春は出会いと別れの季節……と昔から言うよね、と思ったとき、ふと思い出したのである。街猫との別れを。
10年ちょっと前のこと、たまたまいつもと違う道を通ったら、小さな地元の喫茶店の前に猫がいたのである。白黒のハチワレなのだけど、鼻の周りが三角形に黒くなってるのが印象的で。以来、意識してその道を通るようにしてたら、けっこう高い確率で店の前でごろごろしてるのだ。すごく人慣れしてて、近づいても逃げないし、時には撫でさせてくれる。
時折、扉の前で開くのを待ってる。たまたまお店の人と目が合ったので聞いてみると、名前はミーちゃん。元は野良猫で、いつの間にか世話をするようになったそうな。でも飲食店だからお店に入れないし、猫も無理やり店に入ったりはしないそうで、頼りにならない門番という感じ。
それから数年たった2018年頃、いつものように撫でてやると、なんかちょっと痩せてる気がする。
そして2019年の1月、元気でいるかなと様子を見に行くと、お店の前に紙が貼ってある。2018年のクリスマスイブの日に亡くなっていたのである。「虹の橋を渡った」と言ったほうがいいか。
そこには、17年前の子猫だったときのこと、いつも店の前にいてみんなに愛されていたことが書かれている。なんと17歳だったのだ。外の猫としてはかなり長生きじゃないか。
常連さんや近所の人や通りがかりの人に愛されていたのだなあ。こちとら単なる通りすがりの猫好きなんだが、そういう人にもわかるよう知らせてくれるのは大変ありがたい。遊んでくれてありがとう、と思わず手を合わせる。
特定のおうちが世話してる場合は、こうして貼り紙で知らせてくれるが、多くの外猫・地域猫はそうじゃない。でも、ひっそりとそれとなくわかる人にはわかるよう、サインが置かれることもある。
その黒猫に出会ったのは2019年の夜。深夜、コンビニ帰りだったか、普段通らない道を通ったとき、暗闇で黒い塊がうごめいてたのである。手元にあったのはiPhone XS。「ナイトモード」なんて便利な機能はなかったので、少しでも街灯の近くに誘導して(人懐こかったのだ)、そっと撮ったのがこちらだ。
その翌年、あの黒い猫はいるかな、と近くへ散歩に行ったら、道路沿いの古い民家の草ボウボウの庭で気持ちよさそうに寝てたのである。目が合ったので呼んでみたら、むくっと起き上がり、とととと駆けてきて、目の前の塀をうにっとよじ登ってきたのだ。
けっこう高低差があったのでびっくり。すぐ横に猫が余裕ですり抜けられる門扉があるのに、塀の上から呼んだら、ちゃんと塀によじ登ってきた律儀な黒猫だったのだ。エライ。
そして塀の上でペロリ。人間と同じ目の高さになるから、猫にはちょうどいいのだろう。
誰が世話をしているのかはわからなかったが、ちゃんと去勢されてるし(耳がカットされてる)、そもそも近隣の人しか歩かない狭い生活道路であるのだが、通り過ぎる人の多くが猫を確認して声をかけてる。
冒頭の1枚も、この黒猫。人懐こくて、指を出すとくんくんと匂いを嗅いでくれた。その黒猫も、冬になると姿を見せなくなり、寒くなってきたからどこかに隠れてるのかな、このあたりは旧家が何軒かあって、そのお庭のどこかでくつろいでるのかなと思ってたのである。
それが、翌年の正月、今日も黒猫の姿を見ないなあとキョロキョロしながら歩いてたら、小さな三差路(場所的には、深夜に見かけた場所と塀をよじ登った場所のちょうど中間)にひっそりと花が置かれていたのだ。よく見ると、花の横に小さな黒猫の人形が置いてあり、猫餌とおぼしき袋と水が供えられている。
ああ、きっと年末あたりに病気か事故で亡くなってしまい、かわいがっていた方が、供養のためにひっそりと花や餌を備えたのだ。特に何も書いてないけれども、小さな黒猫の人形を置くことで伝わる人には伝わる。合掌。
もし私の勘違いなら黒猫に失礼だなと、この道をちょくちょく通るようにしてるのだが、その後2年以上会えてない。喫茶店前の猫は17歳というので外猫としてはもうかなりの高齢だったけど、こちらの黒猫はまだ若く、健康そうだったので事故だったのかもしれない。
と、寂しい話が2つ続いたので、最後は別の方向で。
駅の近くにある、とある暗渠沿いのアパート。1Fが飲食店。雨まじりの日、ぶらぶら歩いてたらアパートの脇で老夫婦(違ってたらすまん)が何か覗き込んでる。そっと近づいてみると、猫が2匹。壁の脇に猫ベッドがあり、雨が当たらないようビニール傘が固定されてて、その下でちょこんと座ったりくつろいだりしてるではないか。
このあたりは、たまに歩いていたのに猫に出会ったのは初めて。普段、晴れた昼間はここにはおらず、たまたま小雨が降ってたので会えたのだろう。晴れた日に近くの草むらで昼寝してる姿を見かけたことはあるけど、ここで丸くなって寝てたのはいつも雨の日だった。
そして2022年の秋。今日はいるかな、と立ち寄ってみると、猫の代わりに「愛猫家の皆様へ」と書かれたプリントが置いてあるではないか。
ああ、また残念な話なのかとよく読んでみると、軒先を借りていた家の家主の都合もあって、立ち退かねばならなくなり、キジトラの「きじちゃん」とチャシロの「しろちゃ」はそれぞれなじみの人に引き取られたとある。地域猫から飼い猫になったのだ。
ああよかった。こうして報告してもらえるとうれしいものですな。
地域猫としてかわいがられていても、室内猫よりも寿命は短いし、里親さんが見つかって引き取られることもあるわけで、会いたい猫には会えるときに会っておきましょう。
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筆者紹介─荻窪 圭
老舗のデジタル系ライターだが、最近はMacとデジカメがメイン。ウェブ媒体やカメラ雑誌などに連載を持ちつつ、毎月何かしらの新型デジカメをレビューをしている。趣味はネコと自転車と古道散歩。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジカメ撮影の知恵 (宝島社新書) (宝島社新書)』(宝島社新書)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『東京古道散歩』(中経文庫)、『古地図とめぐる東京歴史探訪』(ソフトバンク新書)、『古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド 』(玄光社MOOK)。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/
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