmsの高出力を実現しているという。 

 R2R DACとA級アンプの組み合わせはアナログ的で滑らかな音を期待させ、Astell & Kernが今後目指していく音の方向性が何かについて考えさせられる。Astell & Kernのサウンドポリシーは「A&Ultima SP3000」までは低ノイズを指向していたように思えたが、AK PA10以降は、アナログ的でオーディオらしい新しい音を目指しているようにも思われる。

 最近のオーディオ業界では、DAC ICを作れるメーカーが限定されていたり、供給が世界的に不安定になっていたりする理由で、独自DACの開発に乗り出すメーカーが多くなってきた。パーツ選定の自由度が高く、こだわった音作りができるが、業界をリードするAstell & Kernまで独自開発を進めていたとは驚きだし、独自DAC採用の動きを加速していくのだはないだろうか。

 こういった意味でも注目の製品となるのではないだろうか。

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