「INNOVATION LEAGUE 2022」のネットワーキングイベント
FIFAワールドカップ カタール 2022で見せたソニー、Abemaのテクノロジーの進化
2023年2月7日、CIC Tokyoにて、「INNOVATION LEAGUE2022」のネットワーキングイベントが開催。「スポーツ業界の識者が登壇するスペシャルセッションやネットワーキング(交流会)が行なわれた。
「INNOVATION LEAGUE」では、スポーツの成長産業化を目的に、スポーツ界とさまざまな産業をつなげ、新しいビジネス・サービスの創出を推進している。その取り組みをより進めるために行われたのが今回のイベントだ。業界の実情やスポーツビジネスの今後について識者の意見を聞き、関係者同士で交流を図ることで、スポーツビジネスにおけるイノベーションの加速に貢献しようというのが狙いとなっている。
ソニーが持つ最新のスポーツテクノロジー
本イベントの目玉だったのが、「テクノロジーの進化が与える視聴体験の進化」をテーマにしたスペシャルセッション。ソニー株式会社の山本太郎氏、株式会社AbemaTVの塚本泰隆氏が登壇し、AGI Creative Labo株式会社 CEO 上野直彦氏モデレートのもと、スポーツ業界で注目されているテクノロジーやその影響、また今後どのように活用されていくのかを語った。
まずは、ソニーの山本氏がパルスライブ、ホークアイ、ビヨンドスポーツのソニーグループの3社を紹介。
パルスライブは、主に「デジタルファンエンゲージメント」を手掛ける企業だ。例えば、プレミアリーグ(イギリスのサッカーリーグ)のアプリ制作や運用、OTT事業では「Tennis TV」(ATPワールドツアーの試合中継サービス)にも関わっている。
また、ソニーが2022年に11月にソニー傘下となったビヨンドスポーツは、トラッキングデータを基にしたビジュアライゼーション(可視化)技術が高く評価されている。例えば、2022年には、NHLの試合映像を解析し、選手の動きとシンクロする形でオリジナルアバターが試合を行う映像をリアルタイムで配信。NFLでも同様の取り組みを行い、新しい視聴体験だとして大きな話題となった。
ホークアイは、山本氏が日本事業の統括とアジアパシフィックエリアの展開を担う事業だ。特に、サッカーのVARなどビデオリプレイ、選手の骨格データのトラッキング、データの解析を行うインサイトといった3つの技術で活躍している。
今回のイベントでは、最新技術の「スケールトラック」を紹介。複数のカメラ映像からボールの位置や、選手の動きを骨格から解析するというもの。このデータを基に正確な3DCGモデルが再現できるため、例えば「特定の選手だけの動きを試合終了までCGモデル映像で見る」、「選手のドリブル速度やヘディング時の高さを表示する」など、「新しい視聴体験」が可能になる。
ソニーは、マンチェスター・シティと提携し、メタバースを活用して新しいオンラインファンコミュニティを形成すると発表した。こうしたファンエンゲージメントの最大化も今後の目標とのことだ。
山本氏は、ソニーの今後の取り組みについて「パルスライブ、ホークアイ、ビヨンドスポーツの3つの企業のシナジー」がポイントになると話す。特にトラッキング技術の向上が目立つ中、世界的に注目される3社を持つソニーがどのようなコンテンツを生み出すのか注目だ。
AbemaTVがワールドカップ配信で目指したものとは?
次にAbemaTVの塚本氏が「カタールワールドカップ全試合中継」での取り組みを例に、AbemaTVが目指す「新しい視聴体験像」を語った。
そもそもAbemaTVはテレビとビデオのハイブリッドを掲げているメディアだ。従来のテレビの良さとインターネットならではの強みを組み合わせることで、新しい視聴体験の提供を目指している。塚本氏によると、今回のワールドカップ配信でAbemaTVが掲げたのが「いつでもどこでもなんどでも」だ。つまり、時間と場所、デバイスの制約なく好きなコンテンツを楽しむ環境を作ることを目指した。
塚本氏によれば、「いつでもどこでもなんどでも」を実現するために、大きく4つの目標を掲げたと話す。まずは「配信インフラと映像クオリティーの向上」だ。インターネットでサッカー中継を行なう上で、従来のテレビ中継と同じような映像クオリティーを実現した。
また、「現地時間に合わせてスタジオの空の色を変える」など、遠く離れたカタールの雰囲気を日本の視聴者に届ける工夫も行われた。スタジアムにいるような空間演出も、没入感を高める上では欠かせないポイントだ。
他には、サッカーが詳しくない人でも楽しめるよう試合の流れやルールの解説を行う、サッカー観戦に慣れている人にはマルチアングル映像を楽しんでもらうなど、サッカー初心者にも楽しんでもらえるようなコンテンツ提供も行なわれた。
塚本氏によると「ユーザーそれぞれに合った視聴習慣作り」も重視したポイントとのこと。日本戦はリアルタイム、その他は後で見る、ハイライトだけチェックするなど、ユーザーそれぞれの視聴パターンに合わせた視聴方法の案内や、試合結果がすぐに分からないようにページを工夫するなど、さまざまな試みが行なわれた。
結果的に、ワールドカップ配信中にWAU(ウィークリーアクティブユーザー)が3400万人を突破。ダウンロード数は9300万に達するなど、大きな反響を得ることに成功した。また、ワールドカップ期間中に登録したユーザーの多くは、大会終了後もAbemaTVのコンテンツを楽しんでいるという。AbemaTVが行ったワールドカップ配信での工夫は成功だったといえる。
今回のワールドカップに限らず、AbemaTVではテクノロジーを活用した新しい映像体験を提供している。例えば、将棋ではAIにより自動で形勢判断するシステムを導入したり、麻雀のMリーグの配信では映像認識技術を用いて、各選手の状況を画面上で紹介するなど、ライトな層でも楽しめる工夫が行われている。塚本氏は「スポーツというコンテンツをどのように届け、楽しんでもらえるのか、生活の中にいかに入っていけるのかは今後も大きなチャレンジになる。テクノロジーでどのように視聴体験を変えていけるのか模索していきたい」と話した。
トークセッション終了後にはネットワーキングを開催
本イベントでは、他にも「川崎ブレイブサンダース」の藤掛直人氏、「TikTok Japan」の山口裕平が登壇し、ファン目線でのコンテンツ提供についてトークセッションを展開。また、トークセッション終了後にはイベント参加者によるネットワーキングも開催され、スポーツビジネスやスポーツチームの関係者が交流を図った。
ネットワーキング会場には、ソニーの最新技術を用いた、3Dメガネなしで3D映像が楽しめる「空間再現ディスプレー」も展示。多くの参加者が、3Dメガネなしで楽しめる映像を体験した。
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