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世界屈指の人気都市・京都市がリードする観光課題対策、持続可能な未来の姿とは?

2022年06月20日 12時00分更新

 世界でも常にトップクラスの人気観光地・京都市では、季節ごとの繁閑差解消のために、20年ほど前から夜のライトアップ事業を推進するなど、策を多々講じてきた。近年は国内外の観光客が集中し、特にインバウンド急増による幾多の観光課題に立ち向かっていた矢先、コロナでいったんリセットの状況に。コロナ以前は、毎年がピークのようだった観光客数が激減するという、これまでにない事態を経て、今度は市民の経済、生活を守るため持続可能な観光のあり方の追求へと向かう。これからの観光は、むやみに人集めするだけでは成り立たない。そこには何が求められるのか? その意義や発展性とは? 京都市のさまざまな観光振興施策を統括する、京都市観光政策監の土橋聡憲氏に、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/京都市観光政策監 土橋聡憲

京都観光の総責任者・観光政策監

――まず、土橋さんの現職に至る経緯を

土橋「平成5年に京都市役所に入庁、最初の3年は区役所の納税課で、税金の徴収を担当しました。最初に観光の業務に就いたのは、平成21年11月です。その後、文化市民局市民スポーツ振興室で『京都マラソン』、平成27年度からは文化財の担当を。平成30年度から京都市観光協会に派遣され、2年間事務局長をしていた時は、事業を回していく仕事が多かったですね。例えば観光協会が運営する、二条城の売店の売上アップのために、新しいことを仕掛けたり」

――京都市観光協会と、京都市とは全然違うもの?

土橋「京都市観光協会は公益社団法人であり、約1500の会員から会費をいただいて運営しています。平成29年度からはDMO(観光地域づくり法人)認定を受け、京都観光全体をマネジメントしていく組織に生まれ変わり、成長している最中です。観光協会にはプロパー職員だけでなく、旅行会社や鉄道会社、京都市からの派遣職員など、いろいろな組織の方が集まっていて、また市役所とは全然違う組織になっています」

――京都市で観光に携わってこられたわけですが、観光協会に行かれたことで何か違う視点が得られたのでしょうか?

土橋「はい。より観光事業者の皆さんとの接点が多くなりました。それから近年は、京都市と観光協会が、両輪で京都の観光政策を進めており、京都市からの予算も増えています。京都市からの補助や委託によって、観光協会が運営するという形です。観光協会としては強みを活かして独自性を出しながら、一方で京都市の政策との整合性も、きちんと取らないといけない。両輪が同じ方向を向いて進むためには、市と観光協会の意思疎通が非常に重要で、両方の立場を経験している私としては、そのことを強く意識しています」

――これまでのキャリアが活かされています

土橋「双方の立場を知っているのは強みです。職員には、観光協会との関係は主従関係ではなく、京都の観光政策を進めるパートナーであることを常に言っています」

――観光政策監とはあまり聞き慣れないが、どんな役職ですか?

土橋「令和3年度から観光政策監に就任しました。観光は非常に幅広い分野にまたがるので、特定の局に属さず、横断的に観光政策を進める立場になります」

――京都の観光に関しては、土橋さんが総責任者なのですね。コロナ禍で大変なタイミングでした…

土橋「そうですね。観光協会2年目の最後2か月は、コロナで本当に観光客がいなくなりました。非常に厳しい状況が今も続いています」

「京の七夕」「京都・花灯路」イベント開催で通年型・宿泊観光の増加と繁閑差の縮小を

「京の七夕」は“一年に一度、願いごとをする”という七夕にちなみ、「願いごと」を募集して、集まった短冊を清水寺で焚き上げるイベント(写真左)。寺社や文化遺産や街並みを、露地行灯や花で装飾する「京都・花灯路」。東山(同右上)では毎年3月、嵐山(同右下)では12月に行われていた

――「京都・花灯路」は、非常にユニークな事業で面白い

土橋「『花灯路』(はなとうろ)は通年型観光、宿泊観光を推進するためのリーディング事業として、京都市、京都府、京都市商工会議所、京都仏教会などオール京都体制で、平成15年から東山、平成17年から嵐山で始まりました。東山は3月、嵐山は12月の閑散期の開催です。京都を訪れる観光客は春と秋に多く、冬は少ないので、観光客数の月別平準化を図る狙いもあったわけです。

 『花灯路』の効果はもちろん、インバウンドの増加などにより、平成15年度の月別繁閑差が最大3.6倍であったところ、令和元年度に1.3倍にまで縮まりました。通年型観光を進めてきた実績が上がってきています」

 ――その「花灯路」は今年で最後。なぜ終わってしまうのか? また、今後にどうつないでいく?

土橋「事業を開始して20年。寺院神社や民間事業者によるライトアップイベントも盛んになり、当初の目的はひとまず果たせました。しかし、夜観光は宿泊観光、滞在型観光を進める上ですごく大事なので、これからは周辺部も含め、さまざまな場所で地域と民間の主導でやっていただきたいと考えています。地域が、そのエリアの魅力を発信、また掘り起こしをしていくことで市内全域、周辺地域への回遊を促すことが重要になってきます。

 今後は、地域団体や民間事業者に行灯を貸し出したり、『花灯路』の名称を使っていただけるようにすることも検討中です。そのような形で、地域全体で多様な魅力を発信していければいいし、私たちは広報面などで支援していきたい、と思います」

――「京の七夕」の立ち上げから観光に関わった土橋さんは、「花灯路」のラストを見届ける。この事業の最後にも携わられた

土橋「そうなりますね。『花灯路』には通算7年携わったので、さみしいです」

――「花灯路」が終わるのは残念だけど、桜と紅葉の時期に集中していた観光客の平準化、通年化に寄与したことは間違いないところ

土橋「通年型観光を進める理由は、観光客の平準化を図ることもあるのですが、特に春秋だけが忙しいと、観光業に携わる人が正職員や正社員ではなく、非正規雇用が増えてしまいます。安定した雇用、観光業の担い手の育成という面からも、月別の繁閑差を小さくしていくことが必要なんです」

“観光公害”と呼ばないで! 雇用者の2割が観光に従事する京都市の“観光課題”対策

――入国制限の緩和などで観光客が本格的に戻ってくると、コロナ前のように“観光公害”がまたクローズアップされる

土橋「私は“観光公害”という言葉は使うべきではないと思っています。観光客にも失礼ですし、観光業の方にしても『自分たちが公害を引き起こしている原因を作っているのか』と、肩身の狭い思いをして、観光の仕事に誇りを持つことができなくなるかもしれません。統計では、京都市で働く5人にひとりが観光関連に従事していますしね」

――市民の雇用の2割を占めるとは大きい

土橋「コロナ前に課題がなかった、ということでは決してなく、“公害”と呼ぶのが良くないということです。私たちは“観光課題”や、“一部観光地の混雑”という言い方をしています。“観光公害”を使わないように、これからも働き掛けていきたいです」

――なるほど、確かにそうです。その“観光課題”については、いかがですか?

土橋「コロナ前は、特定の時期・時間帯・場所への集中や道路、バスの混雑の問題、観光客のマナー、市民生活への影響などがあり、これらの対策に追われていましたが、コロナでリセットされました。

 今後、観光客が戻ってきた時に、門川大作市長が『観光課題が生じていたコロナ拡大前の状態に戻さない』と申し上げているように、観光課題にしっかりと向き合いながら、市民生活との調和、市民にご理解いただける持続可能な観光を、これから進めていかなければならないと思っています。

 そして京都市では、これまで混雑対策として、時期、時間、場所の分散化に取り組んできています。具体的には、時間であれば朝・夜観光の推進です。『京の七夕』や『花灯路』は時間と時期の分散化、時期なら『京の冬の旅』『京の夏の旅』は、閑散期に実施しています。また、場所であれば『とっておきの京都~定番のその先へ~』プロジェクト。大原、山科、西京、京北、伏見、高雄の郊外エリアの魅力を発信することで、場所の分散化を図っています」

――混雑対策として、主要観光地の混雑予測をWEBで公開しているそう

土橋「はい。『観光快適度の見える化事業』ではビッグデータを活用し、主要な観光地の混雑予測を公開しています。赤は混雑、青なら比較的空いていることを、5段階で時間帯別・場所別に表示。あくまで予測ですが、これを見て混雑する時間帯を避けて下さればと。さらに、昨年から嵐山の竹林、伏見稲荷大社、錦商店街など9か所にライブカメラを設置して、ライブ動画も配信しています。予測だけでなく、リアルタイムの情報も参考にしてもらい、混雑を避けた快適な観光を促していけたらいいですね」

――混雑予測は旅行計画を立てるのに役立つし、ライブ映像はリアルタイムで状況が分かってありがたい

「とっておきの京都プロジェクト」で地元の魅力を発信! リピーター獲得へ

――「とっておきの京都プロジェクト」では、どんなチャレンジを?

土橋「先ほど申し上げたような地域で、まずプラットフォームとなるWEBサイトを立ち上げました。そこで各地域の魅力あふれる動画を見ることができます。またコンテンツに関しては、地域の方々がそれぞれの取組を投稿できるようになっていて、タイムリーな情報を発信できるようにしています。

 それと行政や観光協会が、特定の地域にずっと関わるのでは継続性がないので、その地域の方々が主体的に観光客向けの魅力発信や、受け入れ体制を整備しないといけないと思います。地域の事業者や団体が連携していく形が望ましいので、今年度の新規事業として、そのような取組を応援して自走を促していくことを予定しています」

――最近では、NHK朝ドラの前作「カムカムエヴリバディ」、アニメ「平家物語」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも、京都の知られざる名所が出てきます。ドラマやアニメの舞台になった土地が注目され、聖地巡礼する人も多いのでは?

土橋「『ブラタモリ』で御土居(豊臣秀吉が築いた土塁や環濠)が紹介された後には、かなり反響があって問い合わせが増えました。テレビの力はやはり大きいので、話題を作って京都の魅力を発信していきたいですね」

――御土居では、現在もツアーがたくさん実施されています

土橋「そのようです。鷹峯の御土居は結構キレイに残っていますし。そういうところから歴史を感じていただき、繰り返し来ていただくことができれば、場所の分散化にとっても有益です。京都に初めて来る方は、金閣寺や清水寺を訪れると思いますが、京都には数多くの魅力があるのでリピーターになっていただくことは、とても大切ですね」

観光の進化と新しいフェーズに向け京都が京都であり続けるために

――京都は、世界の人気都市ランキングでも常にトップクラス。これからの日本の観光のあり方と進化、次のフェーズへの先陣を切っているのでは?

土橋「コロナの影響で、観光客数が大きく変動する事態を経験し、京都における観光の重要性を、市民の皆さんも身をもって感じられたと思います。観光は、宿泊・飲食という直接的なものだけではなく、その周りにはクリーニング店さんや、食材の生産者さんたちもいるわけで、さまざまな業界に関係しているんですよね。

 一方では、コロナ禍で特に外国人観光客がいないので、京都らしい風情がある、静かな京都もいいよねという声もあります。両方のバランスを取っていくことが大切です。場所や時間の分散化などの施策はもちろん、市民の皆さんに、観光が市民生活にどのような良い影響をもたらしているか、をしっかり理解していただくことも重要です。

 観光事業者の方も、観光客に来てもらえさえすればいいということではなくて、地域に受け入れられる事業者であっていただきたいですね。町内会に加入することもそうですし、例えば宿泊施設なら災害が起こった時に、緊急避難場所として地域の住民を受け入れるといった、地域貢献を意識して取り組んでいただきたいと思います。

 京都市では、令和2年11月に『市民、観光客、観光事業者、従事者が、京都が京都であり続けるために大切にしたいこと』として、京都市観光行動基準(京都市観光モラル)を策定しました。市民生活と調和した持続可能な観光を実現するために、今後、観光モラルの実践を促していかなければ、と考えています。

 持続可能な観光という面では、観光によって市民の暮らしの豊かさが向上し、地域の文化、文化財の維持、継承に貢献することも大きな役割となってきます。また、観光は環境保全と相反するという話もありました。“飛び恥”(環境的負荷が高いとされる航空機利用を避けること)などです。これからの観光は、いかに環境への悪影響を抑えるかも大切になってくるでしょう。

 そういう意味で世界的にも、SDGsを意識した観光に取り組むことが求められています。持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)、責任ある観光(レスポンシブル・ツーリズム)とも言われますが、そのような観光が市民にも理解され、将来も成長していく観光になるはずです」

――どれを取っても重要なことで、観光そのものが変わってきています。ひとつの場所でも文化遺産もあれば、産業の歴史、水の流れ、地殻変動など、いろいろな要素がある。それらが多層的に重なるのがメタ観光という考え方ですが、そこで大切なのが、外部に対してだけではなく、自分たちの街を見直した時に京都という街の持つ、非常に豊かで複雑な成り立ちが理解できるということです。

 京都は本当に多くの要素、レイヤーが複雑多岐に重なってもいるので、土橋さんは“そもそも京都って単純じゃないんだよ”という事実を、ずっとアピールされてこられた気がします。そうすることで観光に携わる人は、自分たちの街にも詳しくなれるし、言い換えれば観光=街づくりになるのではないですか?

土橋「本当におっしゃる通りだと思いますね。門川市長もよく“観光は街づくり、人づくり”と言っていますし。

 京都に都が造られて1200年以上。応仁の乱で焼け野原になったり、いろんな危機があった中でも、文化が守られて長い間続いてきた、世界的にも稀有な都市です。人の暮らし、文化も含めて、京都の歴史そのものが、SDGsの理念ではないでしょうか。

 世界中の方に京都の歴史を知っていただいて、これからの自分たちの暮らしのあり方、その地域だけでなく地球全体にまで思いを巡らせるなど、SDGsの達成にも役割を果たす京都でありたいですね」

歴史的遺産の宝庫・京都市の文化財保存活用がリーディングモデルに!?

――ところで私、玉置も選考に関わった文化財の指定管理について(旧三井家下鴨別邸、岩倉具視幽棲旧宅、無鄰菴)。一般事業者が公的な部分の指定管理を行う取組ですが、現在では旧三井家も無鄰菴も活発に活動されています。ああいった文化財を民間が運営管理するという、民間の方々が我が事と捉えて活用方法を考えることは、とてもいいと思うんです

土橋「そうですね。旧三井家下鴨別邸は、取り壊されようとしていたのですが、保存運動が起こり、重要文化財に指定され、京都市が管理することになりました。旧三井家下鴨別邸は平成28年の公開当初から、指定管理者制度を入れているのですが、それ以前から京都市が管理していた無鄰菴と、岩倉具視幽棲旧宅は長い間直営で、単に建物を公開して入場料をいただくだけの施設でした。

 平成28年から指定管理者制度を導入し、民間事業者が入場料などの収入で運営管理することによって、無鄰菴や岩倉具視幽棲旧宅の庭園は、見違えるほどキレイになったし、多彩なイベント企画により、さらなる魅力を引き出すこともできています。文化財の保存と活用のモデルにもなるし、お客さんも喜んで下さるということで、これからの文化財保護は、このような形が重要になってくると思います」

――二条城×ネイキッドのコラボなど、二条城の活用が素晴らしいですね

土橋「実は、二条城は指定管理ではなく、京都市の直営なんです。ただ近年、活用の仕方を大きく変えています。例えば、民間事業者の方にイベント等で使っていただき、その収入の一部を京都市に収めていただくといったやり方をしています。それらの収入を約20年にわたる、本格修理事業費に充てていくという、これも保存と活用のモデルになる象徴的な取組のひとつです」

――ここ最近、文化庁が文化財の保存活用を発信していますが、まさに日本で最もたくさん文化財がある京都で、その財産を守りながら活用するのは、本当に難しいけれど、やりがいのある課題ですね

土橋「二条城の修復には、およそ100億円が必要で、半分は国から補助金が出ますが、残りの50億は京都市が確保しないといけない。それを厳しい財政の中で行っており、入城料はもちろんですが、一口城主といった寄付やイベントなどの事業実施によって、収入を上げて修理費に充てています。

  また、お金の面もありますけれど、やっぱり文化財の価値を多くの人に知っていただくことが、文化財を守っていくことにつながると思います。せっかく貴重な文化財があっても、それを維持継承していくことへの理解がなければ残すことはできないので、文化財的価値をご理解いただくために、いろんな取組をしているのです。

 若い人からご年配まで、多くの京都ファンを作っていき、観光の力で京都の大切な文化、文化財を次の世代につないでいきたいですね」

――昭和の特撮番組『怪奇大作戦』の「京都買います」という回で、「仏像を愛する人がいなくなったら京都は意味がないんですよ」と、現在につながる問題提起をしていましたが、やっぱり街を知ってもらって愛してもらうことが大事なんですよね

 コロナ禍の影響と対応、これからの持続可能な観光とは?

――コロナ禍もすでに2年半。いまだ終息していませんが、その影響や何か感じられたことは

土橋「まずコロナ禍で、観光事業者の方は非常に厳しい状況にあります。そして、先ほどもお話しましたが、さまざまな産業にも影響があり、観光の重要性を改めて知ったということ、それから持続可能な観光の回復にあたっては、やはり集客一辺倒では駄目だということです。観光は、政治情勢や災害、感染症によって、いきなりストップすることがあります。一部の地域の方々が急に来られなくなることは、これまでも起こっています。従って、そのリスクを少しでも分散させておくために、特定の地域に偏らないように欧米豪を中心にさまざまな国、地域へのプロモーションを行ってきたんですよね。

 でも今回のように、国内外からの観光客がすべて止まってしまったら、どうしようもありません。これからは、しっかりと地域に根差して京都市民の方にも、お客様として利用していただけるような経営の仕方が大切になると思います。以前から、そのような事業者もおられますが、コロナを経験して実際に取り組んでいる事業者もいらっしゃいます。

 観光客が来なくて厳しい時期でも、地元と上手くやっている宿泊施設であれば、地元の方々が食事や宿泊で利用してくれて助けられた、という話は聞きます。『コロナ前に戻さない』『市民生活との調和』と言ってきましたけれども、結局それが、観光事業者それぞれの皆さんの危機にも強く安定した経営にもつながる。地域に貢献して事業を続けていくとは、そういうことではないでしょうか。これからも行政側から良い事例を紹介しながら、しっかりと皆さんに周知していきたいですね」

――最後に読者へ伝えたいことを

土橋「これからの観光は、ただ訪れて見て帰るのではなく、その地域のためになることも併せて考えてもらうという姿に変わっていきます。単なる観光から、もう一歩踏み込んだ行動を取ることによって、その地域が元気になる。訪問地を市民の皆さん、訪れる皆さん、観光業者の皆さんとで、お互いに尊重しながら、さらに魅力ある場所にしていく。そういう動きを広げていきたいです。

 皆さんが観光に対する意識を変えていくこと。市民の皆さんもどこかに出掛ければ観光客ですし、観光客の皆さんも地元に戻れば市民です。欧米ではサステナブル・ツーリズムに対する意識が高いのですが、日本はまだまだそうとは言えない。持続可能な観光、訪問地や環境に配慮して貢献する観光が、これからのスタイルだということを、もっと多くの方に知ってほしいと思います」

今年の「祇園祭」は、通常の形式で7月1日(金)~31日(日)、3年ぶりに開催予定。寺社やあじさい園の特別公開も行われるので、インバウンドが戻る前に夏の京都を訪れてみては

 市民の雇用者の約2割が観光関連に従事するという、日本最大の観光都市・京都。20年前から、オーバーツーリズム緩和のため閑散期にイベントを開催、世界に誇る文化遺産の率先した保存活用など、観光と市民の暮らしの両立のために対応を重ねてきた。そして、近年のインバウンド急増による市内混雑、来訪客のモラルハザードなど観光課題の山積や、続くコロナ禍で経済的大打撃を被り、いまだダメージが癒えぬ中でも、したたかに観光都市としての進化を遂げている。その京都観光の要となる観光政策監を務め、横断的に取り仕切る土橋氏が目指すのは、来訪客、関連業者、在住市民の力を総合しての街づくり、人づくり。観光客だけでなく市民にも愛され、関わっている皆で地域の発展に協力する。それこそが観光の未来形なのだろう。

土橋聡憲(つちはし・としのり)●1968年生まれ。大阪府枚方市出身。8歳~12歳まで父親の仕事の関係でタイのバンコクで暮らす。1993年、京都市役所入庁。スポーツ振興、文化財保護などの担当を経て、2018年、京都市観光協会に派遣。2021年より現職。座右の銘は「日常五心(素直な心、反省の心、奉仕の心、謙虚な心、感謝の心)」。最近の趣味は御朱印集めと、幼少期に習っていたバイオリンの練習。

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現LOVEWalker総編集長、KADOKAWA拠点ブランディング・エグゼクティブプロデューサーほか、日本型IRビジネスリポート編集委員など。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。近況は「KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)や音楽家、プロデューサーとして知られる環境音楽の祖、ブライアン・イーノによる音と光の展覧会 『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』など、京都を彩るアートイベントに顔を出す傍ら、朝ドラ「カムカムエヴリバディ」ロケ地・賀茂川の飛び石を巡ったりと、メタ観光の聖地・京都を楽しむ今日この頃」とのこと。

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