スポーツ業界が抱える課題のひとつが「人材確保」だ。特に、ビジネス面でチームを支えるようなプロフェッショナルな人材が不足している状況のため、人材確保だけでなく、これからのスポーツ業界を担う人材の「育成」も必要になっている。今回は、スポーツビジネス人材を育成する取り組みとして、「ぴあスポーツビジネスプログラム」を紹介する。
現場に立つ人材を意識したプログラムを実施
「ぴあスポーツビジネスプログラム」は、チケット事業を行う「ぴあ株式会社」が展開するビジネススクールだ。チケッティングやファンクラブ運営の知識やスキル、さらにはスポーツビジネスに関する考え方を学ぶことができるもので、2021年に第1期がスタートし、今年で2期目を迎える。
受講期間は7ヵ月(2022年は4月から10月まで)で、講義は各週の土曜日、計21回が行われる。参加対象は、スポーツビジネス界への転職・就職を目指す社会人や、スポーツビジネス界に興味のある学生となっており、特に年齢制限は設けられていない。
この7ヵ月間で、スポーツの概論からスポーツビジネススキルやチケッティングスキル、ファンクラブ運営のノウハウのほか、興行における収益構造、スポーツビジネスの原理原則といったプロフェッショナルな知識を学ぶ。
講義にはスポーツクラブの事業部長、スポーツ団体のマーケティングリーダーといった、現場の最前線に立つトップを招聘。同プログラムヘッドマスターの永島誠氏(ぴあ スポーツ・ソリューション推進局長)は「机上の空論ではなく、現場で実際に起こっていること、必要とされるスキルなど、実践的なスキルが学べるプログラムになっている」と語る。
スポーツチームの多くが育成に苦労
「ぴあスポーツビジネスプログラム」の構想が立ち上がったのは約2年前。永島ヘッドマスターによると、スポーツ業界で何が一番困っているのかを現場の人間に聞き取った際、とにかく即戦力が不足しており、特にチケッティング、ファンクラブ運営ができる人間がいないという声が多数寄せられたという。採用を行っているものの、経験がない人がほとんどのため、スポーツチームの多くが育成に苦労していたのだ。
そのため、スポーツ業界ともつながりの強い同社に「良い人材がいればこちらに出向させてもらえないか」という要望も多かったという。しかし、優秀な人材が無尽蔵にいるわけではない。それなら自分たちで優秀な人材を育成し、スポーツ業界に送り出せばいいのではと考え、同プログラムを立ち上げるに至ったという。また、「ぴあ」が「チケッティング、ファンクラブ運営のノウハウ」を持っていることも、プログラム実現の追い風となった。
第1期は、2021年4月から10月まで実施され22名が受講。第2期目となる2022年は23名が参加。先述のように、2022年10月までの7ヵ月間、多様なアプローチでスポーツビジネスのノウハウを学ぶ。
学生にとっても貴重な経験が得られるプログラム
今回で2期目とまだ歴史は浅いが、早くも優秀な実績を残している。第1期の参加者のうち、社会人の何名かがスポーツチームやスポーツ団体に就職、転職を果たしている。「ぴあ株式会社」が持つスポーツビジネス界との強いネットワークという後押しもあるだろうが、受講者が熱意を持って学び、自分の力に変えていった結果ともいえる。
また、事務局を担当する酒向悠馬氏(ぴあ スポーツ・ソリューション推進局ユニット長)によれば、第一期卒業生の中でスポーツ関連の企業に就職したのは全て社会人受講生。大学生の受講生も、当初は「新卒でスポーツチームに入りたいと」いう考えはあったものの、プログラムの中で学ぶにつれ、自らの社会経験やスキル不足を痛感。この状態ではスポーツ業界で何もできないと感じ、社会経験を積んでからスポーツ業界に貢献していきたいと考えるように変わったという。
実際に、スポーツ業界が求めるのは即戦力。業界経験がない、さらには社会経験がない人材の育成は避けたいというのが現状だ。単に「スポーツ業界は楽しいですよ」とPRするのではなく、スポーツ業界で働くことの「難しさ」など、リアルな実情を学べるというのも、同プログラムの特徴だといえる。
地方人材の育成が課題
同プログラムの今後について永島ヘッドマスターは「今後は地方とのつながりを強化していきたい」と話す。首都圏など人口の多い地域のスポーツチームには人が集まりやすいが、人口減少地域などでは人材確保がさらに難しく、「地方ほど人材を欲している」のが現状だ。しかし、首都圏で優秀な人材を育成しても、そこから地方のチームに行ってもらえるとは限らない。
今後は対面で行なう講義とオンライン講義をうまく組わせることで、地方在住者でも受講しやすいプログラム、環境を考えていくとのこと。特に社会人の場合、結婚しているなどすでに生活基盤を築いていると他の地域に動くのは困難だ。地方にいながら受講し、その地域のスポーツチームに就職できるような仕組みができれば、スポーツチームだけでなく、自治体にとっても魅力的な取り組みになるはずだ。
スポーツに関するビジネススクールは「経営人材の輩出」を意識したものが多いが、「ぴあスポーツビジネスプログラム」は「現場に立つ人材」によりフォーカスした内容になっている。ここから羽ばたいていった人材が、将来スポーツ業界を背負って立つ存在になることを期待したい。
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